第7話 D地区(2)
「歓迎するよ」
その声のする方に顔を向ける.
身長は160cmほどだろうか.
黒髪でニヤリと笑う少年のような顔立ちの男が社長椅子に腰を掛けていた.
一言で言ってしまうならばチビだ.
そしてその隣に立っている赤髪の短髪女性は秘書の方だろうか.
赤髪とはまた珍しい..
秘書の方は深雪を舐めるように見ていた.
そして部屋にあるソファには綺羅がくつろいでいる.
こんなに大人数で一部屋にまとまるのは何年ぶりか.
「とりあえず簡単に自己紹介でもしようか」
そう話を切り出しのは節だ.
始まる自己紹介.
社長椅子に腰をかける少年が立ち上がり口を開く.
「どうもこんにちは. 研究都市D地区管理者のミブロだ. 趣味は自分より強い者を負かし罵倒することだ」
また随分とマニアックな趣味だな.
「よ ろ し く」
なぜ間隔あけた.
そしてなぜ二指の敬礼をしてくる.
隣に立っていた秘書らしき女もそれに続く.
「初めまして. ミブロの秘書をしておりますマリーゴールドと言います. 長いのでマリーとお呼びください」
管理者様呼び捨てかよ.
そんなことを考えながらこちら二人も空気を読み超簡単に自己紹介をする.
「令司だ」
「桜深雪と言います」
適当な俺とは違って深雪は礼儀正しくお辞儀をしていた.
一応お偉いさんだし,せめて会釈くらいはすべきだったか.
自己紹介を終え,ミブロが深雪をじろじろと見ながら席を立つ.
そして考えたくもなかったことが起きる.
「さ~てと,僕らの目的はそこにいる「桜」を渡してもらうことだ」
笑みを浮かべながらミブロが深雪に近づいていく.
「今すぐにでも実験に協力してもらいたい. もちろん拒否権はないよ」
緊張が張り詰める.
騙されたのか?
節と綺羅この二人も最初から「桜」の引渡しが目的でD地区へ誘導したのか?
振り返ってみればD地区が財政破綻しそうだという話に根拠などないし,街を見た限り破綻寸前だと思わせる雰囲気はなかった.
どうして気づかなかった....節と綺羅を信用しすぎていた.
どうする?
ここで能力を使って脱出したいところだが節と綺羅の二人相手に逃げることは不可能だろう.
考えているうちにミブロの手が困惑する深雪の頭へと伸びる.
このときの俺は何も考えることができなかったが深雪を守りたい.この気持ちだけは忘れていなかった.
気づいたときには,ミブロの腕を押さえ睨みつけていた.
「深雪に気安く触るな」
ミブロは驚いていた.
そして先程のニヤリ顔に戻る.
「ほほう~ お熱いね~」
節と綺羅もやれやれと言った顔をしていた.
「ミブロ おふざけは見っとも無いのでやめてください」
マリーがミブロに注意する.
「ごめんごめん冗談だよ. 人をからかうのも趣味なもんでね」
「安心してくれ.僕達は君達と敵対するつもりはないしむしろ友好的でありたいと思っている」
ミブロは冗談だと言うが俺の冷や汗は止まらなかった.
顔色も悪かったと思う.
「令司大丈夫?」
深雪が俺の手を握り安心させてくれる.
「ありがとう. 大丈夫だ」
この状況を見たミブロが あ あれ~? という顔をしていた.
「す すまない. そこまで気を悪くするつもりはなかったんだ..」
申し訳なさそうに謝罪してくるミブロ.
信用はできないがミブロがそこまで悪い奴ではないような気はした.
気まづい空気が流れる中,秘書のマリーが話を進める.
「令司さん深雪さん ミブロが失礼しました. そろそろ本題に入らせていただきますのでよろしくお願いします」
その言葉に一同がマリーの方へ向き,ミブロがトボトボと席へ戻っていく.
俺はこのときミブロの演技のせいで何もしていない節や綺羅に対しても疑心暗鬼の目を向けていた.
「まず我々D地区は,節さんから聞いていると思いますが,他地区の崩壊を目的として動いております. そのために我々は,あなた方のような超能力者はもちろん他地区にいる研究都市反対派の投資家及び研究都市の理念に疑念を向ける者と水面下で日々交渉をしております」
「令司さん この街へ来たときおそらく財政破綻寸前の地区とは思えないと感じませんでしたか? これは反対派の投資家が密かにお金を流してくれるおかげなんです」
なるほど. マリーの説明で疑念がようやく晴れた.
「あと心配せずともD地区に令司さん深雪さんを拘束する力もなければ,軍隊及び人体実験に関する技術も保有していないので逃げようと思えばいつでも逃げられる環境だと思います. 何か怪しい動きがあれば,私たちを殺すのも容易いでしょう」
マリーの説明には妙に説得力があった.
信用していいのだろうか?
そんなことを考えていると俺の手をずっと握っていた深雪がマリーに質問する.
「あの..ずっと気になってたんですけど..さっき言ってた「桜」って私のことですよね? えっとその..ミブロさんが言ってた「桜」の遺伝子が長年の研究分野ってどういう意味なんですか?」
そうだった. 当たり前のように聞き流していたがこのことは深雪には何も話していなかった.
「僕が説明しよう!」
マリーに注意されて黙りを決め込んでいたミブロが勢いよく立ち上がる.
「簡単に言ってしまえば深雪君のその傷を負っても回復する「桜」一族が持つ特異体質,そしてかつてのピーススクール序列トップ10に容易に食い込めるであろう超能力及び圧倒的な能力限界容量(キャパシティ). これらは研究都市にとっては金(ゴールド)いや何よりも価値の高い物なんだよ」
深雪の自己修復能力とあの他人を治癒する規格外の能力は「桜」による恩恵だったのか.
つまり他の「桜」4人も深雪のような規格外の能力を保有した連中ってことかよ.
深雪の反応を見るにあまり話を理解していないようだったが,自分が研究都市に狙われていることには気づいたようだ.
「まあ本人の前ではあまり言いたくないんだけど....言っちゃうね!! 研究都市は個体数の少ない「桜」を増やしたい. つまり母体の確保って意味でも深雪君を狙っているんだよ」
ミブロの話を聞き怒りがこみあげてくる.
本当にどうしよもなく腐った連中だと.
深雪は「そうなんだ」 というだけで特に悩んでいる様子もなかった.
いきなりこんな話をされても現実味などなく困ってしまうのも仕方がない.
「ちなみに僕は「桜」とか金とか全く興味ないから安心してね. 僕はただあいつらが悔しい顔をして俺様の靴を舐めてくれればそれでいいんだよ」
不気味な笑みを浮かべるミブロ.
そして,コロッと真面目な顔に表情を変える.
「令司君! そろそろ君の答えを知りたい. 僕達は戦力及び深雪君の保護という意味でも君達と是非協力したいと考えている. もちろん無料で衣食住は提供するよ」
ミブロの提案を断る理由はなかった.
そしてこいつらはおそらく信用できる.
いや信用しなければこの先前へ進むことはできない.
マリーからは感じられないがミブロからは確かに感じるとることができたのだ.
他地区を崩壊させ,俺がトップになってやるという確かな意思を.
「深雪はどうなんだ?」
「私は令司と一緒に入れればそれでいいよ」
可愛い笑顔で当たり前のように答えているが多分俺を除く4人はこいつらもう結婚しろよ なんて思っているのだろう.
「わかった.ミブロよろしく頼む」
ニヤリ顔のミブロが手を出して誓いの握手を求めてくる.
「よ ろ し く」
だから何故この少年は間隔をあける.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます