ミステリー 夢潜り

「あなた方が夢に潜れるのは10分だけです。その間に作者にこの作品の不備を認知させることが出来ればおそらくストーリーは変化するでしょう。しかし、名前を与えられてしまえばその人のパーソナリティは確定してしまい、自由に動くことはできなくなってしまいます。つまり、タイムリミットはあなた方全員に名前をつけられるまで。」

スーツに身を包んだどこか冷たそうな女性が淡々と説明した。つい先ほど館を来訪したこの女性こそバクなのであろう。当たり前のように存在しているが一体どうやってここへ来たのだろう。「どうしました」

じっと見すぎてしまったのだろうか。私の視線に気づきバクが私に怪訝な目線を向ける。「いろいろ聞きたいことはあるが、どうやってこの場所へ?ここには登場人物しかいないはずだが?」

「作者の夢を経由してアクセスしているのです。つまり、私がここにいられるのはあの人が眠っている間だけです。」

バクが答える。なるほど、おそらく夢を操る妖怪の類か何かだろう。そうなると、平然と電話を掛けた婦人はなにものなのだろうか。ふと目を向けて見るが先ほど取り出した携帯で遊んでいる。我関せずといった感じだろうか

「それで僕が夢に潜ってあいつを説教してやればいいんだねいささか10分とは短すぎるが読める程度にはなるだろう」

学者がまた早口で騒いでいる。こんな奴の説教を聞かされる作者が少し不憫であるが、こんな物語を書いた報いだ。これで私も謎推理を披露してどや顔しなくて済むだろう。「ちょっと待ってください、それでホントに大丈夫ですかね」

やたら豪華なドレスを着た女性が間に割って入った。姫みたいだし姫と呼ぶことにしよう。「普通に下手なのではなくてこんな変なことをするんですもの。変に説教しても芸術は凡人にはわからないのだ、とかいって一蹴されるのではなくて?」

「そんなのやってみなきゃわからないだろ」

「あら、そうでもなくて。現に変にこだわりの強いあなたは人の忠告を聞きませんもの」

姫と学者がギャアギャアと騒いでいる。揉め事をボーっと眺めていたバクが口を開く。「そろそろあの人が起きそうです。ストーリーを変えたいのならあなた方のやるべきことはあの人の意識を変えること。そのためにはあの人の起きている時間、

昼に作戦を考えること。そして寝ている時間、夜に夢に潜ってそれを実行すること。それでは、また次の夜に」

バクの姿がスーッと消えた。

死体の男が呟く「やった。派手に死ねるんだ。」

……君は死体役には満足なんだね

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る