第2話 呪術教会''ドレアミー''

夜も老け、スフィアはぐっすり眠っている。その様子を見たアルフはスフィアの父から貰った手紙を開封しようとしていた。しかしその瞬間、地鳴りと共に、地軸もろとも引き裂くような爆発音が響いた。

「な、 なに!? 」

ソフィアもたまらず目を覚ます。爆発音はコラド村の方からだった。うっすらと黒煙が上がっているようにも見える。

「嫌な予感がする 」

2人は急いで村の方へ向かった。



時間は少し前に遡る。

「ケニー…… 私の選択は間違っていないだろうか…… 」

家族写真を片手にソフィアの父親は寂しげな表情を浮かべた。父親が写真をもとの位置に戻すその時、とてつもない爆音と共に家の天井が崩れ落ちる。瓦礫のからやっとの思いで抜け出した父親が見たのは火に巻かれてる人々だった。

「ちゅ〜も〜く! 」

瓦礫の山の上に2人の男女が立っていた。

「ソフィア・シピトリア…… この町にいることは知っている…… こちらに渡せ 」

小柄な少女が村人たちを睨みつける。

「なんなんだてめぇら! 」

「誰が教えるかクソッタレ! 」

村人たちは一斉に批判し始める。その様子を見て赤髪の男はニヤッと笑い指鉄砲を構えた。

「はいドーン! 」

その掛け声と共にブーイングを行っていた村人たちの体が黒炎に巻かれた。

「体が! 体が熱い! 」

「めんどっちいからさぁ…… みんな殺しちまわね? 」

男がそう言うと周りに複数の球状の黒炎が現れた。

「な! なんなんだ君たちは! 」

ソフィアの父親が2人の前に立った。

「ん? お前は 」

「お、ジェロイ・シピトリアか? お前 」

「ソフィアに何の用だ! 」

ソフィアの父親ジェロイは2人を睨みつける。

「そう気張るなよおっさん 」

赤髪の男は終始ニヤニヤと口元に笑いを浮かべる。

「何がおかしい! 」

「そんなことよりさ、 ソフィアちゃん渡してくんない? 」

「ソフィアは数日前にに魔術教会のあるラートパタに向かった! もうこの町に居ない! 」

「…… 」

2人を睨みつけるジェロイを小柄な少女は無言で見つめる。

「あ? んなわけねえだろ? こっちだって調べて―― 」

赤髪の男の言葉を少女が遮る。

「じゃあこの町に用はないな 」

少女がそう言うと地上に村全域に広がる魔法陣が浮かび上がった。

「最後にもっかい聞いとくけどほんとにここにはいねえんだな? 」

「私の魔法が発動すれば間違いなく村は消し飛ぶ、 真実を言え 」

「…… 」

ジェロイは無言で2人を睨みつける。その顔には決意の色を浮かんでいた。

「そうかい 」

赤髪の男の不機嫌そうな顔。それがジェロイ・シピトリアがこの世で最後に見たものとなった。



突如の爆発音とコラド村から立ち込める煙に気づいたソフィアとアルフは山を降り村へと急いでいた。

「見えてきた! 村!」

「っ! ソフィアさん止まって!」

村から発せられる魔力に違和感を感じたアルフは山道を勢いよく走り抜けるソフィアを呼び止めた。ソフィアが足を止めアルフの方を振り返ったそのとき、鼓膜を割くような高音と共に背後から眩い光が差した。

