第2話 なんでうちに

5限が終わり、グラウンドで4時間程部活をやって帰路に着いた。


今日の練習もきつかったなぁ。


でもやっぱ、サッカーはすげー楽しい。


泥まみれになったユニフォームのまま、俺は家へ急いだ。


くそ腹減ってんだけど、飯、何だろ。母さん今日パートのはずだから、あんまり凝ったもん作ってなさそうだな、なんて思いながら歩いた。


学校から俺の家までは、歩いて25分、バスに乗れば15分くらいだ。


トレーニングにもなるし、バス代は浮かせて新しいスパイクを買いたいから、俺はいつも徒歩で通学していた。


日が暮れてきた。しばらく歩くと、家の灯りが見えてきた。


明日香の家は暗かった。


あれ、あいつんち出かけたのかな。


明日香の家はよく外食に行くから、今日もそうなんだろうな、と考えた。


玄関のドアを開けると、美味そうな匂いがした。


「ただいまー」


靴を適当に脱いで、上がろうとした。


ぐにゃり。


俺の右足は女物のローファーを踏んでいた。つま先を少し凹ませてしまった。


やべ、明日香来てんのか。LINEくらいしろよ。


と、こっそり靴の凹みを直しておいた。


「おかえりー」


明日香が、ロールキャベツをむさぼりながら言った。


口の周りにトマトソースが付いている。


こいつ、真面目な割にどっか抜けてんだよな。


「ロールキャベツじゃん。母さん明日香来るから気合い入れたんだな」


と俺は言った。


「いつもちゃんと作ってるわよ。余計なこと言わないで。」


母さんは言い訳をしながらも本音が出てしまっていた。


でも母さんが本気を出すと、そこら辺のファミレスより美味い飯が出てくるから、なかなかあなどれない。


ちなみに、ロールキャベツは俺の大好物だった。


「いっただきーぃ!」


俺は鍋へ一直線に向かった。すぐさま明日香が、


「手を洗いなさーい!」


と言ってきた。お前まで俺の保護者かよ、と思った。


母さんも、明日香ちゃんに任せておけば安心ね、口うるさく言わなくて済むわ、とにこにこしていやがる。


いつもなら言い返すところなんだが、なんとなく素直に手を洗った。


「何よ、今日素直じゃない」


「別に??」


と何食わぬ顔で返した。


ロールキャベツと白飯、それにひじきの煮物をよそって、俺は明日香の向かい側に座った。


今日の昼休みの会話がまだ頭にこびりついていて、なんとなく目を合わせられなかった。


「…今日あんた静かね。なんかあった?」


と明日香が不思議そうに聞いてきた。


こいつは勘がいいので、俺に悩みがあるといつも当ててくる。でも、今回は教えるわけにはいかなかった。


「なんでもねえよ。つか、お前口の周りトマトめっちゃついてんじゃねーか」


と、俺はさらっと話題を変えてしまった。


「え?あああ!ほんとだ、もっと早く言ってよ!」


明日香は慌ててティッシュを取り、雑に口を拭った。


そんな明日香の様子を眺めながら飯を食っていた。


こいつが彼女に見えるって?


女の子っていうのはもっと大人しくて、おしとやかで…好きな男に優しいものなんじゃないか?


やっぱり、こいつはただの幼なじみだ。この関係が変わることなんてあり得ない、と俺は思った。


母さんが、リビングでテレビを見ながら


「ああ、そうだ彰、今日明日香ちゃんのご両親出張でね、うちに泊まるって。あんた、寝るまでに部屋片しといてねー」


と当たり前のように言った。


「え?俺の部屋に泊まんのか?」


思わず大声で聞いてしまった。


「あら、だめだった?母さんもちょっとだけ片付けといたし、いいでしょう?」


いやいやいや、よくねーから。高校生男女が同じ部屋で寝るって、世間体的にも全然平気じゃねーから。


「は、はぁ?何勝手に決めてんだよ!普通に考えてだめだろ!俺らもう高校生なんだぞ?」


俺は母親に畳み掛けた。しかし母親ときたら、


「何度も泊まりに来てるでしょ。今更何を言っているの」


ときょとんとした顔で返してきた。


俺は明日香の方を見て言った。


「お前だっていいわけないだろ?」


明日香は、顔の全パーツを使って、は?という顔をした。


「大丈夫ですよ、おばさん。彰が私にいたずらしようとしてきたら、捻じ伏せますから!」


と、明日香は笑顔で答えた。


母親もつられて笑顔になっていた。


「それじゃあ、大丈夫ね♪」


と母親は言って、洗濯物籠を抱えて2階へ上がって行ってしまった。






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