第11話 この森…やばい! ~幻想の森~
「よ~し!終わったー!上手に描けた♪」
光る木の実の他に、一定間隔で花びらの模様が変わる花、たまに煙を出す木の枝、それに空間全体のスケッチを立て続けに描き上げたココが言った。
まだまだ珍しいものは目に入るが、そろそろこの光景にも慣れてきて移動したくなってきたのだ。それに、ここにいたら1日中スケッチし続けてしまう。
「お疲れ様ミュ! もうスケッチはいいミュ?」
「うん、とりあえずね! もうちょっと奥にも行ってみようよ!」
「行くミュ~! 実は奥がどうなってるのか気になってたミュ!」
少しの間フラフラと周辺を飛び回って観察していたハミュだが、やはり時間が経つと飽きてきてしまった。木に寄りかかって休んだり、ココのスケッチを覗いたり、花びらの数を数えて花占いをして暇を潰していた。
これだけ暇を持て余すのも無理はない。これだけ沢山の珍しいものに囲まれるのが今までなかったのと、特徴を検索をしても全くわからないものなのだ。ココがスケッチ、ハミュが調査、といういつもの役割分担がこの星ではほとんど通用しない。
「よーし、それじゃあ行こう! 帰り道だけは忘れないようにしないとね!これは私に任せて!」
「ミュミュ!それじゃあ任せるミュ! 早速出発ミュ!」
2人は入り口から極力直進して進むことにした。もちろん迷わないためだ。
とは言っても森の中であるから整った道はなく直進など不可能だ。
さらに、入り口ほど草木が密集しているわけではないが、時折大きな木の根が地面から盛り上がっていたり、大きめの石が転がっていたりする。足を下ろす場所に注意しながら歩く必要があるため、少々辛い道のりになりそうだった。
「ココ歩くの疲れないかミュ?」
「ん…まだ大丈夫だよ スケッチ中は休憩にもなってるしね!」
「わかったミュ でも無理はしないでほしいミュ」
「ありがとう!」
飛ぶことが出来るハミュは疲労が少ない。いつも気遣ってくれて優しい。
・・・・・・
「ミュミュ~ン」
・・・・・・
「ミュッ ミュミュ~ン」
・・・・・・
「ミュッ ミュミュッ ミュミュ~ン」
幻想的で綺麗な森は、奥に進むにつれ色が変化して2人を飽きさせなかった。
ハミュが上機嫌に鼻歌を歌っている。
「………」
一方のココは次第に元気がなくなっていた。綺麗な雰囲気の中にいても心穏やかにはいられない不信感があったのだ。
ココは言うべきか言わないべきか迷った。
大事なことだしすぐに言うべきかもしれないが、とても言いにくい。
だが少なくとも今言わなくてもいいのではないか?ハミュはこんなにも上機嫌なのだ、今は隠しておいて言うタイミングを図ろう。うん、そうだ。まだ言わなくてもいいかもしれない。
でも…
結局ココのいい子の部分が使命感を離さず口を開いた。
森は相変わらず綺麗な雰囲気を出していて、いつの間にか淡い紫色の世界が2人の周りを包んでいた。
「…………………ハミュ」
「ミュ?」
数秒の後覚悟を決めて言った。
「帰り道………わからなくなっちゃった。。。」
喋りながら声は小さくなっていった。
「ミュミュ!!????」
案の定ハミュは驚いて叫んだ。
ココにはほんの少しの怒りを帯びているような気がした。ココは"任せて"と言った手前、責任を感じていたのだ。なぜ軽はずみに"任せて"なんて言ってしまったのか…少し後悔もしていた。
「うぅ…ごめん。。。」
「ミュミュー 本当に帰り道わからなくなったミュ!?」
「う、うん… 一応パンをちぎって落としながら歩いてたんだけど…」
スケッチでハミュを待たせてしまったお詫びにしっかりしようとココなりに頑張っていた。
ハミュに気を遣わせることもないように、こっそりパンをちぎっては落としていたのだ。
「さっきから振り返るたびに落としたはずのパンがなくなってるの!」
「ミュ!?」
ハミュは思った、なんだかどこかで聞いたような不安になるフレーズ…
