第6話 縦回転と横回転

アンさんとの初クエストから十日が経った。

ボクは素振り五千回を三十分でできるようになった。今は一秒間に六回攻撃でき、ステップも前後左右八メートルまで移動できるようになった。


「ノア君の成長は早いわね。真面目だからかしら?」


「アンさんの教え方の賜物です!」


「私が教えたのはステップと素振りだけよ?でも、今日から回転とひねりをやってもらうわ」


「空中で舞うように攻撃するやつですよね?」


「そうよ。体のしなやかさが必要だし、ステップにジャンプも加わって難易度は高くなるの」


「でも身につければアンさんのように美しい剣術を使えるんですよね!?」


「ノア君は直球で褒めるわよね、私の剣術・・・。恥ずかしいわ」


「本当のことですから!誰が見てもそう言います!」


「はいはい、褒めるの終了!」


アンは顔を赤面させて言った。

そして。


「まずはノア君に前宙とバク宙をできるようになってもうわ!」


「前宙はできます。バク宙はどうすればできるんですか?」


「前宙はできるのね。バク宙じゃなくてバク転からにしましょうか。身体強化使えばすぐにできるわよ」


ボクはアンさんに言われた通り、身体強化を常時発動したままバク転の練習をした。

結論から言うとバク宙まで一時間でできるようになった。


「アンさん、身体強化って凄いんですね」


ボクは身体強化を軽視していた。身体強化のおかげで素早く動けるし、高く跳ぶことができる。


「そうよ。基礎ほど大事なものはないわ。敵と同じ実力だと基礎の違いで勝敗が分かれるもの」


「基礎が大事・・・、肝に命じておきます!」


「その心がけ一つでまだまだ成長できるわ。さて、そろそろひねりに入りましょうか!」


「ひねるということは横回転ですか?」


「正解!前宙とバク宙が縦回転ならひねりは横回転になるわ。それに縦回転は連撃には向いてない、だから横回転をするの。回転の運動エネルギーを利用して剣で攻撃する、これが大事なの」


アンさんは、縦回転でも一応攻撃はできるわ、回避の方が多いけど。と補足した。


「とりあえず、ノア君は横に一回転できるようにね!左右両方よ!」


「わかりました!頑張ります!」


ボクはそう言い、前宙をすると同時に右に体をひねり、横に回転をした。

前宙+一回転は想像通り簡単だった。


「次はバク宙しながら横に一回転・・・」


これもなんとか成功。一瞬方向感覚が変になるので練習が必要だ。

するとアンさんが。


「横一回転は大丈夫そうね!それじゃあ依頼行くわよ!」


「えっ!?まだ練習した方が・・・」


「私が暇なの!!」


アンさんは最近、依頼にすぐ行きたがる。本当は戦闘狂なのだろうか?今までアンさんと戦った魔物は全部細切れになっている。それにアンさんは、今回はどれだけ均等にサイコロ状にできるか試しているの。とか言い始める。・・・もしかしてこれも修行の一環なのか!?正確性を上げるために!?やっぱりアンさんは凄い人だ!





ボクとアンさんはギルドにやってきた。最初の頃は、ノアが美女と浮気しているぞ。なんていう噂があったが、ボクが、剣術の師匠です!と本当のことを言うと信じてくれた。

ノアは元々真面目で練習や修行が大好きなのだ。

ライカとのことは言っていない、ノア自身思い出したくないことだし、今は忘れられている。


「ノア君、今日はブラックウルフを討伐にしましょう!」


「はい!」


ボクは頷く

ブラックウルフとはウルフの上位種でCランクの魔物だ。ウルフに比べて素早く体も大きい。あと、毛皮がいい値段で売れる!


