4

 その日は良く晴れて、蒼く澄み渡った秋空だった。


 穏やかな潮風の中、私と新鳥野さんは何度も先頭交代ドラフティングしながら自転車道を走る。左に広がる蒼い日本海は、緩やかな波に覆われている。暑くも寒くもない、ちょうどいい気温。とても気持ちいい。


 午後3時、私と彼は目的の千里浜なぎさドライブウェイに到着した。浜には車やバイクが結構いる。ここの砂はとても固く締まっているので、オフローダーでなくても十分走れるのだ。


「うーん。潮風が気持ちいいですね」私が伸びをしながら言うと、


「そうだね」新鳥野さんが応える。


「……」


「……」


 それっきり、無言。


 いや、私も休憩のたびに色々話しかけてみたけど、いつもこんな調子。どんな話題にしても会話が続かない。


 しょうがない。私はとうとう切り札を投入することにした。実は、光について私も少々勉強したのだ。


「ねえ、新鳥野さん」


「はい?」


「この前、フォトンは光の粒子って言ってましたよね。だけど……光って波長があるじゃないですか。光の色って波長の違いですよね? ってことは……光は波ですよね?」


「……!」


 ものすごい速さで彼の顔が私に向けられる。


 なに、この食いつき方。目の色が完全に違ってるよ……


「でも、波と粒子って全然違う物でしょ? だったら、光は粒子なんですか? 波なんですか?」


「……君はそれを、僕に聞こうというのかい?」


 新鳥野さんの目が、キラキラ輝いている。


「え、ええ」


「分かった」


 そして、彼の講義が始まった……


---


 1時間近く経ってようやく新鳥野さんの講義が終わった。だけど……意外に分かりやすかった。砂浜に図を描いたりして、文系の私でも分かるように説明してくれる。


 そして、私の質問に対する直接的な答えは、「光は『粒子』であり『波』でもある」ということ。矛盾するようだけど、光はどちらの性質も備えていて、「観測」の仕方によってどちらかの性質がより強調されるのだという。一般的には「観測」すると、ぼやっとした波の性質が一気に失われる。これを「波束の収縮」というらしい。


「なんか、光、って人間みたいですね」


 私が言うと、


「ええっ? どういうこと?」


 新鳥野さんが心底意外そうな顔になる。


「だって、ボヤッとしてる時に何か閃いたりするのって、『波束の収縮』ぽいじゃないですか。それに人間は、アンビバレントって言うのかな、粒子と波みたいに相反する感情を同時に抱えたりしますよね」


「……あっはっはっ!」


 いきなり新鳥野さんが大声で笑い出した。


「ちょ、ちょっと、どうしたんですか?」


「はっはっは……あぁ、ごめん、その発想はなかったよ……君、面白いこと言うね」


「はぁ……」私は首を捻ってみせる。


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