第5話 アンに連れられ実践

それから五日が経った。

今日は朝からアンさんと修行・・・、という事にはならなかった。


「おはようございます!アンさん!」


「おはよう、ノア君」


あれ?アンさんがいつもと違うような・・・。


「ねぇねぇ、ノア君。私はいつもノア君の修行を見てる訳だけどさ・・・」


「はい。ボクはとても感謝しています!だからまだ見捨てないでください!まだ半月と少しあるんですよ!」


「いやいや、そうじゃなくてね・・・」


「悪い所があるなら直します!」


「あのね、だから人の話をーー」


「ボクの成長が遅いのはわかっています。でも見捨てなーーー」


「私の話を聞きなさいッ!!」


アンさんの怒りの蹴りがボクのお尻を強打した。ボクのお尻を蹴るためにだけに、ステップを使い、後ろに回り込んだのだ。ボクはアンさんの動きが全く見えなかった。


「少しは人の話を聞く耳になったか」


アンさんはまだ怒っている。


「はい。すみませんでした」


ボクが謝るとアンさんは、はぁ、と溜息を吐き。


「私が今日ノア君に話したい事は・・・」


「ボクに話したい事は・・・」


「私も魔物と戦いたいということさ!」


アンはノアの修行を見るために依頼を受けていないのだ。修行の一環で、たまに模擬戦をするが手加減をするので楽しくないのだ。それに、もし依頼に行っているときにノアが訪ねてきたら時間の無駄になる。


「だから今日からは、実戦という形で依頼を一緒に受けましょう。私の体も鈍っているし、ストレス発散したい」


「アンさんと一緒にですか!?でもアンさん程の実力があれば全部一人で終わってしまいませんか?」


「そんなことはしないわよ。ほとんどノア君が戦うんだから。私はニ、三体殺せたらそれでいいのよ」


アンさんは美女だ。そんな美女が殺すなんて口にすると、ちょっと怖い。


「でもなにを討伐するんですか?ボクはDランクですよ?」


そう、まだボクはDランク、アンさんの剣術は凄いからAランクはいっているはずだ。


「それはギルドに入ってから決めるわ。楽しみね!」


アンさん・・・、今の、楽しみね。のときの笑顔が怖かったです。ボクの修行のせいで相当ストレスが溜まっていることが証明されてしまった。これから討伐する魔物はどうなってしまうのだろうか。





そしてボクとアンさんはギルドに来た。

アンさんはクエストを受けに受付に向かった。ボクの気のせいだろうか、アンさんが受付にクエストを受け、ランクがわかるギルドカードを見せると、受付の人が慌てだし、姿勢をきちんとしていた。

アンさんはやっぱり凄い人なんだなぁ。やっぱりAランクなんだろう。と。

ボクからはギルドカードは見えなかったが、受付の反応を見てそう思った。

アンさんがSランクだったり・・・、いや、それはさすがにないよね。だってそんなひとがボクに教えてくれるわけない。

と、いうことになっている。


「よし!行きましょうか!ノア君!」


「はい!それでなにを討伐するんですか?」


「ん?オークよ!」


「オークってCランクの魔物じゃないですか!?ボク殺されませんか?」


オークは頭部が豚になっていて身長が2メートルほど、丸々と太った体、他種族と交配でき、雌(女性)に欲情し苗床にしようとする。この世の女性の敵だ。ちなみに雄(男性)は食料にされる。


「大丈夫大丈夫、今のノア君にはオークの攻撃は当たらないと思うわよ。私とたまに模擬戦してるしね。まぁ、もし危なくなったら助けるから」


「わかりました!」


「よし!出発!」


ボクとアンさんはオークのいる場所へ向かうのだった。





今回、オークのいる場所は王都コーラス近くの森、コッコルスの森と呼ばれる森の奥だ。

今回の依頼はオーク六体の小さな群れらしい。それでも王都の住民、特に、端に住んでいる住民に恐怖を与えるのには充分だ。

そして今、ボクは戦闘中だ。


「はっ!」


その相手は、Dランクの蜘蛛型の魔物、ポイズンスパイダーと交戦中だ。そして、飛んでくる糸を切っている。

ポイズンスパイダーは一メートルぐらいの大きさで、毒の糸を発射してくる。それに捕まると毒で体が徐々に弱り、そこを捕食する。怖い魔物だ。


「まずは敵の懐に入らないと!」


ボクは飛んでくる糸を走りながらステップで右、左、右へと繰り返し、ポイズンスパイダーの懐に入る。そして横から素早く四連撃で攻撃し、ポイズンスパイダーを五等分に切った。

