第22話 推察と証明

 深雪君がいなくなってから早くも一週間.

 D地区内全域を捜索,各家庭への強制捜査などを行ったが,深雪君は見つからず,D地区内に深雪君がいる確率は,ほぼ0に近くなった.

 研究都市がどういうルートを使い,深雪君をさらったのか未だにわからず,僕は,心をろくに休ませることができなかった.

 もちろん休みたいわけではない,深雪君という仲間..いや家族を失っているのだから.

 

 これは僕の責任でもあるんだ.

 深雪君に護衛を付けるべきだった,深雪君ともっとコミュニケーションを取っておくべきだった,大通り以外のセキュリティを強化しておくべきだった..

 考えればキリがない.


 あれから令司君の姿は一度も見ていない,ここで,僕がキレイごとを並べて,励ましたところであの状態じゃ聞く耳すら持ってくれないのは目に見えている.正直,あそこまで令司君の精神が脆いとは思わなかったが,考えてみれば,まだ17の大人になりかけの子供だ.突然,大切な人がいなくなってしまえば,あのようになってしまうのも無理はない.

 大人の僕がしっかりしなければ..


 でも,さすがの僕も少し疲れたな..


「マリー少し外に出てくるよ」


「はい」

 

 疲れた様子もなく,テーブルの上で一枚一枚の書類に目を通すマリー.


「頑丈だね君は」



 一週間ぶりの外.


 このD地区の大通りを何の目的もなく歩く人は意外にも多く,僕もその一人だ.

考え事をするときは,椅子に座り,じっくりと考えるよりかは,体を動かしながら,なんとなく考える方が頭の休憩にもなり,結論までの近道だったりする.


 この一週間,三人の殺された仮面の男や能力者でもない仮面の男たちに僕の能力が利かなかったこと,そして,深雪君の輸送方法.これらを焦点にして動いてきたが,100%完璧に証明することができない.

 そして,最近,また新たな疑問が僕の頭の中を混乱させている.


「どこで情報が漏れた?」


 令司君と深雪君の二人がこのD地区に来て約一か月.D地区の管理部の話を聞く限り,A地区の潜入捜査に行っている節君と綺羅君を除いて,誰一人このD地区からは出ていない.そういう意味では,情報の流出などありえない.

 考えられる可能性としては,管理部にミスがある もしくは,節君と綺羅君が裏切り..そして,最悪の可能性はこのD地区に研究都市のスパイがいるということだ.

 管理部にミスがある場合,そのうちミスが発覚するからまぁいいだろう.次に,節君と綺羅君についてだが,あの二人の過去を聞く限り,裏切る可能性は極めて低い.そして,仮に,二人がスパイなのだとしたら,僕に推察されてしまうような,こんなわかりやすい方法で情報を流すわけがない. 

 そして,研究都市のスパイの可能性は..


「いや..今考えるべきことではないか」


 ブツブツと喋りながら歩いていたせいか,子供から指を指され笑われる.それを見た親がその子供を全力で止める様を横目に見ながら,再び思考する.


 風の噂か何かは知らんが,情報が漏れたのは確か.そして,僕が何より恐れているのはこの先のことだ.

 もし,深雪君....研究都市が探している「桜」がD地区内にいるという情報が研究都市の上層部にも伝わっているとしよう.その場合どうなる? D地区は,他地区に対して「桜」がいるという情報を隠蔽したと認識されるだろう.そして,この先,警戒され,こちらも不用意に動けなくなる.最悪の場合,準備も不十分なまま戦争に突入してしまう.

 こればかりは上層部に伝わっていないことを祈るしかない.


 いや..待てよ.

 D地区に深雪君がいる情報が他地区に伝わっているなら,どうして僕に直接,深雪君の身柄をよこせと言わずに,誘拐するなどという面倒な方法を選んだ? 一応,D地区も他地区と同じ研究都市だ.何かあればギブアンドテイク..交渉をしてくるはずだ.この貧弱の国とは交渉する価値もないということか.それとも.. 


「参ったな..完全になめてたよ..確定ではないけど,僕たちが他地区に喧嘩売ろうとしていることバレちゃったかなぁ.ということは情報駄々洩れ..スパイはおそらくいる.そして,そのスパイは,深雪君や僕の目的を知っていたことからも,多分,僕の身近にいる」


 しかし,他地区からの連絡は一切ない.考えられるのは4つ.

 1. 誘拐したのは,実は,研究都市とは全く関係のないただの女に飢えた男.

