第26話 水上都市ウォルタルのギルドマスター登場 その一

ボクが病院で目覚めてから二日が経ち、退院した。治癒魔法の時の激痛はもう経験したくないと思う程だった。

そして今、ボクとアンさんは馬車乗り場で次の行き先へ向かう為に待っているところだ。


「結局、花園見れませんでしたね」


「仕方ないわ。不幸の不幸が重なったもの」


「またルミリアに寄った時に観光しましょう」


「そうね。この話はお終いにして、次の目的地の話をしましょうか。」


「はい」


ボクはアンさんの提案に頷いた。


「次で経由する町は最後になるわ。ヴァッサという町よ」


「ヴァッサという町にはなにかあったりしますか?」


「この町は特に何も無いわ。強いて言うなら水車と川が美しい町ってぐらいね」


「なんというか、のどかというのがピッタリな感じですね」


「そうね。まさにその通りだわ。精神的な休養が必要な人がよく行くらしいもの」


「なんか白魔法が町全体にかかっているみたいですね」


「えぇ。でも、白魔法では治せないものもあるわ。精神、心の病気は治せないわ」


「魔法も便利ではないって事ですね」


「全てに有効なものなんてないわ。そろそろ出発の時間ね」


「そうですね!」


ボクとアンさんは午前九時にルミリアの町を発った。





ボクとアンさんは7時間かけてヴァッサの町へ辿り着いた。ルミリアの時みたいに盗賊に出会う事もなく済んだ。


「アンさん、ヴァッサの町はこんなに穏やかなんですね」


「久しぶりに来たけれど落ち着くわ」


町の中に二本の川が流れている。一本は山から、もう一本はウォルタルがある湖から流れている。そしてこの町の中心で二本の川は合流し、海へと流れていくのだ。

今日はもう夕方だったが、穏やかな風が吹き、魔法具の街灯は優しいオレンジの光を放っている。

町というより、大きな公園の中に家やお店があるといった感じだ。


「まずは宿を取りましょうか」


「そうですね!」


ボクとアンさんは緑の苗木亭という宿で泊まる事になった。

この宿は木の温もりを感じる優しい雰囲気の宿だ。食事もきのこや山菜、川魚といった食材を使った料理で、とても美味しかった。今までパンとスープが多かったのでボクはとても幸せだ。


「アンさん、ここの料理美味しいですね!」


「川は町の中にあるけど、森と山は町外れにあるから危険もあるし、きっと冒険者に頼んで取ってきてもらっているんでしょう」


「薬草採取よりも報酬が良さそうですよね」


「どうでしょうね、でも薬草と違って山菜は食材だからね、毎日必要になるものね」


ボクとアンさんはこの町の事をボク達の想像で語った。歳を取ったらここに住んでゆっくりするのも良いかもしれない。


「ウォルタルはほとんど魚料理ばっかりよ。肉よりもヘルシーで美味しいわよ」


「湖の上にありますもんね!一層楽しみになってきました!」


ボクとアンさんは食事を終え、二人部屋の客室に向かった。各客室にお風呂が設備されているという良い宿だった。ルミリアの時と同じで高い宿なのだろう。アンさんに任せている為、いや、アンさんが選びたいと言って聞かないだけなんだけれども。

ボクとアンさんは客室に入るとアンさんが。


「先にお風呂入っていいわよ」


「わかりました」


ボクは、アンさんの言う通りに脱衣所へ向かい、服を脱ぎ、着替えを置き、お風呂への扉を開けた。そこは昨日香りが漂う大きめのお風呂があった。


「ルミリアは花の香りだったけどヴァッサは木の香りなんだな」


ボクはいいお風呂だ。と思いながら体を洗おうとした。

しかし、そのタイミングで扉が急に開いた。そこにはタオル1枚を体に巻いているアンさんがいた。


「なんで入ってくるんですか!!」


ボクは叫んだ。





アンジェリカ(アン)side


私はノア君を先にお風呂へ行かせた。何故そうしたのか、それは一緒にお風呂に入る為だ!ノア君の見た目は背の高い女の子だし、姉妹がお風呂に入ってるように見えるわよ。だから許されるのよ。


「さて、ノア君はお風呂場に入ったかな?」


私はタイミングをみて脱衣所に入り、服を脱ぎ、タオルを体に巻いてお風呂場の扉を開けた。


「なんで入ってくるんですか!!」


「一緒に入ろうと思って」


「アンさんは女性なんですよ!?ボクは男ですよ!?こん、こんなこと・・・」


ノア君は顔を真っ赤にし、目が右往左往している。この慌てようは私も驚いた。


「ノア君は幼馴染ちゃんと一緒に暮らしてたのに免疫が無いのね」


「あ、あたり、当たり前じゃにゃいですきゃ!」


なんだろう、ノア君が凄く慌てているお陰で、冷静になれたわ。


「まぁまぁ、ノア君。今日は私が背中を流してあげるわよ」


「なっ・・・」


ノア君が完全に固まってしまった。そして大人しくなってしまった。刺激が強かったのかしら。私はノア君を椅子に座らせ背中を石鹸で洗う。


「本当にノア君って男なの?この綺麗な肌はなによ、すべすべだし、ズルいわね」


「アンさんの方が綺麗じゃないですか」


「ノア君ってサラッとそういう事言うわよね」


私はノア君とそんな事を話しながら背中を流した。


「さて、次は前ね」


「ふぇ?」


「前も洗ってあげるわよ」


「それば絶対にダメです!断固拒否します!男にもいろいろあるんです!」


「なに言ってるの。女と違って減るものなんてないでしょう?」


私はそう言い、ノア君の腰に巻いてあるタオルを奪った。

そこには。


「・・・ノア君の・・・ノア君は野獣なのね・・・」


私はそう言い呟いた。だって野獣だと思わなかったのよ。

私のこの行動のせいでノア君が涙目になってしまった。ノア君には減るものがあったみたい。


「アンさん、酷いですよ・・・」


「えっと、その、逞しいわね!」


「うぅ、うわぁーー!」


ノア君はお風呂場から脱衣所に走って逃げてしまった。


「やってしまった」


私はノア君のプライドを傷つけてしまった。私は一人寂しくお風呂に浸かる事にした。

その後、翌朝になるまで口を聞いてくれなかった。

私はお風呂での失敗をいつかお風呂でリベンジする事を誓った。





翌朝。

ボクはアンさんの謝罪を受け入れ、仲直りをした。したというより、してあげたの方が正しい。プライドは傷ついたけどアンさんは良かれと思ってやった事だ。ボクも落ち着けばそれぐらいわかる。


「本当ごめんなさい」


「アンさん、謝罪はもう受け取りました。そろそろ平常運転に戻ってください」


「でも・・・」


こんなしおらしいアンさんは初めてだ。ボクはどうしていいかわからない。

すると。


コンコン


客室の扉がノックされた。

ボクは扉に向かって。


「どうぞ」


ガチャっと扉が開くとそこには、茶色い髪でボブカットの緑の瞳をした優しそうな女性がいた。一言で表すならお母さんと表すだろう。母性が全身から溢れている女性だ。


「やっぱりいたわぁ!アンちゃーん!」


その女性はアンさんの知り合いみたいだ。アリスみたいにSランクの人なのかな?

そしてアンさんの名前を言いながらもの凄い速度でアンさんに抱きついていた。見えなかった・・・。


「アンちゃーん!ぎゅー!」


「うぷっ!」


「アンちゃんの匂いがしたからヴァッサまで来ちゃったぁ!」


「んーー!むーーー!」


「あ、あの、アンさんの顔が青くなってますよ」


「あらぁ?まぁ大変!私ったらついぃ!」


アンさんはお母さんのような女性のメロンのような胸に窒息しかけていた。


「アンさん、大丈夫ですか?あと、この女性は?」


「ぷはぁ、ハァ、ハァ。ノア君、この人はウォルタルのギルドマスターよ。相変わらず馬鹿げた嗅覚しているわ」


なんと、このギルドマスターはウォルタルからアンさんの匂いを嗅ぎつけ、ヴァッサまで来たみたいだ。距離からして百キロ近くあるぞ。馬車で九時間〜十時間かかる。


「ギルドの馬車を使って昨日の夜にヴァッサに向かったのぉ!」


このギルドマスター大丈夫なのだろうか?それにギルドはどうなっているんだ?


「ノア君、マリテレスのこの奇行はいつもの事よ」


ギルドマスター、マリテレスさんのこの行動は奇行と言われ、結構な頻度で起こっているみたいだ。


「さて、アンちゃんもそこの可愛らしい彼女も、早速ウォルタルへ行きますよぉ!」


どうやらギルドの馬車で、もう、ウォルタルへ向かうみたいだ。ボクは女の子扱いなんですね。マリテレスさんはアンさんに抱きつき頬ずりしているし、大丈夫なのかな?

ボクは不安になるのだった。

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