第6話 夕焼け小焼け

「明日香ちゃん、帰ろー!」


6限後のホームルームも終わり、荷物をまとめた美樹ちゃんが、私を待ってくれていた。


私が所属するバドミントン部は週2日しか練習がないので、普段は帰宅部の美樹と一緒に下校していた。


私は、ほこりを被った茶色い木目の下駄箱からローファーを出して履き替えた。


美樹ちゃんと、いつものように他愛もない話をしながら歩いていった。


tiktokがどう、とか、最近登録者数が増えているyoutuberの話とかだったかな。


そうして歩いて行くうちに、美樹ちゃんの家の前に着いた。


「ねえ、明日香ちゃん」


美樹はいつになく考えこんだような顔をしていた。


「どうしたの?」


と私が聞くと、うーん、ちょっと家の前じゃな、と美樹ちゃんは言った。


「明日香ちゃん、時間ある?」


勉強しようとは思っていたが、特にこれといった用事はなかった。


私は頷いた。


美樹ちゃんは、私の手を引いて近場の公園に連れて行った。


遊具も、何にもない、砂利と2人掛けのベンチしかない公園。


美樹ちゃんはあたりをちらちら見回した。


そして、先程とは打って変わって笑顔を見せた。


「私ね、」


「彼氏できた!」


予想外にいい報告だったので私は驚いた。


でも、まだ5月。新たな出会いにしては早い気がした。


「中学校の先輩なんだけどね…ずっと好きだったんだけど、彼女がいて。」


なるほど?


「でも、お互い違う高校に行って、疎遠になっちゃったんだって。」


と美樹ちゃんは言った。


「彼女がまだいるのに美樹と付き合うっていうの?」


と、私は先輩を疑る気持ちで聞いた。


「違う違う笑笑ちゃんと別れたんだって。」


美樹ちゃんは笑いながら、スマホを取り出して、自慢気に先輩との自撮りを見せてくれた。


「先輩、うちらと同じ高校だったの。入学式で再会してね、もう一回頑張って押し掛けたら、いいよって。」


「おめでとう!!よかったじゃん!」


美樹ちゃんの幸せそうな顔を素直に嬉しくなったので、お祝いの言葉を掛けた。


「で? 明日香ちゃんはどうよ?」


と美樹ちゃんはにやけながら言った。


私に振らないで欲しいな、と思いながら、


「何にもなーい!」


と笑いながら答えた。


美樹ちゃんはしつこく、


「え、じゃああのサッカー部の幼なじみ君は?この間一緒に来てたじゃん。」


と聞いてきた。 


ひゅっ、と心臓が縮んだ。


「べ、別に、隣だから一緒に来ただけだし…。」


「へえー?」


美樹ちゃんはまだにやにやしていた。


「じゃあさ、松本くんは?学級委員コンビ、お似合いだと思うんだけどなー。」


えっ。


松本君は真面目を絵に描いたような人。


私とは異なり、自ら立候補して学級委員になった。


でも、正直なところ、1度も意識したことはなかった。


「うーん、私、松本君のことあんまり知らないし…。」


と正直に言った。


美樹ちゃんは、


「彼氏いると楽しいよー?」


と、無邪気な顔をして言った。


嬉しいのはわかるけどさ。


私はそろそろ苦しくなってきた。


ちょうどその時、オレンジ色の空に、夕焼け小焼けのチャイムが鳴り響いた。


「あっ、もう6時だ。」


と、私は少し大きな声で言った。


「あっ、そうだね、じゃあ、帰ろっか!」


と美樹ちゃんは言った。


私は美樹ちゃんより半歩遅れて歩いた。


再び美樹ちゃんの家の前に着くと、美樹ちゃんは、


「さっきの話、B組のみんなには内緒ね。」


と言って微笑んだ。


美樹ちゃんは手を振って、楽しそうに家に入って行った。


電信柱のケーブルに、何匹ものカラスがとまっていた。


薄暗くなった空の下を、私は1人歩いて家に帰っていった。




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