第3話 write
学食を出てすぐ、「彼」と私は別れた。彼は彼で高等部で授業がある。それに、彼の言う通り、矢部さんの誘いに乗っても大丈夫だろうと考えたから。
彼の背中が見えなくなった後、私は島の西端に向かった。この島の西端には、今はもう使われていない、廃屋と形容することも考えなければいけないほどに廃れた商店がある。
店の前に立てかけてある看板を退けドアを引き、そして中に入る。
探しものは直ぐに見つかった。
それはかつてはレジとして使われていたのだろうと推測される、古い台の上にあった。
小さな、そして古びた2冊のメモ帳。
ここにあると知らなければまず間違いなく誰も目にすることの無いもの。
私は1冊を手に取りペラペラとページをめくる。どうやら日記のようだ。
「7/8 きょう、がっこうでおにごっこをしました、たのしかったです。いっしょにあそんだのは──」
めくる。
「9/18 きょうはおしゅうじをべんきょうしてきました。きれいにかけてよかったです。あとはさんすうがむずかしかったです。」
めくる。
「きょうはがっこうで──」「──くんといっしょに」「きょうは──」「きょうは──」「きょうは──」「きょうは──」
ペラペラめくる。そして。
「きょうはおにいちゃんにあいにいきます。
たのしみです。」
ここで終わっている。
「緋衣島少女失踪事件についての考察」
もう1冊の表紙にはそう記されている。
私がこの島に来た理由の一つはこの冊子だ。
緋衣島少女失踪事件。滅多に人の死なないこの島で、人が死んだ日。
事件といえば誰々が喧嘩したのような小さな島で、ましてや謎の多い事件だったため、一時期島中は大騒ぎになった。けれど、事件の凄惨さが伝わるにつれて次第に島民達は口を噤むようになった。幸いにも島外に情報が伝わることはなく、本土のマスコミやら野次馬やらに嗅ぎつけられることはなかった。
正確に言うのなら、「ほとんど」なかった。現に、私は島外からこの島を訪れたのだから。私のようにこの島に来た人間はいる。彼らは独自のネットワークを築き、そして事件についての情報を持ち寄ってこの手帳に記した。事件が起きたのは6年前。
被害者の名前は──西条凛。
中学二年生の女の子だ。
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