第8話 Bランクの魔物、オーガ
アンさんに新しい剣を買ってもらい、そのままギルドに来ていた。
そして、ボクとアンさんは、Bランクの依頼を探しているところだ。
「今日はBランクの依頼少ないわね」
「そうですね。アラクネとオーガしかありませんね」
「そうね。戦いやすいオーガにしましょうか。場所も近いから日帰りで行けるわ」
「それでも夜になりそうですね」
「大丈夫よ。今のノア君なら、その辺の魔物に負けないわ」
ボクはBランクの依頼をこなせるほど成長できたのかな・・・?
「それでノア君、オーガについて知っているかしら?」
「ごめんなさい。名前しか・・・」
「だと思ったわ。まぁ、二十日近くでDランク冒険者がBランク冒険者並みに強くなるなんてほぼ無いものね。知らなくても仕方ないわね」
これはアンさんの修行がスパルタであり、英才教育?のようなものだからだろう。
「アンさんには感謝しています!」
「はいはい、それは言われなくても、ひしひし伝わっているわ」
そう言いながらもアンは照れていた。
「さて、ノア君にオーガについて教えるわね」
アンさん曰く、オーガはオークよりも身長が大きい、最低でも二メートル、最高は三メートルで筋肉質。移動速度は遅いが、攻撃力が高く、攻撃速度が早い、防御力もある、中でも一番厄介なのは再生する事らしい。
「良い?ノア君、再生と言ってもすぐには再生しないわ。まずオーガの攻撃をしっかり回避すること、回避と同時に攻撃をすること、攻撃はできれば目とかアキレス腱とか行動に支障がでるところがいいわね。今のノア君なら六連撃を使って、オーガの防御力も突破できるわ。・・・あとは死なないでね」
「いつもみたいに死ぬ前に助けるとかじゃないんですか?」
「オーガの攻撃速度は早いのよ。私は離れて見ているから間に合うかわからないわ。でも殺させるつもりもないわよ」
「し、死なないように頑張ります」
「そうね、それじゃあ行きましょうか!」
ボクとアンさんは以前オークと戦闘をしたコッコルスの森へ向かうのだった。
三時間ほど歩き、オークと戦闘をした付近まで来た。
道中の魔物、はアンさんが、今回は体力を温存ね。と、言い、木っ端微塵にしていた。ボクはアンさんの剣術を間近で見られてホクホクだ。
「ノア君、ここからオークが出てくるけれど、それは私に任せてね!オーガはノア君の獲物だから」
「はい!わかりました!」
「聞き分けが良くてよろしい!それじゃあ奥に行きましょう」
そして歩くこと数分。
「来るわね」
「えーー」
ボクの声を掻き消すように。
『ブギャアァァァ!』
突然、オークの鳴き声が聞こえた。
「ノア君、さっき言った通り私がやるわね!」
オークが三体、木々をかきわけて出てきた。三体ともアンさんを見て欲情し、気持ちの悪い顔になった。
しかし、アンさんは。
「オークも人間の男も変わらないわ。ノア君ぐらいよ、しっかり理性を持っているのは」
と、一人呟いた。そして一体目のオークに一瞬で接近し、一秒間に十回、いや、十回以上剣で切り裂いた。一体目のオークは声を上げる暇もなく、細切れになった。他の二体もなす術なく、跡形もなくなってしまった。
・・・実は昨日の夜、アンは男にナンパをされていて、今日は一日中イラついていた。しつこかったからだ。ノアの前では見せなかったが。アンはオークをただのストレスの捌け口にしたのだ。
「アンさんの剣術いつ見ても美しいですね!さっきまでのDランクの魔物は弱点を一撃で仕留めていたので・・・、だから今のオークへの剣術を見て感動しました!」
「なっ!?の、ノア君は何回同じことを言うのかしら。恥ずかしいから言わなくていいわ!」
でも内心は喜んでいるアンだった。
そして、それからさらに一時間ほど歩く。欲情して襲ってくるオークをアンさんが消し、やっとオーガを見つけた。今回は一体討伐すればいい。
「ノア君、見つけたわ」
「凄い強そうですね、丸太持っていますし、それに見た目が怖いです」
「怖いなんて可愛いこと言うわね・・・。私も昔はそうだったわ」
アンさんがボソッとなにか言った。
「なにか言いました?」
「いいえ、頑張って倒してきなさいって言ったのよ」
「そ、そうですか。じゃあ行ってきます!」
ボクは身体強化を発動させ勢いよく茂みから出て、ステップでオーガに接近した。オーガはボクに気がつき、振り向きざまに腕で持っている丸太を使い薙ぎ払ってきた。ボクはそれを跳んで避ける。
「いきなり薙ぎ払い・・・、しかも早くてビックリした」
ボクは気を取り直して、ステップで懐に入ろうと試みた。しかし、オーガが蹴りをしてくる、それをステップで横へ避け、同時にオーガの足に三連撃をくらわせた。しかし、深手にはならなかった。オーガは切られた事を気にせずに攻撃してくる。
「痛覚ってないのか!?」
ボクはステップを使い、オーガの攻撃を避け、回避と同時に攻撃する。しかし、どれも決定打にならない。そこで、ボクは顔に攻撃をしようと試みた。オーガの薙ぎ払いを避け、蹴りを避け、懐に入った。そして顔に向かってジャンプし、六連撃をーー。