 2. そもそもD地区や僕と深雪君の間に関係がないと思われている.

 3. 今回の件に研究都市の上層部は一切関与してなく,深雪君を誘拐したのは

  研究都市の末端の連中.

 4. D地区には力がないから,仮に戦争を目論んでいることがバレても,ただ笑われ

  て無視されているだけ.


 まず,1の可能性はないに等しい.僕たちが勝手に深雪君を誘拐したのは,研究都市だと決めつけてはいたが,あの仮面男らはおそらく,誰かに雇われた者たちだろう.その証拠に三人とも仮面を付けている.調べたところ,あの仮面は,C地区で主に研究都市から闇の依頼を受けている団体ということからもバックは,研究都市確定だ.つまり,雇い主..おそらく研究都市に殺されたと推察できる.

 

 次の2の可能性も低い.もし,僕と深雪君の間に関係がなかったら,なぜ,あの三人のただの超能力者でもない仮面男は,僕の能力をすり抜けるようなトリックを使ったのだという話になる.つまり,雇い主から何か僕の能力をすり抜けるトリックを受け取ったと考えられる.


 有力なのは3と4だが,3の場合,「桜」の研究する技術や金など持っていない.それに「桜」に固執している上層部にバレたときには,殺されるのは間違いない.


「つまり僕たちは相手にされてないってことなのかねぇ..わかってはいたけど..」

 

 公園のベンチに腰をかけ,青い空をジッと見つめる.

 

「さすが僕..100%とは言えないが,ある程度の推察はできているじゃないか.そうだ.別に完璧な答えを出す必要はない.可能性で良い..考えられるであろう事象を適当に出していけば良いだけじゃないか」


 そうだ..この調子で推察していくんだ.的外れでも良い,バカな妄想でも良い.僕ならどうするかを考えるんだ.

 

 さっきの推察から,雇い主が僕の能力をすり抜けるトリックを仮面男に渡し,そして何らかの理由で殺した.

 ここでの殺された理由はもはやどうでもいい.


 問題は,その雇い主がどうやって深雪君を連れて,このD地区を出て,他地区へと帰ったかだ.

 僕の能力に反応しなかったことからも,その雇い主は,その謎のトリックを使ったもしくは,僕より能力限界容量キャパシティの高い能力者だったと考えられる.

 しかしだ,仮に謎のトリック(外部干渉無効化)がその雇い主の能力だった場合,他地区に帰る方法がなくなる.


 この前,裏で密かに連絡を取り合っていた海軍によるとステルス性の物も探知できるレーダ探知機を使ったが,D地区周辺にそのような反応はなかったとこのこと.

 このことからも雇い主は,深雪君を抱え,自力で帰ったと推察できる.そして,その自力というのは,おそらく能力を使ってということだ.


 つまり,ここで考えられるその雇い主の能力は,とある場所と場所との空間を繋げてとなりの部屋に移動するかのような時空間能力,数キロ先までを一瞬で移動できる瞬間移動能力だ.


 今挙げた中から選ぶとするのならば,雇い主は,おそらく瞬間移動能力系の能力者だ.これなら,人を一人抱えて,他地区まで移動するのは面倒とはいえ容易だし,突出した能力限界容量キャパシティも必要ではない.

 時空間能力は..いたとしても限界醒覚オーバーやかつて存在した魔法使いクラスの化け物級の能力だ.これは候補に出しといて申し訳ないが,考えにくい.

 

 本当に今挙げたような能力が実際に存在するかはわからない.なんせ僕の妄想なのだから.

 ただ,少しでも真相に近づけるのならば間違っていようとも僕は,努力を惜しまない.

 そうやって今までもやってきたんだ.

 仮に,他地区に今このとき戦争を吹っかけられたとしても僕は,潔く戦って死ぬ.

 そのぐらいのバカと覚悟がないと,D地区の管理者などやってはいけない.

 

 深雪君は,必ず助ける.

 神になど誓わない,僕の力で助ける.

 そのためには,協力はもちろん仲間との信頼が必要だ.

 そして,まだ完全に信頼が構築しきれていない仲間に対しては,僕が頭を下げてお願いをする.そして,少しずつ関係を構築していく.


「海軍のみなさまに深雪君の居場所調べてもらおっかな..頭下げるのあんまり好きじゃないんだけど..やむを得ない」


 公園のベンチに座るミブロ,公園で遊んでいた子供たちからは,なぜか大人にも関わらず,一緒に遊ぼう!と声を掛けられるのであった.

 


 

 

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