第41話
瞬間、先手を取ったのは俺ではない。
いや、むしろジン相手に先手なんてはなから不可能な話なのだ。
合図と共に突然襲い掛かる静けさ。
何も聞こえない。
兵士のカチャカチャとする鎧の音も、俺にやめろと言うシャルロットの悲鳴じみた警告も、風のせせらぎさえも。
総ては停止という牢獄に捕らわれ、静止する。
ゆえにその場に置いて動くはずのモノは何もない。
彼一人を除いて。
「っ!?何故だ何故キサマ如きがオレの世界で動いているっ!?」
全出する停滞の法則。その中でジンは唯一動く俺という存在に、ありえないモノを見るようなものを見たような反応を見せる。
当たり前だ。
本来そんなことはなからありえやしないのだから。
俺が、この停止という世界の中で動くことなどあってはならない事なのだから。
だからこそ、驚いたのはジンだけではない。
この様子を遠くどこか別の空間で覗き見ていた、ジンの女神ミレアスフィールですらそれには言葉を漏らしていた。『ありえない』と。
だが、それは残念だったと言ってやる。
お前たちの思うようになどいかないと。
何故なら。
こうして紛れもない。俺は止まらず全てを見透かしているのだから。
「それが、この力のからくりか……」
時を止めたジンの腕に握られるのは一本の剣。
神聖を放つような蒼の両刃の剣。刃は水のように透き通っており、その刃は静止する世界を反射して映してる。柄と鍔には鏡のように水銀が形取っていて、まるで剣自体が液体でできているような潤んだものだった。
絶対的な神聖を持ち、それは女神ミレアスフィールの加護の力をその物だというがティアラの力によって理解できる。
こと、剣に置いて俺に理解できないモノはない。
それが例え、神の作りし玩具だろうとなんであろうとその理を紐解く。
ゆえにジンの持つその剣。その形成された構成から材質、縁と所縁まですべてが理解できてしまう。
その結論から言えることは。
「なるほど……。これは確かにティアラの言う通り、ただのまがい物だ」
瞳に映るミレアスフィールの剣。
名などない。
ジンの持つそれは所詮はただのまがい物であり、オリジナルの10分の1にも満たないただの欠片なのだから。
そんな欠片程度でも、一定領域にて停滞の概念を垂れ流すとは前柱の神がせつに祈った物だけはある。
こんな程度のモノに止められていたなんて……。正直タネさえわかればティアラの全てを受け継ぐ必要などなかったといえる。
それでも、そうさせたということはこんなものなど軽く超えてしまえということなのだろうが……。
目に映る剣の本質。
それは、太古の神の祈りだ。
せつにせつに、ただ愛しいものよ、永遠に愛していたい。永遠に愛しく思う幸せを思い留めていたい。そういう、ただ純粋な願いと夢がもたらした奇跡。
それがその結晶。そしてその剣はその欠片の一部だ。
欠片であれも祈りの力を宿している。ジンはそれを魔力によって強引に引き出していたにしかすぎない。
ゆえ、まがい物なのだ。
この力は元来は、ただの純粋な渇望だからこそ実り到達できるもの。そこには魔力など必要としないもので、それはただそこにあり、祈るだけで広げられるのが神力だ。
存在その物がそう言った法則であり、魔力などというトリガーなど存在しない。
だが、ジンは違う。そんな思いなど持ってなどいない。
魔力で強引に引き出した渇望を、外へと放出しているに過ぎない。であればどうなのか。
答えは簡単だ。そこには欠落が生じる。元は純なる願いでしかない。それを、いびつな願望を持って扱うことなどそもそも噛み合わなのだ。だからいくら魔力で引き出したとしても、その力は一定領域の範囲でしか機能せずそれに用意る魔力の桁も計り知れない。
その上、綻びが生じる。
この場合。停止という願いであれど、そもそもジンには誰かを愛したいから時を止めたいという気など一切ないのだから、その力は有効範囲だけに収まらず効果そのものも弱まる。
本来は、完全停止という存在するだけで放たれる力は、こうして、ただ"|俺が気合いを入れた(自身を魔力で覆った)"程度で打ち破れてしまっている。
とんだ欠陥能力だ。
まあ、その魔力の扱い方も、ティアラの力があってこそ俺はできているのだが。
この程度なら、この世界の人間ならば子供でも練習すればできることなのだろう。
だから断言できる。
まがい物だと。
タネがバレたマジックなどなんてことなんてない。
それを知らないジンは、顔を歪め――
「ふざけるなああああああ!!オレの世界でオレだけに許された力だ!!ゴミ如きが勝手に動きやがってえええええ!!」
叫び振るわれるまがい物の剣。
その剣筋は、確かにそれなりの見世物ではあるが、俺はそれをすらすらと交わしていた。
そうして――、
「ソードクリエイト――日本刀」
キーンッ!!
