第9話 修羅場?
翌日。
ボクはライカとニ日に一回の依頼をこなしに来ている。今回はポイズンスパイダーを十体だ。ポイズンスパイダーは単体で行動しているので、探すのに時間を使う。でも毒袋も売れるので割りに合っている。
アンさんと依頼(修行)に行っているボクにとってはライカとの依頼は修行の復習の感覚で来ている。なので依頼報酬とかは全部ライカに任せている。アンさんと行く依頼の報酬が高いから、ライカとの依頼でボクが報酬を受け取らなくても、なんら大丈夫なのだ。
そして、今日の依頼もボクが七体、ライカが三体倒して難なく依頼をこなし、ギルドへ報告に向かった。
ボクとライカはギルドに戻ってきた。
お昼の時間帯は他の冒険者が少ない。ボクは依頼の報告をライカに任せ、人を待っている。それはアンさんだ。昨日別れ際に、明日の午後一時にギルドに集合ね。と、言われたのだ。
数分後、報告を終えたライカが戻ってきた。
「ノアはいつも修行してる所に行かないの?私と依頼に行く日の午後は草原のはずじゃ?」
「今日は実践みたいなんだ。簡単な依頼だと思うよ。時間も時間だし」
すると後ろから。
「おう、久しぶりだな。ノアにライカ」
あの日、ボクの幼馴染で恋人のライカを奪ったオッズさんだ。
しかし、ボクは・・・。
「お久しぶりですね。オッズさん」
最近は充実していた。アンさんとの修行、Bランク冒険者への昇格。その喜びが強すぎて別になんともないのだ。
ライカはオッズさんと顔を合わせて顔色を悪くしていた。このときのボクは、まだ気づいていなかったのだが。
「そうだ、ノアとライカに話があるんだよ。時間はあるか?」
「いいですよ。ライカも大丈夫だよね?」
「う、うん」
ボクはなにを今更、白々しいと思った。
ボクとライカ、オッズさんはギルドに置いてあるイスに座った。ボクとライカは隣同士、テーブルを挟んで向かいにオッズさんだ。
オッズさんは開口一番に・・・。
「なぁ、ノア。俺とライカは肉体関係を持っちまったんだ。別れてくれないか」
開口一番にこれだ。アンさんに出会う前のボクなら殺意や復讐を抱いただろう。でも、今のボクはいつでも言ってきても問題なかった。
なので・・・。
「なんだ、そんな事ですか。いいですよ。」
ボクはこう言ってやった。極めて低く、冷徹な声で。
「そうだよな。お前らはお互い愛し合ってるもんな、無理ーー、えっ?」
オッズさんは変な声を上げ、驚いた顔をしていた。
「オッズさんですよね?ボクがライカの為ために買ったプレゼントを処分したの。あの日、二人の喘ぎを聞いて、扉の所に落としましたから」
「・・・そうだぞ。俺とライカの間にはいらない物だったからな」
「そうですか。ではライカとお幸せに。こんな幼馴染ですがお願いします」
ボクはそう言いイスから立ち上がり、去ろうとした。が、しかし、手首を掴まれ、立ち去れなかった。
「待ってよ・・・。私、ノアと・・・、私はノアと別れるなんて・・・」
「・・・でも裏切ったよね」
ボクはそう言い、二十数日ぶりにライカの顔をちゃんと見た。見て驚いた。顔は青白くなっていて、汗が流れている。体は恐怖なのか震えていた。ここまでなら自らの意思で浮気をし、それがバレるという反応として見えるだろう。
しかし、ボクが驚いたのは、ライカの目にはクマができていて、顔もやつれていた。単に、後悔でこうなったのかもしれないが、ライカがなにかをされ、それを言おうにもボクが信じないから言えなかったのかもしれない。と、思えた。まただ、あの日みたいに、ズキッと心が痛む。
あの日からボクは、ライカを見ず、ライカもボクに、あの日なにがあったのか、正直に話してくれなかった。しかし、ライカに話されてもボクは信じなかっただろう。だから話せなかったのかもしれないが・・・。あの日から、ボクとライカはすれ違っていったのだ。もう今は戻れないのだ。
「それにね、ライカ。ライカは恋人がいながらボク以外の男を家に招き入れたんだよ?ボク抜きでね。その行動は軽率だし、恋人への裏切りでもあるんだよ」