「さて、ノア君!行きましょう!」


依頼に行く時のアンさんはとても楽しそうで嬉しそうな顔をしている。これが結構可愛いのだ。





ボクとアンさんはいつも修行をしている草原の更に奥へ向かう。

道中ゴブリンや、スライム、ウルフと出会うが見つけ次第、ステップで接近し五連撃、又は六連撃をくらわせる。側から見たら虐殺に見えるだろう。


「そろそろブラックウルフの生息域に来ましたね」


「そうだね、ノア君!そこで今回は縛りをしようと思うの!」


「縛り・・・、ですか?」


「うん!今回のクエストのブラックウルフは四体だよね?三体はノア君が相手するとして、倒し方は縦回転、又は横回転ね!」


「は、はい!」


「いい返事だわ!・・・さて、お出ましよ?頑張りなさい!」


アンさんがそう言うと遠くに黒い物体、ブラックウルフがいた。数は二体。

ボクはステップを連続で使い接近する。ブラックウルフは匂いで気づいたのかボクの方に走ってきた。ボクはそのまま直進する。一体目のブラックウルフが噛み砕こうと正面から跳び込んできた。ボクはタイミングを合わせ、前宙をする。同時に剣を縦に振り、ブラックウルフの背中を裂く。


『ギャンッ!』


と鳴き声をあげ、絶命した。


ボクは着地と同時にステップを使い二体目から距離を取り、走る。すると後ろから、すぐ追いかけてくる。タイミングを見て、ひねりを加えたバク宙・・・、横回転の攻撃をした。

しかし。


ガンッ


ボクの頭とブラックウルフの頭がぶつかり、空中でバランスを崩した。ボクは急いで立ち上がりステップで距離を取る。しかし、ブラックウルフの攻撃が早く、左腕を爪で裂かれた。


「くッ!」


ボクは痛みを堪え、ブラックウルフに正面からステップで突っ込む。一体目と同じ要領で、攻撃してきたウルフに合わせ、前宙し、背中を裂き、倒した。


「傷が痛いな・・・。バク宙のときの高さが足りなかった。考えが甘かった」


「ノア君、大丈夫?とりあえず回復ポーション」


今回は外傷なので回復ポーションを怪我をした左腕にかけていく。するとたちまち傷がふさがり、何事もなかったかのように、傷がなかった時の腕へと戻った。内部や内臓へのダメージは回復ポーションを飲むことで回復できる。


「アンさん、ありがとうございます。慢心はしていませんでした・・・。でも、考えが甘かったです」


「それに気がついただけでも失敗した価値はあるわよ」


アンさんは優しく言ってくれる。失敗した価値・・・。大事なことだと思った。


「さぁ!あと二体殺りに行くわよ!」


アンさんが物騒なことを言っている。


そして・・・、数分後。


「ノア君、一体は任せたからね?」


「はい。同じ失敗はしません」


「うん。それじゃあ行くわよ!」


そう言うと、アンさんは一体のブラックウルフを速攻で殺していた。

早っ!

ブラックウルフの耳がアンさんの事を察知して、アンさんの方を向いた時には、アンさんは既に前宙に入っていた。そして高速で回転しブラックウルフを輪切りにしていた。

ボクはあまりにも早すぎる、そして美しい剣術に見惚れた。


「ボクも倒さなくちゃ!」


ボクは四体目のブラックウルフに追いかけられるように仕向けた。

失敗の借りを返す!

ボクはさっきよりも高くバク宙をし、体をひねり、横に一回転し、剣で攻撃する。ボクの攻撃はブラックウルフの首のところを裂き、ブラックウルフの頭と体が分裂し、倒した。


「今回は成功したわね!おめでとう!」


「ありがとうございます!でもまだ危なっかしいです。まだまだ修行が足りません!」


「熱心なのはいいけれど、体を壊さないでね?もし壊したらわかるわよね?」


アンさんの圧が凄い・・・。


「わかっています!それよりもアンさんの剣術はやっぱり美しいです!ブラックウルフの輪切り凄すぎます!」


「なっ!あれぐらいノア君もすぐできるようになるわ!」


アンは照れていた。こういう可愛いところがアンなのだ。


「それじゃあ、毛皮剥いで戻るわよ!」


「はい!」


ノアは空中回避と剣術の一歩を踏み出した。ノアの憧れ、惚れた剣術に確実に、一歩ずつ近づいている。

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