「お兄さん。どこ行くの?」

 街に中にある石造りの家と家の間にある角を曲がったところで、誰かにそう声をかけられた。

 とても若い女性の声だ。

 声のしたほうを振り向くと、そこには一人の髪をポニーテールにした少女が立っていた。

 少女は石造りの家の壁に背中を預けるようにして、オレンジ色のランプの灯りと、もう暗くなってしまった夜の闇の間にちょうど、体を半分ずつ分けるようにして、その光と夜の境界線の上に立っていた。

 年は、……たぶん十六歳くらい。

 高校生くらいの年齢に見える。とても若い少女だ。


 少女は、その小柄な体には少し大きめの灰色のパーカーを着ていた。下には緑色のチェック柄の短いスカートを履いていて、足元は白いスニーカーだった。

 手にはおもちゃみたいな黄色い腕時計をしていた。そのほかに装飾品のようなものはなにも身につけてはいなかった。


「お兄さん。街にきたばっかりでしょ? 見たらすぐにわかるよ」とにっこりと笑って、少女は言った。

 少女はその素足を片方あげて、石造りの家の壁に足の裏を押し付けるようにして、その場に立っていた。

 少女は僕にそう言うと、その足を交代させて、今度は反対側の足の裏を石造りの家の壁に押し付けるようにして、それから小さく首をかしげて、僕の顔をじっと見つめた。

 その大きな猫にたいな瞳が、とても印象的な少女だった。

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