第4話 研究都市

「令司~」


 声が聞こえると同時に目を開けると深雪の目と目が合った.


「やっと起きたあ. おはよ~」


「ああ おはよ」


 適当に挨拶をし,体を起こす.


 昨日は節と夜まで話し込んでいたせいかまだ疲れが残っている気がする.


「節と綺羅はどこにいった?」


「えっとね. 散歩してくるって言ってたよ」


 散歩?こんな森の中を?


「そうか」


「昨日夜遅くまで話してたみたいだけど何話してたの? やっぱ昔の思い出とか?」


 「桜」について話してたとはさすがに言えないよな.


「まあそんなところ」


「いいなあ. 私もそういう語り合えるお友達欲しかったな」


「これから作ってけばいいだろ. 綺羅とも仲良くなれたようだし」


「うん!」


 と答えるこいつの笑顔は本当に眩しい.



「お~やっと起きたか」


 少しして二人が散歩から帰ってきた.


「ところでおまえらこれからどうすんだ? まさか令司 こんな可愛い子を永遠と連れまわすとか考えてないよな?」


 さすがの俺もそこまで外道ではない.


 かと言ってこれからどこに行けばいいのかわからないのも事実.


「まあ..なんとかするよ」


 自信なさげに答える俺を見かねたのか深雪にいつの間にか手を組んでいた綺羅が提案をしてくる.


「D地区来れば?」


 ん? 


 来れば?


 研究都市に? 


 こいつは何を言ってるんだ?


「どういうことだ? どうして研究都市にわざわざこっちから出向いていかなきゃならないんだよ」


「まあ研究都市管轄外の村にひっそりと暮らしてたんじゃ知らないのも無理はないか」


「よし! 情報弱者の令司君に節先生がご教授してあげよう!」


「いやご教授しなくていい」


 こいつの態度が気に食わなかったので即答した.


「ごめんなさい. ご教授させてください」


 即謝罪する節にどこか懐かしさを感じた.


「んじゃ頼む」


 深雪と綺羅はつまらなそうな話が始まると察し,外へ出て行ってしまった.


「そうだな. 何から話そうか..」


 考えがまとまったのか腕を組みながら口を開いた.


「知っての通り研究都市は権力分散のために4つの都市に分断された. だがピーススクールができた頃から4つの都市のバランスが崩れ始めた. なぜかわかるか?」


「ピーススクール様のおかげでC地区の超能力に関する実験が発展したからだろ?」


「その通り. そしてその現状を見た富裕層いわゆる研究都市寄りの投資家共が金をじゃぶじゃぶと他地区からC地区へ移動させて金を落したからだ」


「この影響をもろに受けたのがD地区ってこと」


「D地区だけなのか?」


「もちろんA地区もB地区も影響がなかったわけじゃない. ただA地区は主に戦闘機やらなんやらの生産拠点になっていて陸軍の拠点もあるからな. 輸出産業と生産拠点といった強味があるわけ. それなりに超能力の研究もしているらしいし」


「まあ覇権争いだかなんだかでA地区とC地区の仲は悪いって言われてるけどな」


「B地区はA,C地区ほどの力は持ってないが,あそこは資源大国だからな. 金には余裕がある」


 節からの話は中々興味深いものだった.


 今まで4つの都市をまとめて一つの研究都市と認識していたが,今の話を聞く限り,これからは独立して考えたほうが良さそうだ.


「ん? で? D地区は?」


「あそこは一言でいうなら財政破綻寸前だよ. 強味なんか一つもないしね」


 研究都市の崩壊を望んできた身としては喜ばしいことだが..その分他地区の力が強くなっただけか..


「他地区に対して財政支援を求めたが返答はなかったらしいよ. 完全に見捨てられんだよあそこは」


「随分と詳しいんだな」


「こう見えてピーススクールを脱走してから綺羅と情報屋的なことやってますから」


 ドヤ顔で答える節にそもそもの質問をぶつける.


