第42話

 そうして――、

 

「待って下さいっ!!」


 いつの間にか正常に動作していた時の中で、シャルロットは剣を振り上げる俺を後ろから抱き着き取り押さええていた。

 

「どうして止める」


 その体制のまま剣を振り下ろそうとする力を弱め、シャルロットへと問う。

 

「殺すことはありませんっ。例えどんな相手だろうと、いけませんッ!!」

「なら、アンタは許すのか?」

「許せません。ですが……」


 ですがと、涙ながらに訴える彼女。

 それに、俺は戸惑いながらもその剣を降ろす。

 

 だが、そのシャルロットの慈悲すらもジンは、

 

「アハハハハッ――このオレが負けたふざけるなああああああッ!!死ねッ死ねッ!!死んじまえええええシャルロット、お前は死ねええええええ」

「な!?」


 瞬間。

 

「あっ……」

 

 その命令は奴隷契約によって叶えられ。

 シャルロットの首輪から伸びる半透明の存在せぬ鎖、ソレはジャラジャラと動き出し、あろうことかシャルロットの首をギチリと閉め始めた。

 

「うあっ……」

「ジンッ!?」

「アハハハハハハハハハッ――バカめッ、オレにに逆らうからこうなるんだ!!」


 占め上がる鎖、ソレは次第にシャルロットの体を持ち上げていき強く締めていく。

 それにつれ苦しみに顔を歪めるシャルロット。

 

「こいつッ!!」


 止める方法は分からない。

 いや、おそらくは奴隷契約を断ち切ればいいのだが、その方法はジンをやはり殺すしか。

 

 ならばそれをするしかない。

 再び振り上げる剣。

 

 けれども、ソレをシャルロットは。

 

「っ――だめ、です……」


 自分が死ぬかもしれないにも関わらず、それでもシャルロットは俺の方に手を伸ばしそれを止めようとする。

 

「っち……」

 

 このバカが、まだそんなことを……。

 迷う暇などない、その筈なのに、剣を振り切れない俺が居た。

 

 それは、人を殺すことへの抵抗なのか。それともシャルロットの意志への尊重なのかは分からない。

 けれど、できないでいて。

 くそっ……。

 

「アハハハハッ!!」


 ジンの笑いが城内にこだまする。

 

 アハハハハハハハハハッ!!

 

 ――タンッ!!

 

 こだまし響く笑いは、裂かんばかりの轟音に断たれた。

 同時、虚しくも目の前のジンが頭を横に大きく何かに撃たれドサリと、崩れる。

 

 そしてそれと共に、シャルロットの鎖が

 

「あ……」


 鎖は消え去り、持ち上げられていた彼女の体もその場に落ちた。

 

 静まり返る場内。俺の前で頭部から血を流し、赤いジュータンを更に紅に染めるジン。

 その中で、カチャリと機械的な音がなり俺はそちら側をゆっくりと見た。

 

「サラ……」


 スナイパーライフルを構えるサラ。

 そのライフルの銃口からは硝煙が噴き出ている。

 

 撃ったのか……。

 唖然と口がふさがらない俺に、サラはライフルを消し去り俺へとにっこりとほほ笑む。

 

「ほら、ワタシが居ないとダメでしょ?」


 その何気ない言葉に俺は苦笑を漏らした。

 ホント――返す言葉もない……。

 

「シャルロット。大丈夫か?」


 膝を着くシャルロットに俺は手を差し伸べる。

 

「は、はい……」


 無論さらも起きたことに、理解が追い付いていないようだ。

 そうして、差し伸べた手を取り立ち上がって、俺とシャルロットは二人倒れるジンを見下ろした。

 

「殺してしまったのですね」

「ああ、そうだな。悪いがサラを責めてくれるなよ?」


 シャルロットはジンを殺すことを最後まで良しとしなかった、ならサラを許さないだろう。そう思った。

 けれど、シャルロットは首を振りサラの方へ向き頭を礼儀よく頭を下げる。

 

「ありがとうございます。確かに殺してしまった事は良くない事だと私は思います。けれど――彼女は私を助ける為にしてくれた。今はそれだけで十分です。それにツルギさんも。私の為に戦ってくださって……」

「ああ……」



 だが、最終的に解決まで持っていたのはサラだ……。

 俺だけじゃやっぱりダメで、どうしようもなかった。

 けど――そのダメな自分の落とし前だけはつけよう。

 

「王、俺の……いいや。俺たちの勝ちだ」


 玉座に座る王を見上げ、俺はそう言った。

 

「確と見たりッ!!今よりシャルロット・アルベリアは貴様の奴隷に!!そして貴様は我(オレ)の護衛騎士とする!!良いな!?」

「ああ。っつっても、ダンジョンは回らせてくれよ?こちとら最初から目的はそれだ」

「無論だ。元より救世主なのだろう。せいぜい我(オレ)の国の為に務めてくれ」

「あいよ」


 そうして、王は立ち上がり。

 

「これにて決闘を終わりにする!!以後、皆の者、彼へ敬意を払えっ!!」


『はッ!!』


 並び立つ兵士が、一斉にかけ声と共に整姿して俺に向けて敬礼をした。

 

 そうして――長らく続いた。シャルロットを巻き込む問題はここに収束した。

 

 

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