キャラクターの声を届けたい
えーりん
ミステリー プロローグ
「犯人はこの中にいる。」
私は、洋館の広間に集めた主人やその客人たちに言い放った。物語としてはここが一番の見せ場であるし、探偵にとってもこれ以上ない見せ場だろう。しかし、私の気は重い。
客人たちは「犯人は誰なんだ?」とか「動機はなんだったんだ?」とかヤジを飛ばしてくる。
推理を披露しなければ、この場は収まらないだろう。「犯人は一体どうやって殺したんだろう?」「凶器も見つからないし…」「トリックを使ったんだよ、トリックを」「どんなさ?」
「それを今から説明してくれるんだろ探偵さん」やめろ、期待をあおるな。てか、最後のやつ、お前たぶん気づいてるな。口元が笑ってるぞ。このお粗末なトリックに気づいたのなら、笑いをこらえられないのも分かるが、私のことを少しは思いやってくれ。
足元に転がった死体に目を落とした後、私は、重い口を開く。
「犯人は…」
すると、足元の死体がおもむろに立ち上がった。
「やっぱり納得いかねー!この作者おかしい」
私たちは創作物の中に暮らすキャラクターだ。
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「おい!急に止めていいと思ってるのか」洋館の主人は怒号を飛ばし、これだからと続け延々と男に、説教をしそうな勢いだったが、何か理由があるんでしょうと隣りに立っている婦人がたしなめ「それで男君、理由はあるんでしょう?」と問いかけた。口調こそ優しかったが、目が笑っていない。怒っていることは明白であった。
ベテラン然とした2人に詰め寄られ、しどろもどろになりながらも「はい、死因が気に入らないんです。」とはっきりと不満の種をぶちまけた。
「せっけんで滑って死んだってひどくないですか?」 うん、たしかにひどい。
黙って事態を見ていた客人たちも、想像を超える事実に唖然としている。
客人の1人が尋ねた。「探偵さん、あんた犯人は誰っていうつもりだったんだ」
私は、至って真面目に答える。「そりゃ、せっけんだよ。」
「探偵さん、何とかならんのですか?」主人が尋ねる。私は首を振る。私だって被害者なのだ、なんとかできるならこんな汚れ役受けていない。
さっきほくそ笑んでいた学者然とした男がウダウダと嘆いている、
「私が書いた方がもう少しましな小説ができる犯人不在が斬新なのは認めるがだか面白いということはないだろうだいたいテンプレがテンプレなのは万人に受け入れられるからであって……」あくまで自分は第三者であると決め込んでいるようだ。そんな饒舌に語るなら解決策の一つでも出してほしい。
「じゃあ、作者に文句を言えばいいじゃない。あなたが」
婦人が愚痴遮るように言う。「そんなの無理だろ文字通り作者と私たちは住んでる世界が違うんだだいたいそれができるなら……」早口でまくし立てる。
「案外そうでもないですよ。」おもむろに取り出した携帯で電話をかけ始めた。
そこから女性の声がこぼれる。
「こちらバクです、本日はどのようなご用件でしょうか」
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