第46話

「ミレアスフィール」


 先ほどから朝食に手を付けず、そっぽを向いていた隣に座るミレアスフィールに俺は声をかけた。

 

「なぁに、おにいさん」


 声をかけられたミレアスフィールは上機嫌に笑って、俺に腕に抱き着いて答えてくる。

 

「抱き着くな」

「やーよ。おにいさんとミレアは一心同体なんですもん」

「………」

「………」


 シャルロット、サラの二人の視線が突き刺さる。

 

「朝から思っていたのですが、そちらの方はどなたなのでしょうか?ご主人様。ミレアスフィールとおっしゃっていますが、まさか水の女神様ではないですよね?」

「いや、そのまさかなんだが……」

「はぃい!?」


 悲鳴に似た声がシャルロットから上げられる。

 まあ、無理もないか。

 

「待ってください。本当に本物のミレアスフィール様なんですか?」

「本当にミレアスフィールだ」

「ウフフ……」


 不吉な笑みを浮かべ俺に抱き着き、シャルロットに笑いかけるミレアスフィール。

 

「はらぐろい」


 サラよ、そう言わんでくれ。これが俺の内面らしいのだから……。

 

「あなたご主人様に何を、ジンさんを刺客にするに飽き足らず、まさか直接洗脳を!?」

「待て待て、立ち上がるな」


 どうどう。

 慌てて立ち上がったシャルロットを座らせて、

 

「理由についてはサラはもう知ってるよな」


 コクリと首がたてに振られる。

 

「理由?ですか」

「まあ、俺がティアラから全ての力をもらう条件でだな……」

「はあ……」


 俺はテァイラのことをとミレアスフィールとの契約についてシャルロットに説明を始めた。

 

 ◇

 

「理由は分かりました。にわかに信じがたいですが……」


 全て説明し終わると、シャルロットもどうにかミレアスフィールへの警戒を解いてくれたようだ。

 まだ、睨んでいるけども……。

 

「ところで、いつまでそうしてご主人様に抱き着いているおつもりですか?」

「?」

「そこ、ワタシの場所」


 確かに、ミレアスフィールは俺にずっと腕に抱き着いている。

 というか、サラの場所でもないんだが?

 

「ご主人様も嫌がっているのではないですか?」

「いや、まあ。別に」

「……ご主人様が言うのでしたら仕方ないですが。それほどまでに引っ付く理由はないと思いますが……」

「おにいさん、あの奴隷こわ~い。それに、そうでもないわ、今のミレアは言っちゃえば魔力体だもの。こうして、おにいさんから魔力を供給してもらわないと存在を維持できないもの」

「そうなのか?」

「ええ」


 魔力体と言うのはよく分からないが、魔力の供給はサラが一度俺にやってくれたことがある。

 こうしてくっついているだけでいいんだっけか……。

 

「ミレアは存在しているだけで魔力を使用しているの。だからこうして常におにいさんにくっついてなきゃいけないの」

「例えそうであっても、ずっとではないハズだと思うのですが?」

「こわ~い」


 睨みを利かせるシャルロットにミレアスフィールが俺の首腕を回し、更に抱き着く。

 

「ん……」


 ふと、食べ終えていたサラが席を立ち俺の横へと来る。

 そうして、

 

「おいサラ」


 ミレアスフィールが抱き着く腕をは逆の方向に抱き着く。

 

「ずるい」

「いや何が……」

「そうです!!ずるいです!!」


 我慢できなくなったのか、シャルロットも立ち上がり、背後に回り首へ手を回し抱き着いてきてくる。

 

「なにがずるいんだ……」

「ちょっと、引っ張らないで」

「ん~」

「ご主人様が嫌がってるじゃないですか!!」


 ああーわわー。

 まるで子供が取り合う玩具のようになって、それからは朝のように彼女達は言い合う。

 あ……。つかれる……。

 

 そうして、話が丸まったのはおよそ一時間後だった……。


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