第11話 ライカの悔恨 その二

私、ライカの少し昔の話と、後悔の話をしたいと思います。

私は王都でDランク冒険者として幼馴染で恋人のノアと一緒に活動しています。

冒険者なりたての頃は、ロライドさんやオッズさんに沢山お世話になりました。

ノアと一緒にEランクに昇格した時は、ロライドさんが、昇格祝いだ。と言い、ご馳走してくれました。

Eランクになると討伐系の依頼ばかりで、私は怖かったです。

そんな私にノアは。


「ボクが守るから大丈夫!無理なら二人で逃げよう!」


と言ってくれました。ノアは私を守ってくれる。それだけで胸が温かくなります。

オッズさんはよく、私とノアに魔物のことを教えてくれました。とても良い先輩だなって思います。

でも、ノアはオッズさんを嫌っていました。


「ノア、なんでオッズさんが来ると嫌そうなの?」


「それは・・・、別に」


「もしかして嫉妬?」


私がそう言うとビクッとノアが跳ねました。この素直で可愛いノアが好きです。


「大丈夫だよ。私はノアしか見てないから」


「本当?ライカが見ててくれるならボクもしっかりしないとね!」


ノアが元気になってくれた。嬉しそうなノアは私を癒してくれる。

Eランクの依頼は討伐系が多く、採取系よりも報酬が良いです。おかげで休日を取ることができるようになりました。

私とノアの休日は、ノアと散歩をしたり、買い物をしたり、一緒に料理をしたり、恋人よりも夫婦なんじゃないかなって思うときもありました。でも、それが私にとって、とても心地の良い時間であり、空間です。ロライドさんに修行をしてもらっているノアを眺めていることもありました。一番好きな休日の過ごし方かもしれません。





私とノアはEランクの依頼を沢山こなし、Dランクに昇格しました。

その時は少し高い食材を買い、二人で一緒にご馳走を作りました。

幸せな時間でした。

こういうときにノアは。


「ライカ、その、昇格したし、たまには気持ちをちゃんと伝えないといけないよね」


「なに?急にどうしたの?」


「いや、いつも一緒にいると伝えることを忘れちゃうから」


ノアは恥ずかしそうに。


「ライカ、はい!」


そう言い、綺麗な赤い薔薇を五本手渡してきました。

この意味は、あなたに出会えたことの心からの喜び。です。


「ありがとう!ノア!」


私の胸はノアの愛で温かくなりました。

ノアは頭ではなくヘルムをかいていました。





ノアがロライドさんの所へ修行に行ったある日、私はノアを裏切ってしまいました。

これは前に話したことがありますね。

オッズ先輩が訪ねてきて家に上げてしまった事が原因です。私は良い先輩と油断していました。オッズさんが用意した果実水を飲んで数分後ぐらいに頭がぼーっとしてきたのです。夕方だから眠気かと思いました。

でも。


「ライカ、ノアより俺の方がいいと思わないか?」


私はノアのことが好きです。でもオッズさんの言うことがなぜか胸をドキドキさせます。体も熱くなり、気がつけば抱かれていました。

オッズさんが帰った後、急いで体を洗いました。ノアを裏切った。でもノアが好き、オッズさんもなぜか気になる。頭にモヤがかかっているような感じがして変でした。

体を綺麗にし、ノアが帰ってくるのを待ちました。


「ただいま〜」


「お、おかえり」


私はなるべく普段通りにしようと思いました。

ノアは。


「ボクね、新しい師匠ができた!凄く美しい剣の舞だったんだよ!それを教えてもらえるんだ!」


私はホッとしてしまった。いつもより上機嫌なノアを見て。

私はこんなに嬉しそうなノアを見るのは久しぶりだった。そういえば、子供の頃、ノアのこういう姿が好きで好きで仕方がなかったことを思い出した。

その瞬間。


パチンッ


と、私の頭でなにかが弾けるような感覚が起きた。

そして、私がなにをしてしまったのか、好きでもない男性と関係を持ってしまったのか、鮮明に思い出し、怖くなった。さっきまでオッズさんのことが好きだったのかもしれないと思っていた感情も綺麗に消え去り、元に戻っていた。

でも、ノアを裏切り、関係を持ってしまったことは変わらない。変えようのない事実だ。

私は最低だ。

そして全てが恐怖になった。

私は今まで良い先輩だと思っていたオッズさんを憎み、嫌いになり、絶対に会わないようにした。





それから数十日が経った。

その間にオッズさんが私とノアの家に度々来ます。怖いです。オッズさんの声が聞こえるたびに気持ち悪くなります。ノアを裏切ってしまった出来事が鮮明に蘇ってきて怖い。もう来ないで。

オッズさんは諦めてくれたのか来なくなりました。ホッとしてしまいました。そんな自分が嫌になります。

私は気がつき始めました。ノアは私の事を見ていない。会話はしています、ヘルムも私の方を見ています、でも見ていないと確信できます。きっとノアには知られている。そう思うと今更言っても、怒っても悲しんでもくれないと思いました。きっと無関心になっているんじゃないかと。もっと早く打ち明けたら?ちゃんと説明すればわかってくれていたのかもと後悔しています。そして段々と眠れない夜が増え、食欲も落ちました。ノアは私の変化に気づく気配はありません。自業自得なのはわかります、でも悲しいです。





そして運命の日が来た。

私とノアはいつものように依頼終え、ギルドに報告に来ていた。

私はノアに頼まれて報告と報酬の受け取りをしに受付へ向かった。数日前にノアに、お金の管理を任せた。と頼まれました。

私がノアの元へ戻ってくると、会いたくない人と会ってしまいました。


「おう、久しぶりだな。ノアにライカ」


オッズさんだ。私は会いたくなかった。血の気が引いてくのがわかる。


「そうだ、ノアとライカに話があるんだよ。時間あるか?」


私は、話があるんだよ。と聞いて嫌な予感しかしなかった。そして黙っていた事を後悔しました。勇気を出して話していればなにか変わっていたのかもと。でも、証拠がありません。


「なぁ、ノア。俺とライカは肉体関係を持っちまったんだ。別れてくれないか?」


「なんだ、そんな事ですか。いいですよ」


私は、どこかでもしかしたらと思っていたのかもしれません。でもノアの、なんだ、そんな事ですか。それを聞いて知っていたんだと思いました。私は頭が真っ白になりました。私は好きで肉体関係を持ったわけじゃないと言いたかった。

そんな私が口に出したのは。


「待ってよ。ノア、私ノアと別れるなんて・・・」


「でも裏切ったよね?」


私はその言葉で全てが終わったと思いました。私も言っていて、何様だろうと思いました。でもそのとき、ノアが久しぶりに私の事を見てくれた気がしました。それが嬉しかった。悲しかった。

私が何も考えられずにいると。


「ノア君!ここにいたのね!なにこの雰囲気・・・」


綺麗な赤い髪をした美女が来たんです。すぐにわかりました。きっとノア君の師匠さんだと。

でも、それから私はその人の話をほとんど聞けませんでした。頭に入ってこなかったが正しいかもしれません。ノアの、でも裏切ったよね?が頭から離れないのです。

私がオッズさんを家に上げたばかりに・・・。

最後にノアが私に、ボクはもう帰らない。でも元気でね。と言っていました。そのあと私は泣き続け、気がつけば私とノアの家にいました。いや、もう私の家だ。そこで眠るように意識を失いました。

この出来事は私にとってのスタートラインになるなんて、このときは思いもしませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る