魔法が使えない元最強魔術師が師匠でも最強魔術師になれますか!?

群青アイス

第1話 最強の魔術師!?

原初の魔法。それは全ての魔法の原点と伝えられ、未だに誰もその存在を確認できていない未知の魔法。ある者は生物を生み出せる魔法と考え、またある者はこの世の全ての生物の死を操る魔法と考え、またある者はそんなものは無いと鼻で笑った。これは15歳の少女ソフィア・シピトリアが幾多の試練を乗り越え原初の魔法に到達するまでの物語である。


「パパのわからず屋! 」

「こら待ちなさいソフィア! 」

ピンク色の髪をした少女ソフィアは父親と喧嘩をし家を飛び出した。

「私は絶対ママみたいな凄い魔術師になってみせるんだから!」

ソフィアの父は机に置かれた家族の写真を手に取り呟いた。

「私にどうしろと言うんだ…… ケニー…… 」


「ここがコラドか、 噂通りの田舎だな 」

村の入り口に一人の男がやってきた。白いローブに身を包み、肩には少量の荷物の入った袋をぶら下げていた。男が村に入ろうとすると目の前からピンク髪の少女ソフィアが泣きながらこちらに走ってきた。

「ちょっ! 危な……うっ! 」

男はとっさに避けようとものの避けきれずに腹部にソフィアの頭がクリーンヒットした。

「いたた…… ってごめんなさい大丈夫ですか!? 」

ソフィアは男に手を差し伸べる。

「元気のいいお嬢ちゃんだね 」

男は笑いながら大丈夫だよと言い、少女の手を取った。

「もしかして旅の人ですか!? 」

ソフィアは目を輝かせ訊ねた。

「あ、あぁ…… 確かに旅をしているよ 」

「そうなんですか! お話いっぱい聞かせてください!」

ソフィアの期待に満ちた目を見てさすがに断れないねと首を縦に振った。

「じゃあ着いてきてください!こっちに私お気に入りの湖があるんです! 」

そこでお話しましょうとソフィアは森に向かって走っていった。

「置いていかないでくれ 」

男はやれやれとソフィアの後を追いかけた。

「そういえば名前言ってませんでしたね、私ソフィアって言います、 ソフィア・シピトリア 」

「僕はアルフレド・ソラ、 親しいものはアルフと呼んでいる 」

2人は湖のほとりに座り込み話を始めた。

「アルフさんは旅してるって言ってましたけど魔術師なんですか? 」

ソフィアは期待に満ちた目でアルフを見る。

「あまり期待されても困るな…… 僕は魔術は使えないんだ 」

アルフは苦笑いで答える。

「えー? 魔法使えないんですか? 」

この世界に住む全ての人が魔法を使える訳では無い。魔法が使える者の多くは遺伝性である。しかし稀に孤発性に魔法が使えるようになる者もいる。

「まあね、 君は魔術師に興味があるの? 」

アルフがそう訊ねるとフフンと自信に満ちた表情を浮かべると「フレア!」と唱えた。すると彼女の掌の上に火の玉が現れた。

「おお、 凄いね 」

「素敵でしょ! ママと同じ火の魔法! 」

ソフィアは火の玉を振り払い自信ありげに胸を張った。

「お母さんも魔法をつかえるのかい? 」

「ママはすごい魔術師なんだよ! 」

「へー 」

アルフは興味ありげに相槌を打つ。

「アルフさんでも知ってると思うよ、 ママの名前はケニー・シピトリア 」

「ケニー? 」

アルフは首を傾げる。

「結婚する前はケニー・ハントって名前だったんだけど…… 」

ソフィアはアルフが首を傾げたのを見て自信なさそうに言った。

「ケニー・ハント! 」

アルフがピンと来た表情を見せるとソフィアは再び自信に満ちた表情を浮かべた。

「やっぱりアルフさんも知ってるんだ! 」

