第17話 記憶の姉妹
目を覚ますと隣で寝ていたはずの令司の姿がなかった.
「そっか..今日は朝から図書館に行くとか言ってたっけ..」
令司はバカな私とは違ってわからないことがあるとすぐに知識を吸収しようと行動する.
とても勉強熱心でかっこいい,それにこの毛布..きっと令司が寝相の悪い私を見て部屋を出るとき掛けてくれたんだと思う.
見た目や言葉遣いはあんなだけど,本当は優しい心の持ち主..このことを知っているのが私くらいだと思うと何だか嬉しい気持ちになる.
あ..節君や綺羅ちゃんも知ってるのかな? 昔からの友達って言ってたし.
台所に足を運ぶと朝ごはんが用意してあった.
このと隣で寝ていたはずの令司の姿がなかった.
「そっか..今日は朝から図書館に行くとか言ってたっけ..」
令司はバカな私とは違ってわからないことがあるとすぐに知識を吸収しようと行動する.
とても勉強熱心でかっこいい,それにこの毛布..きっと令司が寝相の悪い私を見て部屋を出るとき掛けてくれたんだと思う.
見た目や言葉遣いはあんなだけど,本当は優しい心の持ち主..このことを知っているのが私くらいだと思うと何だか嬉しい気持ちになる.
あ..節君や綺羅ちゃんも知ってるのかな? 昔からの友達って言ってたし.
台所に足を運ぶと朝ごはんが用意してあり,そこにはおにぎりとちょっとしたおかずがテーブルに並べられていた.
この厚焼き玉子の形と焼き具合,令司が作ってくれたものに違いない..長年 料理を令司に教えてきた先輩としてはパーフェクトとは言い難いが,私の目には,誰が作る玉子焼きよりも美味しそうに映った.
私は椅子に座り,用意してくれた朝ごはんを口に運ぶ.
「はぁ..暇だなぁ」
このD地区に来てからというものの私は常に暇を持て余している人間になってしまった.
難しい話はわからないけれど,令司が言うには,私を狙う怖い人達がいるから一人では外出するなとのこと.
私は令司の言う通りここ数週間,一人では外出せず,令司ぐらいとしかまともに喋ってない.
「私このまま おばあちゃんになっちゃうのかな~」
色々考えていたらいつの間にかご飯を食べ終えていた.
「ごはん食べ終わっちゃった..唯一の楽しみが..」
椅子から腰を上げ,簡単に食器を洗いながら,何をしようか考えていると令司が言っていたことを思い出す.
「そういえば..外出はダメだけど,このビルの中なら自由にしてもいいんだった..」
思い立ったが行動.
特に行き場も目的もないけど,今日はこのビルを散歩しよう!
さすがにこの服装だとまずいので,部屋着から外出用の簡単な服に着替え,部屋の鍵を閉め いざ出発!
「....どうしよ. 行く場所ない..図書館に行ってもいいけど令司の邪魔になるだろうし..」
左と右どちらに行けばいいのかわからず,部屋の扉の前から動くことができない.
「よし! 考えるのはやめよう!」
考えることはやめ,とりあえず適当に歩くことにする.
階段,エレベーター,エスカレーターを使いとにかく何も考えずに歩き続けた.
「....なんか寂しい」
あまりに悲しすぎてポツリと声を出してしまう.
「もう令司のところ行こうかな..」
そんなことを考えていると,前方からどこかで見たことのある顔がこちらに向かってくる,真っ黒な髪を腰の辺りまで伸ばし,肌が白い,そして表情を一切変えずに前を向き歩いている.
「あ..イアさん?」
私の声に反応したのかイアが足を止める.
「....」
「えっと..リアちゃんはどうしたの?」
「....」
無言..そっか..お喋りすることできないんだっけ..
イアさんは,どうして一人で歩いてたんだろ? 何か用事でもあるのかな? もしかして私と同じで暇を持て余してるとか! ....それはないか..
何か用事あるだろうし,私がここで引き止めちゃったのは迷惑だよね..
「えっと..引き止めちゃってごめんなさい. 今度お時間あればゆっくりお話ししましょ! 」
そう言い私はこの場を離れようとする.
ん? お話しましょ!ってイアさん喋れないじゃん! 私のばかぁ~
「うぅ..」
頭の中ですでに過ぎ去ってしまった会話を後悔し,ああすれば良かった,こうすれば良かったなどを考えていると,突然 右袖が何かに引っ張られる感覚に襲われる.
右後ろを振り向くと,イアさんが私の袖を掴んでいた.
「え?」
私はどう反応して良いのかわからず,数秒の間茫然としていた.