瞬間。
ボクの顔のすぐ横に丸太を持っていない方の腕が見えた。ボクはとっさに空中で体と首をひねり、避け・・・、きれなかった。
視界がぐるぐると回り、気持ちが悪い。
「痛った・・・」
ボクは辛うじて軽い脳震盪と軽い出血で済んでいた。しかし、被っていたヘルムは変形し、地面に転がっていた。
ボクは立ち上がり、オーガに向く。頭がクラクラするが、そこは気合で踏ん張る。しかし、オーガに与えた傷のほとんどが再生していた。
オーガの攻撃をかいくぐるにはもっと早く、スピードで翻弄するしかない。
「スゥー、フゥー」
ボクは息を整え、ステップで接近する。
『グオォォォォォォ!』
オーガが雄叫びを上げ、丸太で攻撃してくる。
ボクはステップで横へ避け、すぐさまステップでオーガに接近する。オーガは丸太を持っている腕とは逆の腕で殴りかかってきた。それをステップで横へ避け、またステップをする。今回のステップはオーガの横をすり抜け、オーガの後ろに回り込むためだ。
『グアァァァァァァ!』
オーガが振り向きと同時に、丸太で薙ぎ払ってくる、ボクはバク宙をし、同時に体をひねり、オーガの顔に三連撃を食らわす。オーガは丸太を落とし両手で顔を覆った。その隙を突き、両足を六連撃を何回も使い、滅多切りにする。時間でいうと五秒間ぐらいだ。オーガは自分の体を支えきれなくなり、膝をついた。ボクはガラ空きの首に向かってジャンプし、六連撃を食らわせた。
ブシュゥー
オーガの首が胴体と別れを告げ、血が噴水のように流れた。オーガを倒したのだ。
「ちょっと!ヒヤヒヤしたじゃない!それにヘルム!・・・ってノア君って本当に男?」
アンさんが大声を出しながら近づいてきてて、ボクの顔を見て言った。
「男ですよ。・・・ってそうだ!ヘルム!」
「ノア君のトラウマって、もしかして、この女の子に近い中性的な顔のこと?」
「ボクは男です!女の子じゃないです!」
ノアの顔は女の子の顔みたいに可愛いのだ。
「わかっているわよ!でも、その、可愛いわね・・・。それにその綺麗な水色の髪、女の子みたいなショートカット!ボクっ娘じゃないわよね?」
「さすがにアンさんでも怒りますよ?」
「ごめんごめん!この際なんだけど、トラウマになった出来事聞いてもいいかしら?」
「はぁ、わかりました」
ボクはトラウマになった出来事を語った。
今から九年前。ボクがまだ七歳の時だ。
「ノア!お願い!一回でいいから女の子の服着て!お母さんの一生のお願い!」
ボクはお母さんに、女装を頼まれたのだ。
「いいじゃん!ノア!私もノアの女の子の姿みたい!」
幼馴染のライカも頼んでくる。
ボクは諦めて、ふりふりのピンクのワンピースを着せられた。
まだそれだけなら良かった。
ボクはその姿のまま買い物に連れていかれ、いろんな人に見られた。なんだあの美少女は。と、言う人もいたが男のボクにとっては恥辱なのだ。
そしてボクの八歳の誕生日にお父さんに安いヘルムを買ってもらい、今に至る。
っという事をアンさんに説明した。
「男の子にはそう感じるのね」
「当たり前ですよ!ボクも自分の顔は女の子みたいって思っているんですから!コンプレックスなんです!」
「わかったわ!王都に戻ったらヘルム買いに行きましょうね!」
そしてボクとアンさんは王都へ戻り、ギルドへ報告する前に、防具屋で新しいヘルムを買った。防具屋に着くまで、男の人も女の人も、凄い美少女。と言ったり、美少年だろ?と言い合っていたらしい。ボクは恥ずかしくてたまらないのに!
そしてギルドにオーガ討伐報告をするとBランク冒険者に昇格した。オーガはBランクの魔物の中でも強い部類らしく、それを一人で討伐できる実力が評価されて、昇格が決まった。しかし、ほとんどの冒険者はCランクかBランクで引退をする。その理由はAランクに上がる条件が厳しいためだ。ボクはその条件を知らないが、コツコツ依頼をこなしながら、強くなっていけば、いずれなれるかもしれない。
そんなことよりも、ボクがBランク冒険者に昇格したことを、アンさんも喜んでくれたので、それが嬉しかった。
その後、一部の冒険者やロライドさんからも賛辞を受け、ボクはニヤニヤが止まらなかった。
そしてボクはアンさんと別れ、家に帰る。
「ただいま」
「お、おかえり。あれヘルム新しいのにしたの?」
ライカは言う。
「魔物に殴られてね。でも殴られる直前に首をひねって反らしたから大丈夫だよ」
「へぇ、す、凄いね」
ボクはライカのことを見ていない。もう、無意識に拒絶をしているのかもしれない。あの日から時が進むにつれて・・・。
ライカはあの日から不安と後悔、言わなければいけないが言えない。という、負の感情がぐるぐると巡り、その影響でろくに眠れず、食欲も落ちていた。
ボクはライカのことを見ていなかったこと、それを後悔することをまだ知らなかった。
そして翌日それは起こる。
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