第40話

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「っと、ここは?」


 サラの繋げる黄金のゲート。俺とサラはそれを抜けて元の世界へと戻って来た。

 そうして、ここは――。

 

「ほう。面白い魔法を使う」


 王宮。

 シャルロット救出劇を繰り広げたその城の王の間。

 そうして、現れた俺たちを見てその男をは玉座にて関心の声を上げたのだった。

 

「アンタは?」


 玉座にて肘掛けに肘をかけ態度を大きくするそいつ。気づいた俺は問う。

 

「我(オレ)が誰か問うか。面白い。我(オレ)は皇帝、この国を治める皇帝ぞ?」

「皇帝?ってことはアンタがここの王様か」


 不思議な圧に俺の後ろへと隠れるサラを隠しながら。


「王様にしては護衛もないみたいだが?」


 見渡しても、だだっ広い玉座の間にはただ赤いジュータンが壇上の座に両開きの大きな入口の扉から伸びるだけで、何もなければ誰一人していない。

 本当にここが王様の部屋のかと問いたいぐらいに、警備なんてもんもなんかありゃしないぐらい静まり返っている。

 

「まあ、丁度いいか……」

「ほう」

「単刀直入に頼みたい。シャルロットの件だが――」

「みなまで言うな」


 俺が話しを切り出そうとすると、王はそれを遮り、

 

「貴殿がこの慌ただしさの主犯か?なるほど。救世主か……。要件は理解しているつもりだ、騎士長のことだろう?彼女はよくやってくれていたよ」

「だったら――」


 再び遮られる。


「失敗は失敗だ。そうでなければ示しがつかないだろう?この国は有権者の貴族の出資で賄っている。無論、壊滅した隊に居たのは貴族ども親族が多くだからな。元来ならばそのまま貴族どもに売り飛ばすつもりだったが、ジンがご執心のようだったのでな。こちらの要求を訊くという条件にくれてやった」

「条件だと?」

「抑止力。言った通りだ。貴族どもでこの国は成り立っている。奴らはいつでも座を奪おう考えているからな。そいつらを押しとどめる矛となってもらうという条件を飲んでもらった」


 なるほど。王や有権者の貴族の権力争いの内情なんてよく知らないが、シャルロットとジンは良くも悪くもソレを収める為に利用されたとは……。

 それに、確かに。貴族の親族が皆ソロって失脚なんてそりゃ貴族は激おこだ。何が何でも処分しざる負えないだろう。

 それで、奴隷ね……。

 シャルロットは最初からソレを知っていてもなお、おいそれと自分で状況を報告しにいったとは、クソ真面目にも程がある。


「そいつは随分と困っているようだな。で?そんなこと俺には――」


 また、途中で遮られる、


「関係がない。救世主と言うのはどうしてこうも傲慢なのだろうな。だがまあいい。正直我(オレ)もジンには手を焼いていたところだった。貴殿がジンを消すことができたのならシャルロットは好きなようにするがいい」

「おいおい。俺にジンの代わりをしろってか?」

「身の程をわきまえよ。貴殿の置かれている立場は国家反逆罪だぞ?このまま逃げおうせたとしても国は総力を持って貴殿を追う。それだけではない、近隣諸国全てが貴殿の敵となるが?こうして我(オレ)は貴殿にチャンスをくれてやっているのだぞ」

「………」


 言われ、不本意だが考えるほかなかった。

 

 全国指名手配か……。

 それは確かに困る。

 それに、ティアラの頼みを訊くにはソレはあまりにも邪魔な制約となる。

 

 なら、確かに王の話に乗っかるのは悪くはない。

 が――。

 

「仮に、俺がジンの代わりを務めたらどうなる?」

「無論、それなりの権利と冨を与え、騎士長を貴殿の奴隷として認めよう」


 奴隷は……。

 そう来たか……。

 まあ、どちらにせよ。王としては貴族の反感を抑えるためにもシャルロットにはそれ相応の立場には貶めたいらしい。

 

「一つ訊きたい」

「なんだ?」

「俺はこの世界に来たばかりで、この世界の奴隷についてはよくは知らない。奴隷になった場合どうなるんだ?何か制約でもあるのか?」


「それはオレが教えてやろう!!」


 バーンッ!!

 両扉の大きな扉は開き、その先からジンと複数の鉄の甲冑を着た兵士が大量に軍をなして部屋へ現れた。

 兵士はカチャカチャと鎧を鳴らしながら俺とサラを包囲する。

 

 そして、ジンの手には鎖がにぎられており、その先には――、

 

「シャルロットっ!?」


 鎖は腕を縛りそのまま伸び彼女の首輪に繋がって、まるで飼い犬のように強引に引かれて居た。

 

「この世界の奴隷契約って便利でね、この通り。"来い"」

「いやっ」


 気色の悪い笑みを浮かべたジンがそういうと、鎖はひとりでに動き腕からほどけると、ジンの腕と彼女の体を縛って強引に嫌がるシャルロットをジンへと抱き着かせた。

 その状態を作った鎖をよく見れば、実態があるようでないのがわかった。

 薄く半透明に、赤黒く光を微少に流しているそれは何か魔的な物なのは明白で。

 

「くっ、あっ……っ」


 きつくシャルロットの首を絞めて、彼女の顔を苦痛に歪ませていた。

 

「バカだなぁ、抵抗するからそうやって苦しむ羽目になるんだ。どうだい?すごいだろ。ついさっき彼女と奴隷契約したんだ。契約した彼女はオレの言うことを聞くしかない。無理にでもね。じゃないと死んでしまうから」

「テメェ」

「それにしても、さっきのは驚いたなぁ。まさか不意打ちであんな閃光を食らうだなんて。でも――残念、この通り彼女はオレのモノだ。アハハハハッ――!!」


 何がおかしいのか。強引に苦しと屈辱に表情の歪むシャルロットを引き抱きしめるジンは、高らかに笑いを上げている。

 それを見て、ジリ――っと。

 

 奥歯が砕けた音がした。

 

「王、さっきの話は信じていいんだろうな?」

「ほう?よい。好きにするといい。ここでその結末を見届けてやる。一対一の決闘にて我(オレ)を楽しませるがよい。兵どもよ下がれ」


『はっ!!』


 王の一言で俺たちを囲んでいた兵士は全員壁際へと下がってスタスタと下がる。

 

 それを見て訳を知ってか知らずか。

 

「まさか今度は王に取り繕うなんてね。いいよ。ほらシャルロット。オレから離れてそこに居たまえ」


 そう言うと、シャルロットをジンに抱き着かせていた鎖は緩み、繋ぐ鎖は今度は後ろへと無理やり引いてシャルロットを後退させる。

 

「ダメですツルギさんっ!!そんなことをしてはっ」


「サラも下がって」

「うん……」


 シャルロットの警告など聞きもせず、俺もサラを下がらせ前へと出る。

 

 俺とジンの距離はおよそ5メートルもない。

 走り込み踏み込めば、瞬時にどちらも斬りこめる距離だ。

 

 それは、お互いただの剣士であればの話だが……。

 

「一対一の決闘なんて無駄な事を……」

「黙れよ」

「おやおや、随分と頭に血が上っているようだね」

「黙れっていってるだろう?」


 ただ俺は目の前のジンを睨みつける。

 そうして、お互いの様子を見かねた王が声を上げる。


「合図は我が取ろう。始めよ!!」

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