「……! 」

後ろを振り返ったソフィアは絶句した。村全域を覆うかのように太く、そして天まで届くかのような高さの光の柱が突然現れたのだ。暫くして光の柱は消えてなくなった。

「なによ…… これ…… 」

光の柱が消えたあとの村を見たソフィアは膝から崩れ落ちた。先程まで家や瓦礫は跡形もなく消え去り、何人もの村人が横たわっていた。

「とりあえず死体を1個ずつ見て確認していきましょ 」

「これで本当にいなかったら傑作だな 」

砂煙で目視はできないが男女の話し声が聞こえてきた。

「誰? 」

砂煙が少しづつ晴れていくにつれ荒野と化した村と倒れる人々、そしてその中で動く二つの人影が見えた。

「ん? 村の入り口に誰かいねえか? 」

「逃げ延びた村人か? 」

2人の男女がソフィア立ちに近づいてくる。

「何者だあんたら 」

アルフはそう言いながら2人の男女の前に立った。ソフィアはアルフの後ろに隠れる。

「俺らか? 俺らはなぁ―― 」

「よせハスロ、 無闇に口にするな 」

「いいじゃねえかよルイーゼ、 冥土の土産ってやつだ 」

そう言うとハスロはアルフの方に向かって歩き出した。

「俺らは''ドレアミー''っていう団体に所属してんだけど―― 」

アルフはハスロの口から発せられた言葉を聞き咄嗟に距離を取った。

「お前呪術教会の人間か 」

「そうだけどってあれれ? もしかしてそこにいるのは? 」

ハスロがソフィアの存在に気付いた。そして手で顔を覆いハハハと声を上げ笑った。

「見つけたぁ…… ソォォォフィアちゃぁぁん 」

「ひっ 」

獲物を見つけたライオンの如き視線を浴びたソフィアは恐怖を覚えた。

「怖がらなくていいよぉ、 黙って俺らに着いてくるなら殺しはしないさ 」

ハスロはゆっくりソフィアの方に歩み寄る。

ドスッっと何かが突き刺さった音がした。その時ハスロは腕に鋭い痛みが走る。腕を見るとナイフが突き刺さっていた。

「何が目的か知らないけど呪術教会さんの好きにはさせたくないな 」

アルフはそう言いながら懐から更にナイフを取り出す。

「てめぇ…… 」

ハスロは殺気に満ちた表情でアルフを睨んだ。


刹那、アルフはハスロの懐に飛び込み、ナイフを右上空に振り上げる。ナイフはハスロの胸に大きな傷を与えた。


「いって…… 」


アルフはナイフを逆手に持ち変え、ハスロの右肩にめがけ振り下ろす。


ハスロはアルフの右腕を掴みそれを止める。ナイフの切っ先は右肩ギリギリで止まる。


「――っ! 」


ハスロは腕を掴まれたアルフの腹部に拳を喰らわせる。アルフは苦痛に顔を歪ませながら手を振り払い後方に跳んだ。腹部から炎に炙られたかのような激痛が走る。


「接近戦もドンと来いってもんだぜ 」


ハスロは余裕そうな表情を浮かべる。両手には黒い炎が渦巻いている。 アルフはその炎を警戒し攻めあぐねている。


「魔術師じゃねえなら敵じゃねえよ、《呪術・延焼》!」


ハスロの両手に渦巻いていた黒炎がアルフの腹部めがけて蛇のように動き出した。アルフは身体を捻り避けようとするが黒炎はそのままアルフの身体に巻きついた。


「《呪術・延焼》、 一度俺の黒炎に焼かれたらもう避けるのは不可能だぜ 」


アルフは黒炎に全身を焼かれそのまま倒れた。


「アルフ! 」

スフィアはアルフに駆け寄ろうとするが恐怖で体が動かない。

「同じ目に会いたくないだろ、 だからこっちへ 」

小柄な少女ルイーゼはソフィアに語りかける。ハスロもスフィアの元へ再び歩き出した。

「いや…… 来ないで…… 」

恐怖で目から涙が零れる。その時、ふと母の言葉を思い出す。

『ソフィア、 あなたに魔法をかけてあげるわ 』

『魔法? 』

『あなたの身に危険が迫って来て死ぬかも知れないと思ったらこう呟きなさい―― 』

ソフィアは震える手を胸に当て、ゆっくりと立ち上がる。

「助けて…… ママ……! 」

ソフィアがそう呟くとソフィアの胸に魔法陣が浮かび上がった。

「なんだありゃ 」

「気にするなハスロ、 あの大きさの魔法陣では大した魔法では―― 」

2人が話しているとソフィアの周囲に炎が立ち込める。

『炎の妖精よ 我が命に従い我が敵を絶て 』

「イフリート…… 私に力を!《紅蓮大魔術 セイクリッド・フレイム》」


ソフィアを取り巻いていた炎は巨大な2本の上肢と化し、ハスロとルイーゼを握り潰した。

「なんなんだこの魔術は――! 」


セイクリッド・フレイムを放ちほとんど魔力を消費したソフィアはその場にペタリと座り込んだ。

「ママ…… 」

ソフィアは両手で顔を覆い隠した。指の隙間から大粒の涙が零れ落ちる。

「この、 クソガキィ…… 」

「えっ? 」

炎に焼かれ倒れていたハスロがよろよろと立ち上がる。

「もういいわお前、 ここで死ね 」

そう言い放つとハスロはゆっくりと手を頭上に上げる。すると周囲に複数の黒い炎球が出現した。

「うそ…… 何で…… 」

ハスロが手を振り下ろすと黒い炎球が全弾ソフィアめがけて発射された。


炎球の1つが絶望的に高らかな叫び声を上げるソフィアに着弾し、その身体を黒炎が覆い尽くす。その炎に呼応した周囲に飛び散った黒炎がソフィアに追撃する。炎は着実に肌を焼き、痛みのあまりうめき声を上げながらのたうち回る。


――熱い!


――痛い!


――助けて!


