第20話 足止め

ボクとアンさんは二日かけ、ルミリアという町に着いた。もちろん夕暮れ時だ。

ボクとアンさんは宿を取った。町の高い位置にある宿だ。もちろん二人部屋だ。

二人部屋だからベッドは二つだと思っていた。


「キングサイズのベッドが一つ・・・」


ボクはアンさんの寝相を思い出した。またボクのスペースが侵略される。

今、アンさんは先にお風呂だ。なんとこの宿には各部屋にお風呂があり、露天風呂というらしい。まぁ、それなりに高い宿だったからかもしれない。

ちなみに選んだのはアンさんだ。


「ノア君、お風呂出たわよー」


アンさんは綺麗な赤い髪を濡らし、妖艶な雰囲気を出していた。ボクは惚けてしまっていた。


「・・・私になにかついてる?」


「つ、ついていませんよ!」


「そう。あっ!そうそうこのお風呂ね、お花が浮いてたのよ!お花の香りがして良かったわ!」


「それは凄いですね!ボクも早速入って来ます!」


ボクは惚けていたのを誤魔化すようにお風呂へ向かった。

脱衣所に着替えを置き、来ている服を脱いで、お風呂への扉を開けた。


「これは凄いや」


露天風呂から見える景色は町を眺めることができる。お風呂には色取り取りの花が浮かんでいて、美しかった。


「花園が有名なだけあるなぁ」


ボクは一時間ほどお風呂を満喫した。

着替えて部屋に戻ると、アンさんは既に眠っていた。寝相は・・・、まだ悪くなかった。

ボクはアンさんから少し距離をとってベッドに横になった。


「おやすみなさい、アンさん」


ボクはそう呟き、眠りに就いた。





翌朝、ボクが寝返りをうって目を覚ますと、目の前にアンさんの顔があった。柔らかそうな唇、美しい顔、花のいい香り。アンさんはボクに抱きついていて、ボクが寝返りをうったから抱き合うような形になっている。ボクは突然の事で数秒間動きが止まっていた。見惚れていたのもあったと思う。ボクは邪念を振り払うかのように頭を小さく横に振り、アンさんの腕から逃れ、ベッドから出た。


「・・・アンさん、朝から心臓に悪いですよ」


まだ眠っているアンさんに向かって言う。

ボクの心臓はバクバクと忙しなく動いていた。ライカもボクの前では無防備だったな。少し似てるな。

そう思っていると。


「ふあぁ、ノア君おはよ」


アンさんが起きた。あと少し早かったらヤバかった。殺されていたかもしれない。


「おはようございます、アンさん。テントの時みたいにまたボクの方に侵略してましたよ」


「そうなの?でもノア君は優しいから大丈夫でしょう?」


なにが大丈夫なのだろうか。理性を保つ身にもなって欲しい。


「それより今日の予定はどうしますか?」


「そうね。ウォルタルまでもう一つ町を経由するけど、次の町に行く為の馬車が明日なのよね」


「って事は今日は花園で観光でもしませんか?気になっていましたし」


「そうね。何回かこの町に来ているけど、行ったことなかったわ」


ボクとアンさんはルミリアの花園へ観光する事にした。





ボクとアンさんは朝食を済ませ、宿を出た。時刻は午前九時、朝の心地よい風が花の香りを運び、吹いていた。

ボクとアンさんは花園へ向かう為に町の中心部に来ていた。アンさんは美女だから視線を集めるのは当たり前だ。なぜかボクにも視線が集まっている。ヘルムが欲しい。

程なく歩いていると町が騒がしい事に気がついた。


「おいおい、これじゃあルムの町へ行けないじゃねぇか!」


「魔物が出ちまったんだから仕方がないだろ」


町の住民が言うに、ルムの町へ行く道に魔物が出て、通れないらしい。


「ノア君、ルムの町は私達が経由する町よ」


「って事は明日は無理じゃないですか!」


「あら?私とノア君は冒険者よ?私達が討伐すれば問題ないわ」


アンさんはそう言い、住民達の方へ歩いて行った。


「その魔物、私達が討伐しましょうか?」


アンさんがそう言うと住民が一斉にアンさんを見た。ボクはその迫力に後ずさった。


「嬢ちゃん達が魔物を?冒険者なのかい?」


「えぇ、そうよ。ついでに言うと彼は可愛い顔しているけど男よ?」


アンさんがボクを指差し、そう言うと一斉にボクの方を見た。女性の視線が捕食者のようになっていたのは気のせいだといいな。


「私も彼もBランク以上の実力があるわ。報酬は・・・、そうね。ルムの町までの料金でいいわよ」


アンさんはSランクと言うと面倒臭い事になるからか、伏せていた。それにちゃっかり報酬の話を持ちかけている。でもルムの町まではそこまで高くないはず、アンさんの優しさなのかもしれない。


「そんなことでいいのか!?」


「えぇ、良いわよ。冒険者としてちゃんと報酬を貰えればね」


「わかった。ありがとう」


こうしてボクとアンさんは魔物を討伐する事になった。





ボクとアンさんは住民が言っていた、魔物を目撃した場所まで歩いて来ていた。そこは左側が森になっていて、右側は背の高い草が生えた草原のようになっていた。

そして、道には襲われたであろう、馬車の破片らしき物や、人か魔物かわからない血痕があった。


「誰も死んでないって言っていたから、この血は負傷者のものね」


「アンさん、魔物は森から出てきて襲ったと思いますか??」


「きっとそうね。草原の方は無いと思うわ。馬車の破片以外にも、石が落ちているわよね?恐らく、クレイジーエイプだと思うわ」


「クレイジーエイプですか?」


「Cランクの魔物よ。でももっと森の奥が生息域だったはずなのだけれど」


「とりあえず、森に入って討伐しないといけないですよね?」


「そうね。行きましょうか!」


アンさんはなにか疑問に思っていたが、結局はクレイジーエイプを倒さない事には解決しない。





ボクとアンさんが森へ入り、十分が経った。


「ノア君、ストップ」


「クレイジーエイプがいましたか?」


「えぇ、でも数が多いわ。二十体近くいるわね」


「どうしますか?」


「そうね・・・、私が先に行くからこぼれたクレイジーエイプをお願い」


「わかりました」


ボクがそう言うとアンさんはステップを使い、クレイジーエイプに接近した。それを見てボクもステップを使い、接近した。

アンさんはクレイジーエイプが反応するよりも早く、四体のクレイジーエイプの首を刎ねた。それに気づいたクレイジーエイプがアンさんに襲いかかる。しかし、アンさんはカウンターで華麗に首を刎ねていく。

すると恐怖で逃げ出そうとするクレイジーエイプが何体かいた。ボクはそれを仕留めていく。逃げ出したクレイジーエイプがボクを見つけると、アンさんと比べて弱いと判断されたのか、好戦的になった。クレイジーエイプは石を拾い、ボクに投げつけてきた。ボクはそれをステップで素早く横に移動し、ステップで石を投げつけてきたクレイジーエイプに一気に接近し、首を刎ねる。すると、他のクレイジーエイプが同時に襲いかかってきた。その数三体。


「ふっ!」


ボクは後ろへ跳び、その場から回避し、一体のクレイジーエイプの頭を切りつけた。そして、残り二体のクレイジーエイプの間をステップで抜け。


「はぁっ!」


同時に首を剣で切りつけた。ボクの方の戦闘が終わり、アンさんの方を見た。アンさんは既に戦闘を終え、顎に親指と人差し指を添え、何か考えていた。


「アンさんどうかしましたか?」


「あぁ、ノア君、お疲れさま。えっとね、私の予想ではこのクレイジーエイプは縄張りを追われたんじゃないかと思ってね」


「それはもっと凶悪な魔物がいるということですか?」


「そうなるわね。そいつを討伐しないと終わらないわよ」


「つまり、この森のさらに奥へ進むということですか?」


「そういうこと。そうと決まれば行くわよ!」


アンさんはすぐ歩き出した。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


ボクとアンさんは森のさらに奥へと進む事になった。

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