第14話 初めての友達 2
「私たちの……昼食?」
「そう! 開店前に私たちで食べる分のご飯を作ってもらいます!」
ゴートン食堂のランチタイムは朝の11時から午後の14時までであり、当然のことながらお昼のど真ん中だ。そんな中で食堂で働いている私たちがいつお昼ご飯を食べるのかといえば、それは開店前のタイミングしかない。仕事中にお腹が空いてしまっては沢山来るお客さんをさばくだけの元気が出ないし、集中力も持たないだろう。
「いつもお昼ご飯を作るのはその時に手が空いてる人だったから、特に当番が決まっているわけでもないし丁度いいよ」
ローテーションなどがあるわけではなく、ホールの準備が終わっていればロウネさん、厨房の仕込みが終わっていればリオルさんか私といった具合だ。今日は厨房の仕事は一時的にリオルさんが仕込みから抜けていた事もあってそんなに早く終わりそうにもなかったので、このままいけばロウネさんが昼食の当番になるだろう。
(でも、せっかく料理の楽しさにルーリが目覚めようとしているんだからね)
そのことを思えば、昼食作りを料理体験を兼ねてルーリに任せてみるのが最適な気がする。そう考えての発案に、拳をキュッと握って意気込み充分なルーリはコクコクと頷いた。
「うん……! 私にできるかな……?」
「それは大丈夫! 私もできるだけ横に付いて教えるから」
そう言って、私は中くらいの大きさのフライパンを準備して、下準備として切った野菜の中から2人分の食材を手持ちのタッパーへと移した。
「調理に使うのは細切りのピーマンに短冊切りした人参とちょうどいい大きさにちぎったキャベツ、それに豚肉。調味料として塩と胡椒にオールスパイス、千切りの
フムフムと相槌を打つルーリを横に、加熱魔具を<中熱>――中くらいの熱量――で起動させてフライパンにオリーブオイルを敷く。
「まずは私が半分作って見せるね」
「おぉ~……っ!!」
こうやって炒めたりする工程は初めて見るルーリにとってよっぽど「料理っぽい」ものなのだろう、興味津々のご様子だ。途中でお塩とオールスパイスを軽く振りかけてひっくり返し、反対の面にもお塩を振りかける。豚肉の空腹感をそそる良い匂いと、オールスパイスの甘い香りがフライパンから立ち昇る。そして全体的に火が通ったことを確認すると、加熱魔具を止めて豚肉を取り皿へと移した。
「これはもう完成なの……?」
「ううん、違うよ。これから野菜も炒めるんだけど、もう熱の通った豚肉をこれ以上加熱すると固くなっちゃうから一度フライパンの外に出しておくの。野菜を炒め終わったタイミングでその中に混ぜるんだよ」
「なるほど……!」
「豚肉から出た油は少し拭きとるからね。油が多いとリオルさんが胃もたれしちゃうから」
「フムフム……」
「それじゃ野菜を入れるよ。人参・生姜、キャベツ、ピーマンの順番で入れていくからね」
フライパンに人参を入れ、中熱で炒める。色が透き通ってきたらキャベツを投入、葉の部分がしんなりとしてきたタイミングでピーマンを入れた。ルーリは1つ1つをしっかりと覚えるためか、真剣そのものの表情で私の手元を観察している。ゆっくり実演してあげたいところだけど、野菜炒めは時間が命。じっくり炒めてしまうと野菜がシナシナなものになってしまうので、手早くサッとが基本なのだ。
「全部野菜が入ったタイミングでさっき避けておいた豚肉を混ぜて、塩と胡椒を振りかけまーす。胡椒は焦げ付きやすいから、炒め物の終盤に入れるのがポイントだよ!」
「おー……勉強になる……!」
「そうして菜箸を使って全体的に味を絡ませて……っと、はい完成!!」
時間にして10分もかからずできた肉野菜炒め2人分をお皿へと盛りつける。キャベツやピーマンが完全にしんなりとなる前にお皿に移したのでシャキシャキ感が残った食べ応えのあるものになったと思う。
「まぁ、こんな感じかな」
「……おぉ~!!」
ツヤのある肉野菜炒めを見てルーリは感嘆の声を漏らす。ルーリが出来立ての料理に見惚れている間に私は冷蔵魔具からまた2人分の野菜とお肉を取り出してタッパーへと移す。そして未だに「あの食材が組み合わせってこんな美味しそうなものができるなんて……! 錬金術……!」なんて呟いているルーリへと渡した。
「じゃあ次はルーリもやってみよう! まずはこのフライパンにオリーブオイルを敷くところからだね」
「う、うん……! がんばる……!」
ルーリがおっかなびっくりといった感じで私の指示に従い1つ1つ手順を進めていく。私はそんなルーリを横で見守っていたが、ふいに食堂の裏口の方から声が掛けられた。
「ソフィアちゃん、ちょっと来て運ぶのを手伝ってくれんかのぅ」
「あ、はーいっ! 今行きまーす!」
答えてから、ハッとする。つい反射的に返事をしてしまった。
(ど、どうしよう……)
リオルさんが呼び掛けた裏口の方面とルーリの手元の間を目が右往左往する。横に付いててあげると言った以上、できるだけ離れたくないところだが――
「ルーリ、その――」
「……多分、大丈夫……。このまま炒め続ければいいんでしょ……?」
私の葛藤を悟ってか、不安そうな顔をしながらも、しかしルーリは私が
「う、うん。それで大丈夫。ごめんね、なるべくすぐ戻ってくるね……!」
「うん……」
(さっき少し教えただけで野菜も上手く切れるようになってたし、きっと炒め物も大丈夫だよね……)
後ろ髪を引かれながらも、私は自分にそう言い聞かせるように厨房に背を向けて、リオルさんの声が聞こえた食堂の裏口へと向かった。
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