二人目の被害者③

家を出て、電車に乗って、最寄駅に着いても私は常に誰かの視線を感じていた。

「やっぱり、誰かにつけられている気がする。」

私は視線を感じながらもお金を下ろす為にATMに立ち寄った。預金残高を見ると、20万円くらいしかなかった私は、仕方なくクレジットカードでのキャッシングまで行う事になってしまった。


通勤する人たちの中で私だけが場違いな服装で、鬼気迫る雰囲気を醸し出しながら金策に走った。約束の時間まで残り10分を切った所で何とか30万円を確保した私は急いでロッカーへ向かい、現金をロッカーに入れて私はその場を後にした。


現金を用意でき、ロッカーへと閉まった事で、追い込まれていた精神状態から多少の安心感が生まれて、少しばかり冷静になった自分がいた。

『ここでお金を取られるのは悔しすぎる。必ず、この現金を取りに来る人がいるはず。その人を絶対に捕まえて警察に突き出してやる。』

そう思った私は、どうせ今日は会社を休むつもりでいたので、会社へ欠勤する旨の連絡を入れてロッカーを監視し続けた。


うちの会社だけでなく、私が勤めている会社付近は始業時間が9時半だったり、10時だったりと遅い時間で設定されている会社も多い事もあり、9時を過ぎても最寄駅は人の流れが途切れなかった。


9時10分、20分、30分と時間が経過しても、ロッカーに近寄る人は全く現れなかった。

『おかしいな。もしかしたら、既にお金が取られている?』

そう思った私はロッカーに駆け寄り中を確認したが、30万円はまだ残っていた。現金がある事を確認した私は、またロッカーが見える場所から監視を続けた。


9時45分頃になると、10時出勤の人たちがぞろぞろと現れ始めた。予想以上の人の数で焦っていると、一人の駅員が私に話しかけてきた。

「すみません、あなた朝からずっとここからロッカーを見ていますが、ロッカーに何かあるんですか?」

突然、駅員から話しかけられた私は焦った上に本当の事を言ってしまうと、警察に伝わってしまうかもしれないという危機感から無言で目をそらし続けるしか出来なかった。

「あの、ちょっと駅員室まで来てもらっても良いでしょうか?」

駅員から駅員室へと連れて行かれそうになった私は、

「いえ、特に何もありません。人と待ち合わせをしていただけです。」

と嘘をついて、その場をやり過ごそうとした。その時、一本の電車がホームに入ってきた。

「待ち合わせですか。それなら良いんですが、あまり紛らわしいことはされないようにお願いします。」

駅員が私のそばを離れた時には先ほど入って来た電車の人たちが改札を通り過ぎていった後だった。


『もしかして』

私は急いでロッカーに駆け寄り中身を確認すると、そこには30万円が無くなっていた。

『やられた。』

私は落胆したまま、自分の家へと帰り郵便受けを覗くと、また1通の封筒が入っていた。

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