「....」
もちろんイアからの反応はなく,この袖の掴みに何の意味があるのか私にはわからなかった.
「..イアさんどうかしましたか?」
「....」
うぅ..無視されてる感じがして今すぐにでも泣いてしまいたい..
私は自分の弱い頭でイアが何を伝えたいのかを考える..お腹がすいた? 私の服装がおかしい? 私の顔が変? 私が....ダメだ..何もわからない.
頭をフル回転させていると一つの答えにたどり着く.
「!! もしかしてリアちゃんとはぐれちゃった?」
イアの反応は言うまでもなく無反応だった..しかし,リアの右袖を掴む手の力が一瞬強くなったのを深雪は逃さなかった.
「わかった! 一緒に探そう! おー!」
イアの反応はなく,少し寂しい感じもしたが,目的もなく歩いていた私にとってはこの面倒事は喜ばしいことだった.
私が勝手に盛り上がっちゃってるだけで,本当にリアちゃんを探しているのかはわからないけど..
どれくらい歩いただろうか? 食堂,休憩スペースなど人の集まるところをだいたい見てまわったがリアの姿はなかった.
体力のない私は少し疲れ始めていた.
「いないね..」
最後の砦だったミブロ部屋も覗いたが,リアどころか誰一人として部屋にいなかった.
「う~ん. 他に居そうなところ..」
今日を振り返ってみると見ていないところが一つあった.
「は!? もしかして図書館?」
令司がいるせいで自然と避けてたけど,あそこにならもしかしたらいるかも! でも令司の邪魔に..いやいやイアさんのためだもん! それにリアちゃんも困ってるに違いないし!
今日の私なんか冴えてるかも!
「イアさん,もしかしたらリアちゃん図書館にいるかもなので ここ最上階ですけど地下まで行きましょう!」
「....」
さすがの私もこの空気にはもう慣れた. イアさんの病気? が治ったらきっと今日の出来事を楽しくお話ししたい. だから今のうちに仲良くして,お友達になる!
私は手をギュッと握りお友達100人計画を着々と進める.
エレベーターに向かおうとイアさんと廊下を歩いていると,曲がり角から金髪のツインテールの少女がこちらに気付くなり,全速力で走ってきた.
私の目は,その速度に対応していなかったらしく気付いたときには,その少女..リアちゃんがイアさんと抱き合っていた.
「お姉ちゃん! どこ行ってたの! 心配したんだから..」
抱きつかれても何も反応しないイアさん,でも私にはわかる..イアさんの妹のリアちゃんを見る優しい目. きっと感情も心も死んでなんかない. 今も必死に自分自身と戦っているんだ.
私はそんな姉妹の抱き合う姿が羨ましく素敵なものなのだと感じた.
私にも妹かお姉ちゃんいたらこんな風に抱きついてもらえるのかな?
「お姉ちゃんか..」
そんな微笑ましい姿があまりに羨ましく,つい声に出てしまった.
その二人の光景を見ていると..
「痛っ...」
突然頭に痛みが走り,あまりの痛さに手で頭を抑える.
痛みが走るのと同時に私には見覚えのない謎の記憶が流れ込んでくる.
「みゆ..」
声を掛けてくる女の人の優しい声,優しい手,優しい目.
「えへへ..お姉ちゃん大好き!」
これは昔の私? いや..でもこんな記憶知らない.
そして あの女の人は一体..
「あなたは..誰?」
遠くから聴こえるリアちゃんの声.
「深雪ちゃん!」
その私を呼ぶ声に夢の中から我に返る.
「え..? あ..リアちゃん」
私の顔の前にはリアちゃんの顔があった.
私を心配してくれていたらしい.
「深雪ちゃん大丈夫?」
「うん..大丈夫だよ」
こうは言ったものの額には汗が流れていた.
何だったんだろ..今の..
「ほんと? さっきあなたは誰とか言ってたよ? 本当に大丈夫?」
どうやら声に出してしまっていたらしい.
余計にリアちゃんに心配をかけてしまった.
「大丈夫大丈夫. 久しぶりに歩いたから疲れちゃっただけだと思う」
「それなら良いんだけど..」
今の説明に納得のいかない顔をするリア.
「部屋まで送ってくよ?」
これ以上リアちゃんに変に心配をかけたくもないので..
「じゃあ..部屋までいいかな?」
私はそう言い,部屋まで足を動かす.
さっきのあれ..何だったんだろう..
さっきの夢?の記憶は鮮明に覚えてる.
私は確かにあの顔も声も知らない女の人にお姉ちゃんって言ってた..
私は..おばさんに拾われて,それから令司と出会ってそれから....
あれ? おばさんと出会うまでの私って何だったんだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます