第12話 D地区(7)
「....」
「....」
黙り込む俺と深雪.
いやいや話重すぎだろ,やはり聞くべき話ではなかった.
深雪なんか隣で鼻水垂らしながら,泣いちゃってるし..
「うぅ.. 素敵なお姉さんだったんだね.. リアちゃん私と同じくらいの歳なのに一人で辛い思いして頑張ってきて偉いね.. 令司がそうなっちゃたら私生きていけないよ」
深雪よ そこで俺の名前を出すのはやめてくれ.
「そんなに泣かないで深雪ちゃん.別にお姉ちゃんが死んじゃったわけではないし,私はいつか感情が戻ってまた楽しくお姉ちゃんとお喋りできる日が来るって信じてるから! 全然大丈夫!」
見た目通りのポジティブ少女だが..さて心の中はどうだろうか? いや..深く考えるのはやめよう.
「リアちゃんはどうしてD地区に来たの?」
泣いたせいか若干鼻声になっている深雪が珍しくまともな質問をする.
「うん. あのあとねお姉ちゃんを抱えて行く当てもなく歩いてたら偶然リーダー(ミブロ)と出会って..あとはまぁ..成り行きでね」
偶然ねぇ..あのミブロが目的もなく,自分にとっては何の魅力もないであろう村の近くを徘徊するとは思えないが.考えれば考えるほど謎が深まっていくばかり,よし考えるのはやめよう.
「それでね. お姉ちゃんの目が覚めたのはD地区に到着して二日後くらいのことなの. 最初は嬉しかったよ. このまま死ぬまで眠ったままなんじゃないかと思ってたからね. でも見ての通り感情が死んじゃってたの. 原因はわからない. ただ..もう一度お姉ちゃんの声聞きたいな..」
そんな思いも虚しく,リアの隣でただ突っ立ているイアは無反応だ.
再び重い空気が辺りを覆う.深雪が涙をグッとこらえているのを横目で見る.
おいぃぃ! いつまでこの暗い話続けるつもりなんだよ! そしてお前もいちいち泣くなよ.どうして誰にも話したくないような二人の暗い過去を俺たちにしてきたのかを尋ねたいところだが,もうこの空気には耐えられそうにない.
「えっと..リア. 時間もあれだし..そろそろ行ってもいいか?」
精神的に疲弊したせいだろうか,自分の言葉が弱々しくなっているのを感じた.
「うん話聞いてくれてありがとう. あと,令司君深雪ちゃん 変な空気にさせちゃってごめんね」
いやいやこの空気になるのわかってたでしょ絶対.ドMかと思っていたが,もしかしてこいつドSか? もしそうならかなり厄介だぞ.
「また機会があればお話ししようね!」
リアの言葉に 「どうか勘弁してください」 そんな感想しか出てこなかった.
「リアちゃん,イアちゃんまたね」
深雪が小さく手を振り別れを告げ,リアは笑顔で俺たちを見送っている.イアは乾いた目で俺たちをジッと見ている.
「あ! そうだ!」
何かを思い出したかのようにリアが俺の方に近づいてくる.
おいおい! 来るな来るな!
そして深雪に聞こえない程度の声で俺に話しかけてくる.
「ごめんね. さっきはあんな話しちゃって..ただわかって欲しいの. 大切な人ほど案外簡単に失ってしまうってことを..私のような思いを誰にも感じさせたくない. 令司君もわかっているだろうけど,深雪ちゃんは特に危ない. だから彼氏として彼女を絶対に守ってあげてね!」
「一つ言っておくが俺と深雪はそういう関係じゃない. それにお前なんかに言われなくても深雪は俺が守る(恩人として..)」
「深雪ちゃんも令司君のような素敵な旦那さんを持てて幸せ者だな! もし困ったことがあったら遠慮なく相談してね. 私は絶対に誰も見捨てないし,必ず君の力になるよ」
「んじゃそのときはよろしく頼む. あとそういう関係でもない」
「あはは! わかってるわかってる! それじゃーねー!」
笑顔が眩しいな.