「研究都市のことはなんとなく理解できたが,さっき綺羅が 「D地区に来れば?」 と言っていたがあれはどういうことだ?」


 節はニヤリと答える.


「他地区はD地区を見捨てた.そしてD地区も他地区を見捨てたということだ」


 もちろん意味が分からなかった.


「要は,D地区は他地区を敵にしたということ」


「いやバカだろ」


「今のD地区の管理者がね.. そういう人なんすわ....」


 呆れ顔で答える節.


「よくわからんがそんなことしたら一斉攻撃されるだろ」


「もちろん表向きは,今にも崩れてしまいそうな哀れなD地区だ」


「だが,D地区は密かに俺らのような脱走した能力者や研究都市に不満を持つものを味方に付けてるんだよ」


「いつの間にかそんなことになっていたとは..」


 にわかに信じがたい話だったが嘘を言っているようには見えない.


 破綻寸前のD地区を味方にしたところで力のバランスは正直変わらないだろう.


 ただ もしかしたら..そんな希望を抱いてしまう.


「もう一ついいか? お前ら何でこの寺に来たんだ?」


「え? ああ別に寺に用なんかなかったよ. 用があったのは村だよ. 純白の髪の少女がいると噂で聞いたもんだからね」


「噂か.. 不用意に町へ出るべきじゃなかったな」


 人目のあるところに行き過ぎたことを改めて反省する.


「そしたら,空に大量のドローンと空母が飛んでるもんだからびっくりしたよ.さすがにあの数の空軍は見たことがないし,戦争でもおっぱじめるのかと思ったよ」


 答えになってないな.


「んでどうして寺に来た?」


「まあまあ落ち着いてよ. 空母が立ち去った後,村を見に行ったらなんと村中氷漬け. これできるの令司くらいしかいないでしょ?」


 なるほど. そういうことか.


「もしかして令司生きてるの!? ってなって綺羅と一生懸命探してたら寺にたどり着いたってわけ. まさか「桜」までいるとは思わなかったけど」


「村を氷漬けにしたおかげで再開することができたのか..」


 正直複雑な気持ちだった.


 思い出の村を氷漬けにしたこと,おばさんを埋葬してあげるべきだったのではないか.


 そんな後悔が今更になって出てくる.


「そんな自分を責めんな. 深雪さんを守ることができたんじゃかよ. それで十分だろ」


 節の慰めの言葉に多少気持ちが楽になった.



「ただいま~」

 

 深雪と綺羅の二人の声が聞こえてくる.


「随分と遅かったな. どこまで行ってたんだよ」


「深雪ちゃんとひなたぼっこしてたの」


「いや ばあさんかよ」


 つい突っ込みを入れてしまった.


「さ~てと二人ともどうする? D地区来るか?」


 突然話を切り出す節.


 深雪はD地区が何なのかいまいちわかっていない様子だった.


 いくら見捨てられたからと言ってもD地区は研究都市だ.


 そんなところに行って本当に大丈夫なのだろうか?


 そんな不安を抱えながら考えていると節がせかすように言ってくる.


「そうそう. さっき綺羅と散歩してたとき,森の中でドローン何機か見たよ」


 そう言って節は,隠し持っていた壊れた1機のドローンを見せつけてきた.


 ゆっくり考える時間はないってか?


「一つ聞きたい. D地区は実験してないのか?」


 深雪のことを見ながら節に問う.


「心配しないでも大丈夫だよ.D地区にそもそもそんな技術ないから! それに俺らが暴れれば正直D地区くらいなら崩壊させられるしね」


 自信満々に答える節.


 個人にやられてしまうとかどんだけ弱いんだよ.

 

 大丈夫か? D地区さんよ.


 まあどちらにしろ俺らに行く当てなどない.


 このままずっと野宿するわけにもいかないしな.


 もし深雪を狙う輩が居れば何をしてでも俺が全力で守る. そう誓いながら答えを出す.


「わかったよ. 行こうD地区へ」

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