第21話 ヌエ

森の中を歩くこと二時間。ボクとアンさんはほとんど光が射さない、鬱蒼とした所まで歩いて来た。僅かな光と、アンさんの手に持っているランタンの光を頼りに、魔物を探す。


「ノア君、多分相手はこの暗さでも私達を見つけられるほど目が良いと思うの。だから奇襲と待ち伏せには気をつけてね」


「はい。でもそんな相手に勝てるんですか?」


「私は剣姫よ?それに戦ってれば目もこの暗さに慣れるわ。ランタンなんて持っていられないもの」


「そうですね。目が慣れれば戦いやすくなりますね」


「Bランクの魔物か、それともAランクかどっちーー」


アンさんが何か言いかけて。


「ノア君!正面から来るわよ!」


アンさんがそう言うと、ランタンを地面に放り投げた。


『グルガアァァァ!』


鬱蒼とした木々を掻き分け、ボクとアンさんに飛びかかって来た。ボクとアンさんはステップを使いその場から左右に分かれた。

さっきまでボクとアンさんがいた場所には全長四、五メートル程の獣がいた。尻尾は蛇、胴は獅子、顔は猿になっている。


「ノア君!コイツはヌエよ!危険だから無理に接近しないこと!」


アンさんはそう叫んだ。ボクはヌエと言う魔物は初めて聞いたし、初めて見た。なにをどう気をつけていいのかわからない。ただ無理に接近しない事だけを意識した。

ボクが一瞬戸惑っていると。


『シュルルル』


ヌエの尻尾、蛇がボクに噛み付こうと迫って来た。

ボクは横へ跳んで避け、同時に蛇を切りつける。


ブシャァ


切り落とすことはできなかった。その蛇の尻尾が硬かったからだ。ボクは急いでヌエから距離を取った。

アンさんはヌエと正面から戦闘をしている。アンさんが押している。

ボクはアンさんがヌエを押しているのを確認し、チャンスだと思い、蛇を掻い潜り、ヌエの背中を攻撃しようと接近した。


「ノア君!止まって!」


アンさんが叫んだ。

しかしボクは既にステップを使い、ヌエの蛇を掻い潜ったところだった。


『グガアァァァ!』


ヌエが咆哮を上げ、その体が雷を纏い始めた。刹那、ボクの体は雷で痺れた。

う、動けない・・・、意識を持っていかれる。


ドンッ


ボクの動けなくなった体をヌエが蹴り飛ばした。今までに感じたことのない痛みと、衝撃が体を襲う。


「ガポッ」


今まで出たことのない音が口から出た。

ボクは口から血を吐き、あばらは折れ、地面を転がった。意識が朦朧とする。口の中が血の味で溢れている。


「ノア君ッ!!」


ボクはアンさんのその声を聞き、意識を失った。





アンジェリカ(アン)、サイド。


「ノア君ッ!!」


ヌエは別名、雷獣と呼ばれている。私がちゃんと説明していればノア君は重傷を負わなかったかもしれない。幸いなのはノア君の身体強化が優秀な事かしら。まともに蹴りを食らって重傷で済んだのは奇跡だ。死んでいてもおかしくないほど、綺麗にもらっていた。でも、早く決着をつけなくちゃね。

ヌエは雷を纏い、落雷を落とし、雷のブレスを吐く。本来は弓使いや、魔法使いに攻撃してもらいながら、剣士が隙を突くのが定石だ。でも、アンは剣姫、定石や常識は関係ない。


「こうなるならノア君に武具纏を仕込むべきだったわ」


私はヌエに接近した。ヌエはブレスを吐こうと、口に雷を溜め込んでいた。私は瞬間的にステップのスピードを上げ、緩急をつける。私は分身を三体作り、ヌエを翻弄した。ヌエは一人だった人間が四人に増えて、驚きで怯んだ。その隙を逃さず、私はヌエの蛇尻尾に回り込み、魔力を纏わせた剣で切り刻んだ。

蛇尻尾を失ったヌエは雷を纏い、落雷を周囲に落とした。

私は、即座に距離を取り、落雷をステップで避けた。


「そんなんじゃ私には当たらないわよ!」


私は纏っている雷が消えたと同時に接近する、ヌエは読んでいたかのように、前足で攻撃してきた。私は前宙で回避し、空中でひねり、剣で切りつける。着地と同時に、今度はバク宙をし、剣で切りつける。これを何度も繰り返し肉薄する。ノア君が惚れた剣術であり、剣舞だ。


「神速・蝶乃舞!・・・ノア君が見たら目をキラキラさせたんだろうな」


私はそう呟きながら攻撃した。


『ガアァァァ!』


ヌエが咆哮を上げ、体を回転させた。


「だから当たらないって!」


私はステップで後ろへ回避する。そしてヌエの顔に一瞬で接近し、その顔を切り刻む。


『ガ、ガァ』


ドスンッ


ヌエは情けない断末魔を上げ、血塗れの顔を地につけた。


「早くノア君にポーションを飲ませないと!」


私はリュックからポーションを二つ取り出し、ノア君の元に走った。


「防具がある程度守ってくれたのね、新調して良かったわ」


外傷もあるが思っていた程よりはマシだった。

しかし、問題は内臓だ。


「ノア君、絶対ポーション飲めないわよね・・・、これって口移ししないと・・・」


私は迷ってしまった。そう、口移しが恥ずかしくて。

でも、ノア君の命がかかっている!


「ノア君!これはノーカンだからね!」


私はポーションを口に含み、ノア君の柔らかい唇に触れた。そして舌をノア君の口の中へ侵入させ、ポーションを口移しした。

私の顔は真っ赤だろう。この事は私の内に秘めておくことにした。

それから数分かけ、ノア君に飲ませた。・・・疲れたわ。

後は蹴られたところにポーションをかけ、包帯を巻き、応急処置は完了した。


「さて、ルミリアの町へ戻りましょうか」


私はノア君を背負い、森の中を来た道へと戻っていった。


「ウォルタルに着いたら武具纏を教えなくちゃいけないわね」


私は今後について少し考えながら歩いた。

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