第47話

 そうして――俺たちはとある場所に着いた。

 

 宿での騒動は、シャルロットがその場で剣を抜くというところまで至ったが、それは命令で無理やりやめさせ半ば強制的にミレアスフィールも仲間と言うことで話が落ち着いた。

 落ち着いた。

 うん。落ち着いた。

 そう信じよう。

 

 まあ、もしミレアスフィールがなにか不審な動きでも見せればサラがその脳天を打ち抜くのは明白なので、というかそれぐらいサラでさえ睨みを利かせてると言うのは驚きだが……。

 いずれにしても、ミレアスフィールがなにか俺に悪さをしようとすることはないだろう。

 抱き着くのは一応、サラ的に悪さにギリ入っていないらしいし。あくまでもギリだが……。

 

 正直先が思いやられる。

 

 とは言え立ち止まる訳にはいかないので、俺たち三人はこうして足を運んだのだった。

 そこは、そう。

 

「ひと月も立ってないのに、何か一年ぐらいぶりに思える」

「あの、ご主人様ここは?」

「ああ、ここか」


 そこは、俺とティアラが最初に会った場所。

 そして、

 

「コイツに落っことされた場所だ」


 そこは、森の深い場所に一角だけ吹き抜けたところ。

 木々の隙間から光は入り、小さな泉がある大樹の元。

 

 その大樹を見上げながら、親指で後ろを歩くミレアスフィールを指して俺は新品のメイド服のシャルロットに答えた。

 

「というか、シャルロット。アンタその恰好で本気でダンジョンに行く気か?」

「はい。もちろんです。私はご主人様にお使いする身、もう騎士ではありませんし」

「だからってなぁ……」

「ここに来る前にもうし上げた通りです、私が騎士の恰好をする事は貴族の反感を買う可能性があるため」

「分かってる。奴隷落ちアンタがそのまま騎士のままじゃあってことだろ?」


 部隊に居た親族の貴族はシャルロットを決してゆるさない。

 それゆえ奴隷であるのだから、騎士の鎧などもってのほかだ。そんな姿を見た暁には王にクレームが入るだろうからな。

 王曰く、色々お国的に面倒が怒りかねないらしい。だからシャルロットはメイド服だ。あくまでも、彼女はあの国でいい格好はしてはいけない。

 そうでなければ、ならない。

 ホント、面倒な世の中だ。

 

「で?おにいさん。こんなところに何しに来たの?まさかミレアに文句でも?」

「ん?」


 文句はいくらでもあるのだが、そうではない。

 

 一人、俺は大樹の根元に近づく。

 そこにある碑石。

 その前にしゃがむ。

 

『黄金の剣姫ここに眠る』


 そこに刻まれた異国の文字は前と何も変わらない。

 いまなら分かる。

 黄金の剣姫。それはティアラのことだ。

 

 聖剣ティルウィングを振るう黄金の剣士。

 王であり、剣士であった彼女は誇り高く何かを守っていた。

 それは、ティルフィングを幾度となく使用し知りえている。

 彼女は遠い過去の王だ。

 遠き古の国を大きな都を収めていた王。

 そして、これは彼女の、

 

「ティアラの墓ね」


 答えたのはミレアスフィールだった。

 

「おはか?」

「そう。墓。ティアラの墓。でもおにいさん、どうしてここに?」


 愚問だな。

 

「知ってるんだろ?ここがダンジョンの入口だってことを。ミレアスフィール」

「そうなのですか!?」


 その問ににぃっとミレアスフィールの口元が緩む。

 

「もちろん。知ってたんだ」

「半信半疑だ」


 でもまあ、ここしかない。

 ギルドで訊いたダンジョンの入口。

 あるとは話は上がっていたが、一切その調査は進んでいない。

 その正体はここにある。

 

 なにせ、ティアラはその入り口をふさいでいたんだからな。

 

 けれど、そこで疑問が一つ浮かび上がる。

 なぜ、ティアラは入口を塞いでいたということだ。

 それに、俺がこの世界でティアラと契約した時に、このダンジョンではなく、別のダンジョンへ向かわせたのかだ。

 

 その答えは……。

 

「そりゃ、ここのダンジョンが光の女神を食いつぶしたダンジョンだからな。あまりに強力過ぎて封じてあるから」


 ここは元々光の女神の管理領域。であれば、そこを侵食するダンジョンは間違えなくソレに当たる。逆に考えれば光の女神の力を持ってしても、太刀打ちできなかった訳だ。

 だから、ティアラは初め俺に合った時、このダンジョンには入らせず試すように別のダンジョンへ導いた。

 それが、答えだ。

 

 まあ、それが分かったのはティアラに全ての力をもらった時だけどな。

 あの時、力と共にティアラの記憶の流れ込んできた。

 敗残兵のその末路は如何に辛いものだったのか。

 それを、今ここでどうということはない。けれど――そこにある答えの一つにこれがあるのだ。

 

「ソードクリエイト――ティルフィング」


 形成するは王家をつなぐ黄金の宝剣。

 立ち上がり、それを右手を突き出し、形成しつかみ取る。

 黄金の鱗粉をまき散らすその宝剣は美しも神々しい。

 

 そうして俺はその剣を墓の前に突き刺した。

 

「返すよ、ティアラ。この剣はアンタのもんだ。今の俺には必要ない。それに、この剣にふさわしいのはやっぱりアンタだよ。俺じゃあ到底及ばないし、きっとその方がコイツも喜ぶだろう」


 手向けと受け取れ。墓に飾る花束など用意していない。

 けれど、きっとティアラには花束なんかよりもこいつの方がにやっている。

 黄金を纏う宝剣。

 それはまごうことなき、純白の剣士にあるべきものなのだから。

 誇りと共に本来の所有者の元に変えるべきだ。

 

 それに、俺も俺の剣を探す。

 借りものじゃない。本当に俺だけに許された剣を。

 だから返すのだ。

 これはその覚悟と、もう安心して眠ってくれと言うティアラへの捧げものだ。

 

「―――」

 

 それに答えたのか、ティルフィングは光を瞬いて跡形もなく消失する。

 

「ツルギさん」

「ツルギ」

「ああ――大丈夫だ大体分かってる」


 そうだ、大体な。

 

 そうして、大樹は光輝きその形を変えていく。

 

 俺たちはそれに合わせて、離れ、して――。

 

「これがここのダンジョンの入口」


 そこにはぽっかりと穴を空けた大樹の姿があり、その奥は気の根がうねるように絡まり奥へと続いていた。

 まるで、根でできたトンネルの様で、光を隙間から通り緑豊かな道が続く。

 

「さあ行こうか。次は光の女神の奪還だ」

「はい」

「うん」

「ウフフ」


 三人は頷き返し、俺を先行にそのダンジョンへと足を踏み入れる。

 そうだ。ここからだ。

 俺は借り物じゃない。俺自身の剣と旅路を行くために。

 

「ソードクリエイト――」


 新たに剣を形成して、ダンジョンの奥へと進んでいく。

 

 

 1章 END

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