第27話 水上都市ウォルタルのギルドマスター登場 その二

ボクは今、ウォルタルに向かうため、ギルドの馬車に乗っている。

というより、マリテレスさんに強制連行されているようなものだ。無理矢理連れ出されたのだから。


「あの、アンさん。アンさんが言っていたマリテレスさんの嗅覚が凄いってどういうことですか?」


「あぁ、それはね、マリテレスは魔力を匂いで覚えているのよ。私達には到底わからないし、理解もできない領域よ」


「あらあらぁ、なぁに?アンちゃんは私のことを人間じゃないみたいに思っていたのねぇ」


マリテレスさんがおよよと、嘘泣きをした。


「でも、マリテレスは気に入った人か、嫌いな人しか覚えないのよ。まるで犬よね。でも街の異常も早く気が付くから便利だわ」


「犬!?私犬なのぉ!?アンちゃん酷いわぁ!それに物みたいな扱いぃ!」


ボクもアンさんと同じ、マリテレスさんは犬だと思う。いや、犬より凄いだろう。ウォルタルから嗅ぎつけるんだから。奇行の理由もこれにあるのかもしれない。

でも、この人がギルドマスターなのか・・・不安だ。


「それよりもアンちゃんがアリスちゃん以外の人と一緒にいるなんてねぇ、彼女かしらぁ?」


「マリテレス、ノア君は男だよ。弟子でもあり、パーティーメンバーなの」


「この子は男の子だったのねぇ!・・・ボクっ娘じゃなくて?」


「違います。ボクはちゃんとした男です」


「ノアちゃんじゃなくてノア君はなのねぇ。でもノアちゃんって呼ぶわねぇ。だって可愛いんだものぉ」


「呼び方はなんでもいいですが、男ということを覚えてくれれば・・・」


女の子扱いも少し慣れてきてしまった。


「ノアちゃんはアンちゃんの弟子という事は剣姫の戦い方をしているのよねぇ?」


「そうだよ。まだ神速剣の連撃も六、七回までで、これから武具纏の練習と分身を作り出す練習ね。体の使い方はできているから」


「まだ剣姫に手をかけた段階なのねぇ。でも体の使い方がバッチリなら道は遠からずってところねぇ」


「近くもないけれどね。話が変わるけど、ウォルタルに着いたら宿探すから」


「それなら大丈夫よぉ。私がすでに用意しているからぁ」


親指を立ててグッとしてくる。


「とてもありがたいけれど・・・」


「けれど?」


「いえ、なんでそこまで用意が良いのかなと」


「アンちゃんの事ならなんでもお見通しよぉ!もちろん、アリスちゃんもねぇ!」


「・・・ストーカー的ね」


「酷いわぁ!良かれと思ってぇ!」


「予備群だわ。そうよね、ノア君」


「そうですね、アンさん」


「二人とも酷いわぁ!」


マリテレスさんはまた嘘泣きをしている。


「そういえば、アンちゃんは今回こそダンジョンは使うのかしらぁ?」


「ダンジョンは使わないわ。私はあの草原エリアだったり、遺跡エリアだったりころころ変わるのが嫌いだもの」


王都にはダンジョンはなかった。ちょっと気になる。


「あの、ダンジョンってどんな所なんですか?」


「ノア君は王都に住んでたから知らないのね」


アンさんはコホンと一つ咳をし、説明してくれた。


「ダンジョンはね・・・かくかくしかじかで・・・」


ダンジョンはいくつもの階層から出来ていて、草原や森、洞窟など色々なシチュエーションがある。ダンジョン内にはダンジョンコアの魔力と魔素によって魔物のが作られる。その魔物を倒すと黒い霧となり、ダンジョンに吸収される。素材は手に入らないが確率で魔石と呼ばれるものがドロップし、それは魔道具や研究に使われ、買い取られる。

ウォルタルのダンジョンの場合は十五階層まであり、五の倍数にボスがいる。ボスを倒すとチェックポイントとして魔法陣があり、ダンジョンの外の魔法陣と繋がっていて、最終階層以外はいつでも行き来出来る。一〜五階層は初級者、六〜十は中級者と難易度は上がる。

とのことだ。


「まぁ、私はダンジョンに潜ったことないから詳しい事は知らないわ」


それでも結構充分な情報だと思う。


「あとマリテレス。ウォルタルに着いても当分はノア君に修行を付けるから面倒くさい依頼持ってこないでね。簡単な依頼だけ受けに行くから」


「わかったわぁ。アリスちゃんも休暇に入っちゃって大変だけどAランクの冒険者でなんとかするわぁ。どうしようもない時は頼るわねぇ」


「わかったわ」


馬車はウォルタルに向かって行く。

ボクは外を眺めながらアンさんとマリテレスさんの話を聞いていた。






「アンさんはウォルタルでは英雄扱いなんですね!」


夕方、ボクとアンさんがギルドで馬車を降りて、宿に向かっていた時の出来事だ。

ウォルタルの人達にはアンさんの顔が知られているようで、通りすがりの人が気づくと声を掛けてくる。老若男女みんなが声を掛けてくる。

アンさんはありがとうと言っているが・・・、顔が少し引きつっていて面倒くさそうだった。

そして今現在・・・。


「はぁ、疲れたわ」


「お疲れ様です。でもボクとしては同じパーティーとして、アンさんの弟子として嬉しいですよ」


ボクとアンさんはマリテレスさんが用意してくれた宿にいる。お風呂は大浴場だが、部屋には鍵も付いていて安全性はバッチリだ。


「さて、明日の予定の話をしましょうか」


「そうですね」


「とりあえず、纏の修行ね」


「やっとですね!ずっとイメージトレーニングばっかりでしたから」


「纏が実戦で使いものになったら分身の修行に入るわ」


「分身ですか・・・難しそうですね」


「分身って言っても、緩急をつけて残像を残すのよ。まぁ、その話しはまた今度ね」


アンさんはそう言い、伸びをした。

そして。


「今日はもう休みましょうか」


「はい!」


入浴を済ませ、ベッドに倒れ込み、眠りについた。

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