「そ、それに!あの木! あの顔のような模様の木…進んでも進んでも見かける気がする…」
「ミュミュ!?」
ハミュは思った、これもどこかで…
「お…おいらたち…」
言葉にする気はなかったが、ついつい突っ込まずにはいられなかった。
「物語になって今まさに誰かが語っている…ミュ?」
こんな時なのに…ハミュは心底自分でも馬鹿らしくなる。
ハミュが何を言っているのかわからない顔でココは首をかしげると、ちょうど巨大なバナナのようなものがハミュのすぐ後ろにあるのに気付いた。
ハミュがぶつぶつとなにか言っていたが、ココはなぜかそのバナナが気になったので、耳を傾けずにぼんやりと見つめていた。
ぼんやりとした淡い紫色の背景にバナナが一本プラプラ垂れ下がっている。なんとも不可思議な光景だ、とのんきに感がえていた。
その瞬間、バナナは縦に大きく裂け、食べようとするかの如くハミュを横から挟み込もうとした。その表面には何もついていないが、裂け目の奥は底なしに暗かった。バナナのてっぺんから蔦が上に伸びているのが見えるので、食べられるという表現はおそらく間違っていないだろう。
「ヒッ…!!!」
ガシッ!「ミュ!!??」
ココは瞬時に危険を察知し、声にならない悲鳴を飲み込むと同時にハミュの腕を掴んで逃げ出した。
自分でもなぜこの行動が一瞬で出来たかわからないほどに早かった。さしずめ第六感が全神経をフル活動させたかのようだった。
対するハミュは一瞬何が起こったのかわからず、頭が真っ白になった。が、ココに引っ張られた拍子に頭が揺れて後方のバナナに目が入ったので一瞬で事態を理解できた。
「ミ゛ュ==%%&&~~~~~??**ーーー」
ハミュが叫び声をあげながら、ココが引っ張って逃げだした。
だが、バナナは追ってこなかった。いや、どこかの木に繋がっているから追ってこれないのかもしれない。だが、2人にはそこまで頭が回るどころか、振り返る余裕などない。ココは無我夢中で走って逃げていた。
2人がいた場所では密かな笑い声あがっていた…
・・・
「ハァハァ…」
「ミュミュミュ… これだけ走れば多分大丈夫ミュね。。。」
「た…たぶん ハァハァ す…すごく怖かった。。。」
「ミュミュ… ココ…ありがとうミュ」
「う、うん フゥ…それにしても危なかったね…! 食べられちゃうところだった。。。」
「ミュ…」
「ここにはさっきのやついないよね…? とりあえず休憩させて…もう…疲れた。。。」
およそ5分。ココはハミュを引っ張って走り続けた。当然息があがっている。
ココは倒れるように地面に寝転んだ。地面は雑草であろう草が一杯なので少しふかふかして気持ちよかった。
疲れから開放されて心地よい気分になったが、すぐに現状が最悪だということに気付いてハミュを見る。ハミュはふわふわ浮きながら不安な顔をしていた。
「どうしよう…完全に迷子だ…」
「ミュ…」
沈黙。
逃げる前も迷子だったが、その絶望感は全く違っていた。
自分たちが意思を持って進んでいたのと比べ、今回は無我夢中で走り回った後なのだ。なんとか戻れるかも、という希望すらかき消されている。
2人とも口を開くことが出来なかった。
しかし、その沈黙はすぐに終わりが来た。悪い意味で。
「ココ…何か聞こえないかミュ!?」
「…え?」
遠くからほぼ一定のリズムで何かの音が聞こえてくる。
…ヵッ、…ヵッ
…カッ、…カッ
「なにか近付いてくるミュ!!!」
「え!!!?」
それは何かの足音のようだった。
驚いてココが起き上がった。だが足は疲れてすぐにはまともに動けそうにない。それに加えて得体のしれないものが近付いて来る恐怖に怯え、2人とも立ちすくんでしまっていた。
そんなことはお構いなしに足音はかなりのスピードで大きくなっていった。
…カッ、…カッ
パカッ、パカッ
ザシッ!
「うわぁ!!!?」
「ミュミュ!!!?」
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