修行の成果で一秒間に四回攻撃できるようになった。


「たしかポイズンスパイダーの毒は薬の素材になったはず」


ボクはポイズンスパイダーの腹を裂き、手を突っ込み毒袋を回収した。


「ノア君、さっきの四連撃は良かったわよ。それと連続ステップを走りながらできるようになった。修行の成果が出ているわね!」


アンさんが褒めてくれた!いやいや、ここで慢心してはいけない。


「アンさんに褒められるのは嬉しいです!でもまだアンさんには届きません!まずはアンさんに追いつき、超えます!」


「嬉しいこと言うわね!そのときになったら守ってもらうわね!」


ふふふ、と、笑いながらアンさんは言った。


「それじゃあ奥に行きましょうか」


「はい!」


ボクとアンさんは森の奥へと進んだ。





二、三時間ぐらい歩いただろうか。今、ボクの前にオークが六体いる。

今から数分前。


「ノア君、この先にオークがいるのが見えるわよね?」


「はい、いますね」


「よし、じゃあ行ってきなさい。ニ体は私に残しておいてね」


「え?アンさんは一緒に来ないんですか?」


「これ以上近づいたら匂いでバレるわよ?私って女だし」


ボクはそういうことかと思った。オークは雌の匂いに敏感だということだ。


「だから四体はよろしくね」


そう言いボクの背中を押した。


・・・そして今に至る。


ボクはまだ気づかれていない。ボクは無臭なのかな?


「とりあえず先制攻撃で一体は仕留める」


ボクはそう決心し、ステップを数回連続で使い、一体のオークに接近した。そしてオークの背中を四連撃で攻撃した。


『ブギャアァァァ!』


オークは耳障りな声を上げ・・・、倒れなかった。深手は負わせたけど致命傷にはならなかったみたいだ。


「クソ!今の失敗は予想外」


ボクはすぐステップで後ろに下がり、距離を取りながら考える。

オークは脂肪が邪魔で切って致命傷にはならない。なら首を狙うしかない!

ボクはステップ使い、横に、前にと使い、再び接近した。オークは左手に持っていた棍棒を振り下ろしてくる。

振り下ろしが早い!でも、見える!

ボクは左にステップで避け、同時にオークの右足に三連撃で攻撃する。するとオークは右膝を地面につけた。

よし!今がチャンスだ!首に四連撃!

ボクはオークの首に、四連撃をくらわせ、首を吹き飛ばした。頭の無くなった首からは血が噴水のように湧き出ていた。


「あと五体・・・その中の三体を倒せってアンさんはスパルタだ!」


スパルタだ!と言いつつも喜んでいるノアは少し変態なのかもしれない。

そんなとき、ニ体目のオークが棍棒で薙ぎ払ってきた。ボクはそれをステップで避けた。しかし三体目のオークが横から棍棒を振り下ろしてくる。すぐさまステップで横に回避し、ニ体目のオークの足を三連撃で攻撃する。しかし、今度は四体目のオークが棍棒で薙ぎ払ってくる。


「・・・こいつは馬鹿なのか?」


ボクは呟いた。今ボクはニ体目のオークのすぐ側にいる、そこを薙ぎ払うということは。


バゴンッ、ブシャアァァ


ボクは冷静に薙ぎ払いを地面に伏せることで避けた。その薙ぎ払いはニ体目のオークの頭をかっ飛ばした。ボクは四体目のオークが薙ぎ払った後の隙を突く。両方の足を一秒間でニ連撃ずつ与え、膝を地面につかす。そして首に四連撃をくらわせ、絶命させた。


「あと三体・・・、うち一体を倒す」


そこで気がついた。オークが残り一体しかいないことに。辺りを見回すと、離れたところにアンさんがいた。その足下にオークであっただろう肉片が転がっていた。

アンさんいつのまに・・・、でも凄い!跡形も無く細切れにしている!

ノアの中でアンの評価がさらに上がった。


「よし、ラストだ!頑張る!」


ボクは最後のオークにステップを使い接近した。オークは棍棒を振り下ろす。ボクはオークの股を潜り回避と同時に足に三連撃。膝をついたオークに向かってジャンプし空中で首に四連撃をくらわせ、戦闘が終わった。


「ノア君、オーク相手に上手くステップと連撃を当てれたね!ポイズンスパイダーの時より成長してるわよ!」


ボクのヘルムをコンコンと叩きながら褒める。嬉しい。


「でもアンさんは跡形も無く切り刻んでるじゃないですか!」


「ストレス発散と鈍りを取り除きたくて、本気で切ったわ」


「そ、そんなにですか・・・」


「久しぶりに切ったし、ストレス発散になったからもう大丈夫!あっ!でも次からの修行は素振り、体の使い方、実戦の順番ね!」


アンさんのスパルタが発動した。


「ノア君の素振りは早くなっているし、体の使い方も回転とひねりを教えるぐらいだし大丈夫よ!」


「アンさんが言うなら大丈夫ですね!ボク頑張ります!」


「頑張りなさい!そうすれば私が切り刻んだ技、神速剣を使えるようになるわ!」


「神速剣・・・」


ボクは男だ。これほどかっこいい技は、是が非でも使えるようになりたい。と、思うのだった。






そしてギルドに戻り報告するとボクはCランク冒険者に上がった。

アンさんが、ノア君はオークを一人で討伐できるよ。と、言ったからだ。

でもボクにとっては嬉しいことだ。アンさんに近づいたのだから。

ランクが上がったことはギルドマスターとギルドの職員、アンさんとボク、ロライドさんぐらいしか知らない。

なぜなら、Cランク冒険者とは普通のことなのだ。

Bランク冒険者へ昇格すると他の冒険者も興味を持つが、Cランク冒険者では興味を持たれない。

だからボクは、このことをライカに伝えなかった。

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