5 街のお祭り

 街のお祭り


「いらっしゃい」

 と、そんな男性の声がした。

 玄関を通って、広いロビーのようになっている、天井に立派なシャンデリアのある大きな部屋に出ると、そこには受付があって、ホテルの従業員らしい年老いた銀髪の男の人が一人、受付の中に立っていた。

 僕は赤い絨毯の上を歩いて受付の前まで移動をする。

「ここに数日くらいの間、泊まりたいんですけど、部屋は空いていますか?」と僕は言った。

「もちろんです。部屋はいつでも空いていますよ」と、とても素晴らしい笑顔でにっこりと笑って、その従業員の男の人は言った。

 その男の人は、ホテルの従業員と言うよりは、どこかの貴族に使える熟練の執事のような格好をしていた。


「じゃあ、部屋をお借りします」と僕はそんな熟練の執事のようなホテルの従業員の男の人にそう言った。

「かしこまりました。では、こちらにお名前をご記入してください」と熟練の執事のようなホテルの従業員の男の人は言った。

 僕は言われた通りに、用意されていた、とてもおしゃれな万年筆で、自分の名前をホテルの宿泊記録のノートに記入した。

 偶然か、いつもそうなのかはわからないけれど、そのノートは真っ白で、見える範囲で、名前が書かれているのは、僕の名前だけだった。


「では、こちらへどうぞ。お部屋にご案内します」

 そう言って、部屋の案内されるときだった。また、あの不思議な音楽がどこか、とても遠い場所から、とても小さな音で、僕の耳に聞こえてきた。

 ……僕は、その異国の音楽に、なんとなく少しの間、じっと、耳をすませていた。

 それはなんだか、とても心が安らかになるような、すごく心が安心するような、そんな不思議な音色の音楽だった。

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