「古代魔法や魔道具の発掘と復元を行った凄い人だよね、 今は引退してるみたいだけど会ってみたいなあ 」

「あっ…… 」

アルフがそう言うとソフィアは顔を伏せた。

「実はママは数年前に…… 」

「そうですか…… 」

アルフは辛いことを思い出させてごめんと謝った。

「良いんです、 私ママが死んだ時のこと覚えてなくて…… パパもそれに関してな何も言ってくれなくて 」

「そうだったんですね 」

「パパ…… そうだパパっ!」

ソフィアは思い出したように声を上げた。

「アルフさん魔術師って見た事ありますよね! 」

「あ…… あるけど? 」

じゃあとソフィアはアルフに耳打ちをした。

「えぇ!? 」

その内容を聞いたアルフは驚きの声を上げた。


「ただいまパパ 」

「帰ったかソフィア、 ご飯はもうすぐできるから座ってなさい 」

ソフィアの父はキッチンで料理を作りながら言った。

「あのねパパ…… 」

「んー? 」

「パパに会って欲しい人がいるの 」

ソフィアがそう言うと父親は手に持っていた包丁を床に落としてしまった。

「そ、 そのあって欲しい人っていうのは…… おおお男か? 」

「え? そうだけど? 」

父親は可愛い娘に彼氏が出来たんだと思い込み動揺を隠せなかったが娘がこの村で嫁いでくれるならそれもまた良しと腹を括った。

「あ、会ってみようかな? 」

父親は椅子に腰かけた。

「分かった、入ってきていいよ 」

ソフィアの合図とともに玄関のドアが開いた。そこに現れたのはアルフであった。

「た…… 旅の人? ま、まあ座ってください 」

父親はアルフに自分の前の席に座るよう指示した。アルフは失礼しますと父親の前に座った。

「単刀直入に言わせていただきます 」

アルフが真剣な表情で父親に語りかける。

「は、はいなんでしょう! 」

父親は緊張した趣で答える。

「お宅の娘さんに私は魔術師としての才を―― 」

「ダメな娘ですがよろしくお願いします! 」

「え? 」

「へ? 」

2人は互いに相手の言った意味が理解できなかった。

「あ、 あの失礼…… いまなんと? 」

「ダメな娘ですがよろしくお願いしますと…… そちらは? 」

「えっと、お宅の娘さんに魔術師としての才を見出したので是非共に旅をさせて欲しい…… と 」

すっかり彼氏だと勘違いしていた父親はえぇー!っと素っ頓狂な声を上げる。

「だ、大丈夫ですか? 」

「だ、大丈夫だ…… しかしだね君…… 」

アルフに心配され父親は気を取り直した。

「私は魔術師として大陸中を旅してまいりました、 その私から言わせると―― 」

「魔術師じゃないでしょう 」

父親は鋭い視線をアルフに浴びせる。

「なっ! 」

隣に立っているソフィアは動揺が隠せない。

「私の妻は魔術師でね、 何となく分かるんですよ、 魔力って言うんですか? 貴方からはそれを感じない 」

魔法は使えない父親ではあったが常に魔術師の母と魔法の使える娘がいる環境で魔術師と普通の人の区別が何となく分かるようにっていた。

「くっ…… 」

「ソフィア、 旅の人を巻き込むのはやめな―― 」

「勘違いなさらないで欲しい 」

父親の言葉をアルフが遮った。

「私は魔術師ですよ 」

「!? 」

アルフの一言にソフィアも父親も驚いた。

「貴方の言う通り私からは魔力を感じないでしょう、 しかしそれは魔力を外に漏らさないようにしているからです 」

「……なるほど 」

父親は椅子から立ち上がりアルフの隣に移動した。

「では見せていただきましょう 」

「見せる? 」

「ソフィア! カリファー君を呼んできなさい!