研究都市がなかったら,純粋で優しい心を持つ普通の女の子として育っていたのだろう.きっとある日を境にそれが一瞬で壊され,普通の生活じゃ絶対に生まれてこないような感情に飲み込まれてしまい抜け出せなくなる.俺もそうだ,この感情を消すことなど絶対にできない.
そう思っていた. だが,不思議と深雪を見ているとその感情から解放され,忘れることができる.これも「桜」の力なのだろうか? そう疑ってしまうほど心地が良いのだ.
「令司~遅いよ!」
少し先に進んでいた深雪が戻ってくるなり,俺の腕にがっしりと腕を組んでくる.
「行こ?」
今思えばニコッと笑うその顔に俺は恋をしていたのかもしれない.
深雪のことが好き..
青年がこの感情を自覚するのはもう少し先の話だ.
イア&リアと別れたあと俺と深雪はマリーが待つエレベーターに向かった.何だかんだ30分以上マリーを待たせていた.
「堪能いただけたようで何よりです. 何を食べられたんですか?」
「いや何も食べてないぞ」
「え?」
マリーが予想の斜め上の回答に驚いていた.
あの二人からとても暗い過去を聞かされたあとだ,食欲が出ないのも無理はない.
「なるほど.. リアさんに捕まったのですか. しかし珍しいですね リアさんが初対面相手にその話をするなんて」
え? そうなの? 誰にでもベラベラ喋ってるのかと思ったんだが.
「はぁ..何なんでしょうね..」
「次はどこ行くんですか?」
深雪が目をキラキラさせながらマリーに聞く.
その後はマリーに連れられて 購買,射撃場,道場,ジムなどまぁ見てもつまらないところへ案内された.
気づいたときには夕暮れを迎えていた.
「最後にここが図書館です」
図書館だけは地下にあり,どの施設よりも大きく,端から端まで本がびっしりと並んでいた.
あんな高いところにある本どう取ればいいんだよ..
そんなことを考えながら図書館の奥へと進んでいく.
進んだ先には,一人の少年が本を積み重ねたイスの上にちょこんと座り本を読んでいた.
「お久しぶりです. 弟さん」
マリーの声に反応した少年がこちらを向く.
「マリーか. こんにちは. ん? 後ろの二人が噂の令司君と深雪さんだね. 兄から話は聞いてるよ」
深雪は軽く会釈する.
少年の声のトーンはとても落ち着いており,子供だとは思えなかった.
「僕はミブロの弟. 弟と呼んでくれ. あとこう見えても君たちより少し年上だからよろしく」
どうやらこの家系はチビしかいないらしく,言われてみればどこかミブロの雰囲気がある.
てかあれに弟がいたとは.. 第一印象は,落ち着いていてクールと言った感じだ.ミブロとは真逆だな.
「マリー 二人を連れてきてくれてありがとう. 一目見たかっただけなんだ」
そう言い彼の視線は再び本に戻る.
え? これだけ? 別に親しくするつもりもないし構わないが.. イア&リアとギャップが激しいな.ん? てか結局名前聞いてないような. いや..マリーも弟って呼んでたし..もしかしてミブロの弟の名前って弟なのか? 何かややこしくなってきたな.
「それでは失礼します」
マリーがそう言うと本に没頭しているのか返事もなかった.マリーが歩いてきた道を戻り始める.
「ミブロの雰囲気とは正反対だな」
「令司さん.
「ああそりゃ知ってるが..唐突だな」
「ピーススクールの基準で言いますと超能力を司る機能が脳の約4%を占める場合,序列100位前後に位置するとされています. 令司さんは序列5位だったと聞いていますが能力限界容量(キャパシティ)はいくつありましたか?」
「確か7%だ. 何が言いたい?」
「さっき話した弟さん..ミブロの弟は12%あります」
何か..マウント取られてる気分だな.
「
「
そしてマリーは真顔で答える.
「違います」
....
違うんかい!
このD地区に来てから俺の調子は狂うばかりだ..
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