ボクはそう言った。ライカは涙を流し、全てを諦めた顔をした。
すると・・・。
「ノア君!ここにいたのね!なにこの雰囲気・・・」
アンさんが修羅場に登場した。凄い、なんというタイミングですか。
「あら?あなたは昨日私にしつこくナンパしてきた冒険者よね?」
アンさんがオッズさんを見て言った。
そしてさらに続けた。
「・・・この状況は、・・・わかったわ!ノア君、このナンパクズ野郎がノア君の幼馴染ちゃんと、肉体関係になったから別れろ。と、言っているところね!」
アンさんがギルド全体に聞こえるぐらい大声で言っていた。
ギルドにいる少ない冒険者はボクに哀れみの視線を向けた。そしてオッズさんには軽蔑の視線だ。
「それじゃあノア君!依頼に行きましょうか!ノア君みたいに純粋で真っ直ぐな美少年をあのナンパクズ野郎の近くに寄らせたくないわ!」
アンさんはボクの腕を掴みグイッと引っ張った。
「なんで、ノアみてぇな雑魚に・・・」
小声でオッズが呟いた。そして腰に納めている剣を鞘から抜き、ボクに切りかかった。
ボクとアンさんはそれに気づき、アンさんはボクに早口でこう言った。
「売られた喧嘩は買いなさい」
ボクは頷いて、身体強化を使い、後ろから迫ってくるオッズさんの頭上を超えるように跳んで回避をし、同時にひねりを加え、オッズさんの真上にきた瞬間、鞘に納めたままの剣で、オッズさんの頭の側頭部を強打した。
「グアァ!」
と言いながらギルド内を転がる。
「アンさん、ヤバいですよ!ギルド内での戦闘はご法度なのにボクやっちゃいました!」
ボクはあわあわと慌てた。
「大丈夫よ!私が上を黙らせるから!」
アンさんはウィンクしながら親指を立てた。アンさんは本当に凄い人なんだ。ボクは尊敬の眼差しを向けた。いや、でもそれはそれでまずくないですか?
すると。
「ノアァァァァ!Dランクのくせに調子に乗るなァァァ!」
オッズさんが叫んだ。ボクがBランク冒険者のなったのは昨日だ。今このギルドにいる数少ない冒険者の中でも知っている人は少ない。でもコソコソと、オッズの奴知らないのかよ。いや、ノアは昨日Bランクになったぞ。嘘だろ?俺抜かされてるじゃん。オーガを一人で倒したらしいぞ。
なんて会話が聞こえる。オッズさんは怒りでそれを耳に入れることができなかった。
聞いていればあんなことにはならなかっただろう。
「ノアァァ!俺がお前なんかーー」
ボクはいい加減このうるさい人を黙らせたくなった。なので、ステップを使い、懐まで高速で接近し、四肢とあばら、頭を一回ずつ、系六回攻撃した。鞘に納めたままの剣なので死にはしない。が、四肢は骨折、あばらも何本か折れているだろう。頭はさすがに加減をして気絶で終わらせた。
「アンさん!終わりました!依頼に行きましょう!」
ボクは周りで、ノアが強い。と、青ざめている冒険者を無視し、アンさんに声をかけた。
「うん!かっこよかったわよ!ノア君!」
「それで今日はなにを討伐するんですか?」
「そうね、マンイーターワスプがあるといいんだけれど・・・」
ボクとアンさんはいつも通りに受付に向かい、なぜかキラキラと目を輝かせている受付嬢に依頼を見せてもらう。アンさんの剣術だから、流れるように美しかったんだな。ボクも成長している。と、思った。
ボクとアンさんは良さそうな依頼を受け、ギルドを出ようとする。
そしてボクは泣いているライカに。
「ボクはもう家には帰らない。でも元気でね」
そう言い、アンさんとギルドを出た。
ライカとオッズさんに傷つけられ、ライカのことを見ることをやめたボクと、ボクを裏切り正直の話せなかったライカとの間に開いた溝は、そう簡単に埋まるものではない。原因がわからないのだから・・・。
ライカはギルドで一人、泣き続けた。
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