「なんだなんだ? 」

「旅の魔術師とカリファーが決闘するみたいだぜ 」

「マジかよ 」

町の広場に人集りができていた。

「アルフくんと言ったね、 彼はカリファー、 あの子は今ここらで強い魔術師さ 」

「…… 」

「あとは分かるね? 」

人集りの最前列でソフィアは焦っていた。どうブラフをかまそうがアルフは魔法が使えない。一般人が魔術師を相手にするのは無謀な行為なのだ。

「よっしゃ、 町のやつ以外と戦うの久しぶりだなあ 」

さらに相手が素行の悪いカリファーであることがさらにソフィアの焦りを強める。

『流石に辞退して! 』

『大丈夫ですよ 』

『相手のカリファーって人はほんとに凶暴なの! 手加減とか絶対に…… 』

『大丈夫ですって 』

「ほんとに大丈夫なんでしょうね…… 」

ソフィアはそう呟き、親指の爪を噛む。

「それでは…… 始め! 」

ソフィアの父親が合図を取る。

「ウィンドカッター! 」

カリファーが掌を縦にを振り下ろすと風の刃となりアルフに襲いかかる。

「ぐっ…… 」

「よっしゃ命中ー! 」

風の刃はアルフの右頬に切り傷を入れた。アルフは咄嗟に傷を手で覆う。

「さあ次々いっちゃうぜー? 」

カリファーはそう言いながらさらに両手で手刀を作った。

「…… 」

アルフは傷を覆っていた手を離し、 戦闘態勢に入った。その姿を見たカリファーの顔から血の気が引いた。

「お、 お前その顔! 」

カリファーがアルフの顔を指差す。アルフの切り傷の入った右頬に先程までなかった赤い刻印が現れていた。

「っ……! 」

アルフはそれに気付いたのか再び傷口を手で覆い隠した。他の村人はなんだなんだとざわつきだした。

「あ…… あの紋章って 」

他の村人がその刻印の意味がわかっていない中、カリファーの他にソフィアもその意味に気付く。

「ソフィア! あれがなんだと言うんだ? 」

父親はソフィアに訊ねた。他の村人達も耳を澄ませる。

「あの紋章は魔術協会が大陸中の魔術師の中から選定した10人の魔術師だけが打たれる刻印…… 」

「しかも刻印の色が赤! お前まさか! 」

「最強の魔術師…… ''魔術王'' ヴァレンタイン・バーナード 」

魔法の研究を行う大陸最大の機関、魔術教会ラートパタ。そのラートパタが帝国の守護の為に大陸中の教会魔術師の中から最強の10人を定めた。

「「「「えええええぇぇ!! 最強ぉぉぉ!? 」」」」

その場にいた全ての村人が大声を上げた。

「…… 」

アルフはしまったと言わんばかりに手で顔を覆う。

「さ、 最強がなんぼのもんじゃあ! 」

意気込むカリファーの周りを風が吹き荒れ出した。

「馬鹿野郎カリファー! 今それ使われたら俺らまで死ぬだろ! 」

村人たちはみなその場から離れだした。

「ソフィアさん! この騒ぎは一体!? 」

アルフは慌てふためく村人たちを見て不審がる。

「トルネードカッターって言うカリファーの創作魔術です! ウインドカッターをトルネード任せで乱射するんです! 」

「マジかよ…… 」

呆れ顔を浮かべるアルフはポケットからナイフを取りだし、カリファーに向かって走り出した。

「魔術師が近距離戦闘? そんなのありなの!? 」

「喰らえ宮廷魔術師ぃ! 」

カリファーがそう叫んだ刹那、アルフのナイフはカリファーの左腕に突き刺さった。

「いって! 」

刺された痛みでカリファーの周囲に吹き荒れていた風が止んだ。そしてそれとほぼ同時にカリファーはその場に倒れた。

「周囲に危害が及ぶような魔術を人がいる時に使うなよ…… 」

「すげぇ!! 」

カリファーを倒したアルフの周りに村人たちが集まってきた。

「どうやったんだ!? 」

「ほんとに宮廷魔術師様なの!? 」

村人たちからの質問がやまない。

「私の魔法は自身の魔力を毒に変換するものです、 ですのでナイフに睡眠効果を付与しただけの事です 」

「そしてこの魔法は常に発動するので体内に魔力を留めておく必要があるんです ソフィアさんのお父様が魔力を感知できなかったのもその為です 」

アルフが淡々と説明していく。そうだったのかとソフィア父。

「身分を隠していたり、魔法を出し惜しみしたのは特殊な魔法であった為、 皆さんを混乱させないよう行っていました 」

そういいアルフは頭を下げ謝罪した。

「いやいやすごいよ君! 」

ソフィアの父親は拍手をしながら言った。

「試すようなことして済まない、君になら娘を任せておけるかもしれない 」

父親はどこか寂しげな表情を浮かべていた。


「ホントに行くんだなソフィアちゃん 」

「うん!師匠がお世話してくれるって! 」

村人たちが村の入り口に集まっていた。

中心にはアルフとバッグを背負ったソフィアがいた。勝負に勝ったアルフは約束通りソフィアを弟子として旅に同行させることとなった。

「町のみんな! パパ! 今までありがとう! ママよりすごい魔術師になってから帰るから! だから…… だから…… 」

ソフィアの目には涙が溜まっていた。

「馬鹿野郎! 寧ろハリーより凄くなるまで帰ってくんじゃねえぞ! 」

「パパァ…… 」

ソフィアは父親の言葉に涙が溢れてきた。

「絶対になるからぁ……! 」

こうしてソフィア・シピトリアが最強の魔術師と共に母を超える物語が今始まった。


「本当にありがとう師匠! 」

「師匠はやめてくれ 」

ソフィアはやっと泣き止んだかと思えば今度は上機嫌に森の中を進む。アルフはそんなソフィアの後ろ姿を見ながらポケットから一通の手紙を取りだした。

〜村出発前~

『魔術師さんソフィアを頼みます 』

『お任せ下さい 』

ソフィアの父親は一通の手紙を手渡した。

『これは? 』

『これはソフィアの秘密、 そして私がなぜソフィアを魔術師として歩ませたくなかったのか、 その理由が書いてあります 』

『!? 』

『ソフィアのいない所で読んでください 』

アルフは父親との話を思い出しながら再び手紙をポケットにしまった。

「最強の魔術師が教えてくれるなんて最高よ! 」

「まあ魔法は使えないけど 」

「は? 」

ソフィアはアレフの思いもよらない一言に足を止めた。

「だから僕は魔法は使えないよ? だから名前も変えて刻印も隠してたんだから 」

「ええええええええええええええええ!? 」


訂正しよう。これはソフィア・シピトリアが''元''最強魔術師と共に母を超える物語である。



夜も老け、スフィアはぐっすり眠っている。その様子を見たアルフはスフィアの父から貰った手紙を開封しようとしていた。しかしその瞬間、地鳴りと共に、地軸もろとも引き裂くような爆発音が響いた。

「な、 なに!? 」

ソフィアもたまらず目を覚ます。爆発音はコラド村の方からだった。うっすらと黒煙が上がっているようにも見える。

「嫌な予感がする 」

2人は急いで村の方へ向かった。


「どこにいるんだい? ソォォォフィアちゃぁぁん? 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る