弾く。
形成したのはただの日本刀。
なんの力も持っていない。ただの鉄の刀だ。
それで、いいや――そんなものでも簡単に神の剣は弾き飛ばせてしまった。
「くっ――なんだそれ!!ふざけるな!!オレの力は絶対だぞ!!ミレアスフィール様の契約者なんだぞ!!」
慌てて、逃げるように飛んでいった剣の方へ行き拾い上げるジン。
それでなお、こうして声を荒げている。
こんな奴にシャルロットは凌辱されたのか、俺がすごいと思った剣はこの程度の奴に踏みにじられたのか……。
そう思うだけで、噛み締め少し砕けた奥歯をギリッとさらに砕かんとしてしまう。
「お前に本物を見せてやるよ……」
「ハハッ――何言ってるんだキミ程度の力」
今度は剣ではなく、魔法。
ジンの周囲には水滴が集まりうねり、弾丸となって無数に俺めがけて飛び出す。
そんなもの……。
「ソードクリエイト――」
形成するは本質。
正真正銘の神の領域。そこに踏み込み導き出せる理。
それがティアラが俺へ最後に託した力であり、彼女の存在そのものだ。彼女は剣(ツルギ)であり守護する者だから。女神の剣を手に取るに値する者として一度は到達した彼女だから、いくたもの女神の剣については記憶に刻まれている。
無論、その中にはミレアスフィールの剣とその存在の理についても刻まれており。
それはもちろん、それはティアラが所有していた訳ではない。けれども見ていたのだ。その成り立ちを。渇望へ至る刹那を。
流れ溢れる力は沸騰し、水滴となって日本刀を投げ捨てた俺の手へと集まり模る。
導き出さる理。
それは知識とだけではなく神威となって放出されて。
そうして――集まる水滴は神の涙。
その涙は決して穢れがない訳ではない。むしろ、憎悪に歪んでいる。
嫉妬、怒り、後悔。
うねる透明度は目に見えぬどす黒い濁りを持っており、それは女神であるという神聖から鎮静した。
手に掴む集まった水滴は大きく鼓動して、弾け凍てついた破裂となって形を形成する。
そう、凍てついた。
憎悪に歪んだ力は神聖の正なる力によって強制的に鎮静し封じ込められた。凍てついた、心となって。
それが、これだ。
凍てつき結晶化した水滴は剣の形を真っすぐ模って、ここに具現化する。
蒼く銀に輝く、光を反射し鏡面と化している分厚い刀身に、同じく鏡面のように反射をする凍りの鍔に柄、柄の先端にはキーホルダーのように鎖で雪結晶の飾りが垂れている。
騎士の剣を模した、その美しい氷の彫刻のような長剣は、俺の身長近く長いが、それとは正反対に重さは感じない。
見た目は氷でも――どこかそれは強い強度を持ってると信頼感を感じさせる。
剣の女神ティアラの記憶に眠る理。
それは、ミレアスフィールの心の形を模った剣であり、同時にそれを所有していた者の渇望だった。
そしてそれはここに顕現した。
俺へと迫っていたジンの撃った水弾は、剣からあふれ出る冷気を浴びて凍結して、破裂し砕け俺の前でサラサラと粉雪の如く四散する。
それを見たジンは――、
「なんだ、それ……。なんなんだああああああああああ!!」
己が持つまがい物のを握り俺へを振り上げた。
俺が形成した剣は――。
「――ミレアスフィール」
俺とジンが交差する一閃。
「………」
交差し俺は振り払った体制から静かに立ち上がると、背後にいるジンの潤んだ剣は凍てついて――パリンっと跡形もなく砕け散った。
「なぜ……。なぜオレの力が……」
「そいつはアンタの力じゃない」
そう、俺もジンも所詮はどちらも借り物の力なんだ。
いくら本物のミレアスフィールの、水の女神の魂を顕現させることができても。
理があろうとも。結局は借り物だ。
それらの剣を持ちえた本物の英雄たちには到底及ばない。
それが分からないんじゃ、アンタは俺には勝てない。
振り返り振り上げる剣。砕けた剣に驚愕して膝を着くジンに俺は剣を振り下ろした。
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