よく知っているはずの君のことを、もっと知りたいんだ
鹿島輪
第1話 そよ風
俺と明日香は、幼稚園のときからの腐れ縁。隣同士の家で育った。
ガキの頃から、週に一度、どちらかの家で飯を食うのが当たり前になっていた。
小学校、中学校と学級委員長をやってきたあいつと、ひたらすらサッカー三昧だった俺。
趣味は合わねーし、性格も真逆。話す話題なんてないはずなのに、盛り上がるのが不思議だった。高校生になってからも仲は良かった。
俺は近所では有名なサッカーの強豪校に推薦で入った。
あいつは頭がいいから、高校は別になるだろうと思っていた。でも、「あきらを野放しにしとくと心配だから」って、同じ高校の特進クラスに来てくれた。
俺が進学したのはスポーツ推薦クラス。クラスメイトは野球部かサッカー部、あと陸上部が2、3人で、全員男だった。むさ苦しいったらない。
あいつは1-A組、俺は1-E組。階もコマ数も違うけれど、朝練がない日はあいつが起こしに来て、一緒に登校していた。もう高校生なんだし来なくていいってのにな。
母親も俺のスケジュールを勝手に教えるもんだからたちが悪い。
でもまあ、そんな日常が続くのも悪くないかな、と思っていた。
5月に入り、高校での練習にも慣れてきた頃だった。
昼休みに、野球部の一番目立つ奴が、「彼女いる奴手を挙げろ!」とか言い出した。
俺はあんまりノリがいい方じゃないから、机に突っ伏して寝ていた。
話が盛り上がってきたようだった。
「おいおい、サッカー部は彼女いねえのか?俺らよりモテるだろうよ。」
おっと、矛先がこちら側に向いてきた。
俺はサッカー部のチームメイトと遊んだり、合宿に行ったりするのは好きな方で、わりと明るい性格だと思う。
でも、どうも野球部のノリは苦手だった。
FWの粕谷たちに任せておけばいいか。あいつああいうの得意だもんな、と思った。
すると、いがぐり頭集団のうち、一番目立つ亮平が言い出した。
「俺さあ〜見ちゃったんだよなあ〜見ちゃったんだよなあ〜」
足音が俺の方に近づいてきた。
「泉が女と登校してくんの、俺見ちゃったんだよなあ〜」
はぁ?!
俺は思わず起き上がった。
にやにやしながら俺を見る亮平と目が合った。
「特進の子だろ?お似合いじゃん」
と亮平は言った。
なんで知ってんだよ。てか、あいつはただの幼なじみなんだが。
周りの奴らも、お盛んじゃん、とか、あいつ彼女いんのかよ、とか、がやがや騒ぎ出した。
俺はすかさず反論した。
「違ぇって!あいつとは何も…」
「何もなくて一緒に登校するか〜?」
と、別のいがぐり頭、大樹もにやにやしながら小突いてきた。
「あいつは昔から隣に住んでるだけの、ただの幼馴染みだよ。時間が合えば一緒に行くけどさ。いつもってわけじゃねーし」
と、ちゃんと説明してやった。
亮平は、
「つまんねぇのー!」
とガハガハ笑いながら、俺へのちょっかいをやめた。
話題は、キャプテンの中学時代から付き合う彼女との馴れ初めの話に移っていった。
案外さっぱりしていていい奴だな、と俺は思った。
休み時間も終わり、授業が始まった。
5限なんて、飯食った後だ。大半のやつが寝ている。
いつもは俺も例外じゃないんだが、今日は珍しく頭が冴えていた。
さっきの話が頭から離れない。
朝一緒に来るって、やっぱおかしいのか?
明日香と登校するのは、小学校の登校班から続く習慣みたいなもので、特に気にしたことなんてなかった。
黒板には古文の活用動詞が書かれていたが、俺のノートは真っ白なままだった。
頬杖をついてぼーっと窓枠を眺めていた。
その時、そよ風が吹いた。
カーテンが緩やかにめくれて、校庭の様子がちらっと見えた。
あ、あいつだ。
一瞬しか見られなかったのに、わかってしまった。
似合わないポニーテールが目に焼き付いた。
後ろから、おいおい、女子が体育やってるぞー、なんて騒ぎ出すやつらのことが、今日はあまり気にならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます