第1話 悪役フェチと暗殺者
悪役の条件とはなにか?
別に悪行を讃えたいわけではない。
けれど惹かれてしまうのだから仕方がない。
悪役とは〝共感の塊〟であり〝不平不満の吐口〟なのである。
主人公のような善人よりも読者に近い。
死に恐怖を抱き不死を求める者。
失った物の痛みを他者にぶつける者。
飢え、欠落、嫉妬、欲。
僕らと同じ弱さを抱えて、社会であったり時に強大な力を持った主人公に立ち向かう。
必ず主人公達に敗北するのも様式美があって愛おしい。
そんな彼ら、彼女らを魅力的だと思ってなにがいけないと言うのか。
けれど僕の家族はそれらの存在を許容しない。
父上をはじめ、義母様たちや異母兄弟たちは完全なる善性で、悪を憎み悪を打倒するべく尽力している。
父上こと国王は前魔王を勇者と共に打倒した英雄。
強き王であり、良き父。
完璧超人の称号が相応しい。
庭を走り回って1日中気絶していた息子に対して「使い魔召喚の儀まで自室で安静にしておくように」なんて命令するほどの過保護気味だけど……
部屋の外には4人の見張りをつけ、ベルを鳴らせば料理人たちが部屋に来て絶品の数々を振る舞ってくれる徹底ぶり。
しかも毒味役付き。
「はあ。父上の過保護には本当に呆れてしまうね。たかがおでこにたんこぶひとつでこの騒ぎだ」
今世の
ルックスも家柄も最上級。家族は優しく、こうして食っちゃ寝したって誰も叱らない。
はっきり言って退屈だ。
前世の生活とは大違いだ。
漫画を読みながらぐーたらしていたら妹に「でっけぇゴミ」なんて言われて掃除機に服を吸われてた。
「坊っちゃまも次期国王候補なのですから当然です。自分の価値をもっと理解してもらわなければ困りますよ」
ジェロームの何度も見た呆れ顔。
父上には出来るだけ自室に人を入れるなと言われているが今世の僕にはジェロームがいなければ服の着替え方も分からないため、わがままを言って側に置いてもらった。
「と言っても第3王子。王位はどうせ第1王子であるジオニス兄上のもの。僕はどうせ同盟のための道具になるだけさ」
「自虐がお好きですね。私の意見を申しますと、お坊っちゃまが国王に相応しいと」
「それは問題発言だけど」
「命令とあらば、私の命を賭して──」
兄上達の首を取る。
なんて口振りだ。
冗談では無さそうで、出会った時の伝説の暗殺者ジェロームの鋭い眼光。
あまりに痺れる悪役っぷりに思わず「うむ」と口を滑らせてしまいそうになるが首を振る。
「しかしこの引きこもりの目的は療養ってわけじゃないだろうね」
「ええ。暗殺の恐れ、でしょうな」
たかが第3王子だとしても国王候補者。
しかも近々使い魔を得る。
王族の使い魔のほとんどは大天使。
大天使1体で武装した兵士の千人分ほどの戦力を有するらしく敵対している国からしたら大問題だ。
「家族は皆善性。しかも警備が行き届いているこの国で暗殺者が潜り込めるとは思わないけどね」
「私は潜り込めましたが?」
「……それは例外で」
「そもそも王族が皆善性と言うのは語弊がございます。少なくともひとり問題児がいるでしょうに」
ジェロームの指摘に見当もつかない。
「はて?」と首を傾げる。
正義漢で凛々しいジオニス兄上。
麗しく煌びやかな姉上達。
そして小悪党ぶりが可愛らしい第2王子。
はて、全員僕の愛している家族だが?
「やれやれ。危機感がないと言いますか、おごりがあると言いますか。余計なお世話かもしれませんが、気付いておられますかな?」
「うん。気配読みは先生が良いからね」
部屋の屋根に視線を向ける。
気配も消せないとは、相手は暗躍に慣れていないらしい。
「……消えましたね」
ジェロームは懐から短刀を取り出して「追いますか?」と小声で聞いてくるが首を振る。
黒幕を引きずり出すために〝あの使い魔〟を泳がしておくのも悪くない。
「まったく。僕を退屈させないのは家族で貴方だけですよ。ライラス兄上」
王座を貪欲に狙う第2王子。
兄弟の中でも1番のお気に入り。
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