第13話 D地区(8)

 限界醒覚オーバー..


「桜」と同じく世界に5人しか存在しない超能力者.


 その一人が弟..ミブロの弟だと言う.


 兄弟揃ってとんでもない奴らだな..もう一人は悪い(バカという)意味で.


「特に深い意味はありませんよ. 限界醒覚オーバーについて令司さんも少しは知っておくべきかと思いまして. それに弟さん自己紹介されてなかったので代わりに私がしたまでです」


 ミブロの弟と言うだけでインパクトのある自己紹介だった気はするが,まあ..限界醒覚オーバーとかいうよくわからん超能力者だったなら少し不十分だったのかもしれない.


「他の4人の限界醒覚オーバーの詳細は把握してるのか?」


 単純に考えるならば,他の4人は俺より序列が上の1位~4位の連中ということになるが,ピーススクールの序列などもはや過去のデータだ. 加えて,能力限界容量キャパシティが高いからと言って高い序列を付けられるわけでもない. そこに身体の健康状態や身体能力などの個々の人間としてのスペックも考慮されるから正直当てにならない.


 それに おそらく高能力者であろう深雪やその限界醒覚オーバーとやらの弟のようにピーススクール外の超能力者もいる.


「いえ. 私も詳しいことまではわかりません.そうですね.. ミブロは何も言っていませんでしたが,そのミブロのこれから会わせたい方というのも限界醒覚オーバーの一人です」


「それ今言っちゃって良いのかよ. ミブロはお楽しみにとか言ってなかったか?」


「構いませんよ. この限界醒覚オーバーの話を自分からしたかっただけでしょうし」


 ミブロの悔しがる顔が目に浮かぶ.


「まあ あのバカのためにもこの話はここまでにしときましょう」


 秘書が管理者をバカって言っちゃったよ.


 そんなマリーだからこそあいつの秘書が務まっているのだろう.


 何だかんだミブロとマリーの相性は良いのかもしれない.


「んじゃ 他はどうなってる?」


「残りの3名の限界醒覚オーバーのうち一人は現在生死不明として扱われています」


「生死不明なのに限界醒覚オーバーとしてカウントされるんだな」


「はい. 研究都市では生死が完全に確定するまでは生存者として扱います. そしてその方は確か.. ピーススクールでは序列3位に位置していたとか」


「1位でも2位でもなく3位なのか.. そういえば1位と3位の話は聞いたこともないし,見たこともないな」


 本当にいたのだろうか.. 今となってはどうでも良いことだが.


「そうですか.. 私たちD地区も1位3位の情報にアクセスしようとC地区のピーススクールサーバーにハッキングを試みたのですが,そもそも二人のことに関するデータが存在しないんですよ.. 消去された履歴は残っていたので何者かが隠蔽しようとしているのは明白なのですが」


 さらっとハッキングとか言うあたり思ったよりD地区は生き生きしているのかもしれない.


「何かあるのは間違いないだろうが,今考えてもしょうがないな」


 ふと腕にやわらかい感触を感じる.


「令司! さっきから何話してるの?」


 毎度のごとくその大きな胸を俺の腕に押し付けてくる深雪.


「お前の頭じゃ理解できない難しいお話だ」


 少し煽り気味に言ってみると,深雪の顔が不機嫌になる.


「そんなにマリーさんと喋るの楽しいの? それにさっきだってリアちゃんのことリアって呼び捨てにしてたじゃん. 初対面なのに..」


「何が言いたいんだよ..」


「もういい! 令司のバカ!」


 そう言うとプイッとそっぽを向いてしまった.


 深雪の考えていることはよくわからない.. 昔はこんなことなかったんだけどな.


 そのやり取りを見ていたマリーがクスッと笑う.


「本当に仲良いんですね. 素敵です」


「おいマリー.リアと全く同じこと言ってるぞ」


「あら. 今の光景を見せられたら誰しもこの感想を言うと思いますよ?」


 全く..マリー含め女というのはすぐ恋の路線に話を乗っけようとする.


 深雪はあくまで俺の恩人であり,家族みたいなものなのだからそう言った感情は一切ない.


「いいから残りの二人を話してくれ」


 やや呆れた声で言い,俺はこの面倒な話を無理やり終わらせる.


 マリーはそんな俺を察してか中断した話を黙って再開する.


「残りの二人は現在C地区にいると聞いています. 「桜」とその監視者ですよ」


 ....


 え?


「「桜」ってあの?」


「はい. あの「桜」です. 令司さんの隣にも歩いている「桜」です」


 「桜」という言葉に反応したのか深雪が少しこちらをチラッと見るが,機嫌がまだよろしくないようでまたそっぽを向いてしまう.


 まさか1日で2人の「桜」が話に出てくるとは思いもしなかった.


 海軍のリーダーと限界醒覚の「桜」,話に出てこない方がおかしいか.


「色々すごいな.. てか「桜」と限界醒覚オーバー重複してんのかよ」


 「桜」,限界醒覚オーバーが各5人ずついると思っていたが,どうやらそうでもないらしい.


 改めて「桜」というものが化け物なのだと思い知らされる.


「自己修復能力があって限界醒覚オーバーとか超能力者の域を完全に超えてるな.. かつての魔法使いに匹敵するんじゃないか?」

 

「そうかもしれませんね. 本当に「桜」は素晴らしいですよ..」


 ....


 このとき,一瞬だけマリーが笑っていたような気がした.


 その後,このクソでかい図書館を適当に見て歩きまわり,エレベーターでミブロのいる最上階へと向かった.

 

「先程の話の続きになりますが,「桜」の監視者には気をつけてください」


 地下から最上階へ上るエレベーター内にマリーの声が響く.


「そいつに限った話じゃないだろ. 研究都市の連中は誰であろうと警戒してるつもりだ」


「そういうことではありません. その監視者は人間ではありませんので..」


 人間ではない? 人造人間か何かだろうか?


「..一つ言っておきますと監視者は動物です. 忠告はしました. 無事を祈ってます」


 ??


「いやいや何もわからんかったぞ. そもそも動物ってなんだよ」


「自分の頭で考えてみてください」


 そんな質問ばかりの俺に嫌気が差したのかマリーに見捨てられる.


 意味がわからない俺はただ黙るしかなく,ただ不安を煽られただけだった.


 外の世界に来て気付いたが,案外ピーススクールに収容されていた超能力者は大したことないのかもしれない.


 序列に興味はないし,どうでもいいことだが,一応 5位だった俺が霞んでしまうくらいだ. 本当に外の世界は広く,世間知らずだったのだと思い知らされるよ.

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