一人目の被害者④
それから数時間してから、やっと彼氏から連絡が来た。
「ごめん、仕事で連絡するのが遅くなって。どうしたの?何かあったの?」
「忙しい時にごめんね。どうしても確認したいことがあって。今日もう遅いんだけど、これから会えないかな?」
「今から?もう23時過ぎてるし、明日も仕事だから難しいかな。」
「そうだよね。無理言ってごめん、でもなるべく早く会いたいんだけど。」
「んー、じゃあ明日の夜でも良い?20時過ぎくらいには着けると思うんだけど。」
「分かった。明日の夜、私の部屋に来て。」
「分かったよ、じゃあ、また明日な。」
電話で話をした彼氏はいつもと変わらない感じだった。
『あの封筒を送ってきたのは彼氏じゃない?だとしたら、両親?いや、私の両親が私を脅す理由が分からない。とすると、考えられるのは誰かが私の部屋に入った?』
これ以上、考えても仕方ないと思った私は、とりあえず寝ることにした。でも、誰かが侵入したかもしれない部屋に一人で寝る勇気は無かったため、近くにある実家にタクシーで向かい、久々に実家のベッドで眠りについた。
急に帰ってきたから、両親からとても心配されたが何とか平静を装ってやり過ごした。
ただこの時、私は重大なミスを犯していることに気づいていなかった。封筒に一緒に入っていた手紙に書かれていた大事な一文のことをすっかり忘れてしまっていたことに。
『この写真を会社にばら撒かれたくなかったら、明日までに50万円を指定されたロッカーへ持ってこい。』
翌日、会社に行くと上司からすぐに会議室に来るように言われた。
不安に思っていながらも会議室に向かうと、茶封筒を差し出された。その中を見て私は背筋が凍った。
「その中にある写真がビルの入り口やエレベーターの中、会社の受付まで貼り付けられていたらしい。朝早く出社した社員が見つけて、すぐに撤去してくれたようだから、その写真を見たのは、その社員と、ここにいる女性リーダーの二人だけだ。こういった嫌がらせを受けるような心当たりはあるか?」
そう問われた時、私はあの手紙の一文を思い出した。
「何か心当たりがありそうだな。プライベートに干渉するつもりはないが、会社にとって不利益になるような事だけはしないでくれ。今回は厳重注意だけに留めておくが、もしこういった事が常態化するようなら退職してもらう事も視野に入れて検討しなければならないから、そのつもりでいてくれ。」
そう言うと、上司と女性リーダーは会議室を出て行った。
会議室に残された私は、あまりの理不尽さ、恥ずかしさ、悔しさ、恐怖、不安などあらゆる感情が混ざり合って、その場で泣き崩れてしまった。その泣き声を聞きつけた上司と女性リーダーが血相を変えて飛んで来た。
「今日はもう、仕事は良いから帰りなさい。一週間くらい落ち着くまで家でゆっくりと休むと良い。」
でも、私は自力で立ち上がることも出来ず、母親に迎えに来てもらって自宅へと帰った。
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