「おい、 殺したんじゃないだろうな 」

ソフィアがその場に倒れ込んだと同時にルイーゼが目を覚ました。

「殺っちまったかもしれんわ 」

「はぁ…… まぁいい…… 」

ルイーゼが大きくため息をついた。

「とりあえず死体でも持って帰っとくか 」

頭を掻きながらソフィアの方に目をやったハスロは違和感を覚えた。

「あれ? おかしいな…… 」

「どうした? 」

ハスロは気付いた。つい先程までソフィアの身体を焼いていたはずの黒炎が消えていたのだ。

「消えるのが早い 」

ハスロがそう呟くと、ソフィアの指がピクッと動いた。

「こいつ! 生きて―― 」

ハスロが身構えるとほぼ同時に右側方から巨大な岩に殴打されたかのような衝撃と共に左へ吹き飛ばされた。ハスロが何が起きたと顔を上げると岩で構成されたゴーレムが立っていた。


「なんだあのゴーレム! 」


ハスロがゴーレムに驚いている中、先程まで倒れていたソフィアがフラリと立ち上がった。首がすわっておらずゾンビのようにも見える。


「ちっ! まだそんな体力あったか! 」


ハスロが立ち上がろうとすると頭上から重い岩のような何が押し潰そうとしてくる。


「邪魔くせえんだよ! 」


ハスロを潰そうとする岩を黒炎の刃が剪断する。解放されたハスロは肩で息をし、よろけながらも立ち上がる。しかしソフィアの方を見ると嘘だろと顔が青ざめた。


「縺ゅい莠槭≠蝠翫?縺?仭??シ 」


聞き取れないような叫び声を上げたソフィアの周囲に突如様々な素材で作られたゴーレムが無数に作り出された。中にはハスロの生み出した黒炎で作られたゴーレムもいる。


「ルイーゼ! あれどうにかしろ! 」

「私の爆破魔法はまだ使えない! 何のためにお前と組んでると思ってるんだ! 」


2人が言い争いしているをしているとゴーレム達が2人に襲いかかってくる。


「炎の巨人 スルトよ 我が呼び掛けに答えよ その黒炎を持って大地を焼け 《レーヴァテイン》」


黒炎で作られた刃渡り数メートルに及ぶ巨大な剣は向かってくるゴーレム達を次々に焼き切る。しかし。


「なんた!? レーヴァテインが! 」


焼き切られたゴーレム達の残骸とレーヴァテインの黒炎が1箇所に集まり、巨大なゴーレムに形成された。胸部から下は形成されず地面と繋がっている。


「谿コ縺帙%繧阪○谿コ繧サ繧ウ繝ュ繧サ?コ?橸セ幢スセ?? 」


ソフィアの叫び声に呼応し、巨人の腕が2人めがけて振り下ろされる。ハスロは黒炎を板状にしてそれを防ぐ。


――こんなこと出来る魔術師なんて聞いた事ねえぞ!?


黒炎の盾を展開するが巨人の振り下ろす力の方が強くジリジリと押し潰されていく。


――この俺がこんなガキにィ! クソが! クソがクソがクソがぁ!


ハスロが片膝を大地に付けたその時、巨人の腕が突如爆発し前腕がくずれおちる。


「逃げるぞハスロ! あれは私達の手に負える相手ではない! 」

「ルイーゼ! 助かった! 」

「感謝はあとだ!またしばらく魔法が使えないから次喰らったらおしまいだぞ! 」

ハスロはルイーゼの元に走り出した。後ろでは崩れた腕が再生されていく。

「次は必ず殺す! 」

ハスロはそう言い残すとルイーゼの腕を掴み、その場から突如消え去った。

「蜉ゥ縺代※ 隱ー縺 縺薙o縺?h 縺上i縺?h 繝槭? 繝代ヱ 」

2人が消えた後もソフィアの叫び声と巨人の攻撃が止むことは無かった。



「うっ…… 」

戦慄の夜が空け、荒野と化したコラド村に差し込んだ陽の光でアルフは目を覚ました。アルフが当たりを見渡すと不自然に凹んだ大地や半壊した巨人のゴーレムが目に入ってきた。

「これはいったい…… そうだソフィアさん! ソフィアさん無事ですか! 」

火に焼かれ悲鳴を上げる肉体にむち打ちゴーレムのそばに横たわるソフィアの元に駆けつけた。

「火傷だらけだけど息はある…… 」

治療しようとソフィアを抱き上げた時、背中に触れた手から妙な冷たさを感じた。

「鉄? 」

ソフィアをその場に座らせ、背中の方を覗き込んだ。炎で服が焼け、背中はその大部分があらわになっていた。

「なんだこれ…… 」

背中の中心部に鉄で出来た何かが埋め込まれていた。

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魔法が使えない元最強魔術師が師匠でも最強魔術師になれますか!? 群青アイス @gunjou_ice

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