ミステリー 昼 犯人決め

「とにかく、一番の問題は犯人がいないということだと私は思うんだ。」

事件を解かなければいけない立場として、私はまず分かりやすい悪者を立てることを提案した。犯人さえいればトリックや動機はお粗末であろうと発生する。そうすれば少しは推理らしくなるだろう。

「それは僕も賛成です。自殺や事故死ではなんかスッキリしませんもんね。」

死体役の男が同意してくれた。彼にとっても自分の死に際は文字通り死活問題だろう。ほかの人もおおむね同意しているようで、目立って反対はしてこない。

「とりあえず、僕以外の5人から決めてもらえませんか?」

そうやって、屋敷の広間に私によって集められた5人、主人、婦人、学者、姫、そして私、探偵を見渡した。

「私はとりあえず、候補から外れるよ。探偵が犯人だと自作自演になってしまう。これ以上事態をややこしくしたくないんでね。」

ほとんどはうなづていおり、自分が犯人役になると名乗り出るかどうか悩んでいるように見える。

「ここで起こった事件が不安をあおるための自殺というのも面白いかもしれないそうなると不安を煽る要因も必要になるかうーん探偵役が犯人というのも意外性があって…」

ただ一人を除いて。

「あなた、奇をてらった結果がこの状態だとわからないの?事故死だと現状維持だし、探偵が犯人とかそんなことしたら余計に事態がややこしくなるだけじゃない。」

姫が学者に反論する。しかし、学者も引かない。

「チャレンジ精神を失ってしまえば革命的な作品は生まれないよそれこそ現状維持を望んでいるだけじゃないか私たちは現状を変えようとしてるんだろ」

「だからってそんな奇をてらったことをする必要はないでしょ。私たちは平均以下の駄作を平均程度の凡作にしたいだけなの。名作にする必要はないの」

「始めから平均程度を目指していては平均は狙えないと思わないかね名作を作るというハングリー精神こそが駄作を凡作にすると思わないのかね」

2人は激しく言い合っている。

「まあまあ、二人とも落ち着いて。」

館の主人が仲裁しようとする。見た目はナイスガイなのだが、どうやら気は強くないらしい。おそらく婦人に尻に敷かれていることだろう。もうすぐ夜になるころだろう。はやく結論を出さなければチャンスを無為にしてしまう。学者さえいなければもう少しスムーズに進みそうなものなのに。そうか、学者がいなければよいのだ。

「学者さん、君の考えはなかなか興味深いよ。ぜひ作者にも伝えたい。どうだろう。今晩は君一人で夢に入ってくれないか。」

わざと大げさに言ってみたがどうだろ?これで釣れるか?

「さすが探偵さん話が分かるじゃなか一つミステリーというものを解いてくるよ期待していてくれ」

よし、釣れた。これであとは

「探偵さん、あなた正気?これ以上展開をややこしくしたいの?」

こちらか。

「いいじゃない、うまくいくかも。いってらっしゃい、学者さん」

さっきまで静観を決め込んでいた婦人だが、口を開く。どうやらわかってくれたようだ。

「こんばんは。お迎えに上がりました。今晩夢にもぐられるのはどなたでしょうか?」

ちょうどよくバクがあらわれた。

「わたしだともよろしくお願いするよ」

学者は胸をはり、バクに歩み寄る。よし、これで大丈夫かな。

「あんまり変なこと吹き込まないでよ。」

姫が釘をさす。まあ、こいつに何を言っても無駄だと思うが。

「わかっているとも、では行ってくるよ。」

「分かりました。」

バクと学者の姿がスーッと消えた。邪魔者は消えた。よし、じゃあ改めて。

「これから犯人決めを始めよう。」


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