紫式部日記

お母ちゃんへ

『紫式部日記』 紫式部 平安中期


お母ちゃん


 今日、中宮はんが、お香、合わせはって、うちらにも下されました。

上等なもんやさかい、そちらに戻れましたら、みんなに分けよ思うてます。


 紫式部はんが、ほな御前から下がりまひょう、言わはって、うちら、お部屋にもどることになりました。


ほんなら、弁の宰相はんとこ、なんやこう、半開きぃになってはりました。


あれ?思うたら、弁の宰相はん、中で居眠りこいてはりました。


 弁の宰相はん、なんや、綺麗なおべべ広げて、硯の箱、枕にしはって、口元隠して、えらい気持ちよさそうに寝てはりました。


「あらまぁ、なんや、愛らしなぁ?」


紫式部はん、そないに言わはりました。


ほんで、いきなしツカツカツカ、中へ入らはって、弁の宰相はんのひっかぶってはったおべべ、ばっ!ゆーて、引っ剥がさはって、こない言わはります。


「物語の女のつもりやろか?」


ほんなら、びっくしして起きはった弁の宰相はん、

「あんたはんなぁ?寝てる人をそないにして、いきなし起こすとか、頭、おかしいんと違う?」

言わはりました。


弁の宰相はんのお顔、少し赤らんではったんやけど、紫式部はん、お部屋に戻らはった後

「いややわぁ、弁の宰相はんみたいな普段からべっぴんさんのお人が、あない、起き抜けぇとか、ほんま、上品で美しゅうてええなぁ!」

言わはりました。


お母ちゃん。

あない、むくつけな物言いしはる人ら、リアルに見んの、はじめてです。


早う現代に戻って

『平安時代に転生したら、宮中って、ドSで大阪やった件について』

とか書きたい思います。





『紫式部日記』 紫式部  平安中期



 二十六日、御薫物合せ果てて、人びとにも配らせたまふ。

まろがしゐたる人びと、あまた集ひゐたり。


上より下るる道に、弁の宰相の君の戸口をさし覗きたれば、昼寝したまへるほどなりけり。

萩、紫苑、色々の衣に、濃きが打ち目、心ことなるを上に着て、顏は引き入れて、硯の筥に枕して臥したまへる額つき、いとらうたげになまめかし。

絵に描きたるものの姫君の心地すれば、口おほひを引きやりて、

 

 「物語の女の心地もしたまへるかな」  

といふに、見上げて、

 「もの狂ほしの御さまや。寝たる人を心なく驚かすものか」

とて、すこし起き上がりたまへる顏の、うち赤みたまへるなど、こまかにをかしうこそはべりしか。

 

 大方もよき人の、折からに、又こよくなくまさるわざなりけり。

   

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