第38話


 牢を出て、迷宮張りに広い地下を走る俺だが、そんな俺を顔をみてフフフッっと小さくシャルロット笑った。

 

「フフフッ」


 なんだか楽し気だ。

 いまはそんな楽しい状況じゃなというのに。

 

「どうした?」

「いえ、不快にさせたのなら申し訳ございません。ただ」

「ただ?」

「ツルギさんって意外と強引な方なんですね」


 なんだそんなことか。

 強引も何も俺は自分のしたいこをしているだけにすぎないのだが。

 それが何か問題でもあったか?

 

「気に障ったなら申し訳ないです」

「別に、俺も自由奔放に生きてるのは違いないし。そう言った意味じゃ他の救世主とやらと変わらない」

「ですが、あなたは私が見てきた救世主様の中でも誰よりも真っすぐで……。私もあなたみたいに成れれば……」

「だったら、そのお堅い頭を変えることだな。さっきも言ったがアンタの騎士道なんざ俺は知った事じゃない。剣士だからってその剣に誇りなんてもん持っちゃい居ない。

俺にとって剣なんて今までただ振って斬る玩具に過ぎなかったし、そこにルール見たいなものを設けたこともない。

バカなんだよ、ただの。やり続けるしか能がない」


 だから目指そうだなんて思わない方が良い。

 結局何も得られなくても続けるだけのそんな人間なんて。

 それは、言ってしまえばただの脳死だから。続け得られなくても、楽しければそれでいいと。

 そんなのを目指そうなんてやめたほうがいい、目指し至ったところで轢死するしかないのだから。

 

「俺はこの世界に来てようやく報われた。ただするだけで、食いつぶす日々を送っていたそんな奴だ。だからマネしようなんて考えるもんじゃない。真っ当になりたいのなら、この世界で生き抜きたいのならもう少し考得た方が良い」

「そんなっ、ツルギさんはとってもしっかりとした方ですよっ、バカだなんて……謙そんなさらないでください!!」

「そうかいっ!!」


 ひょいっと行きに倒した倒れている兵士を飛び越え、俺はそのまま階段を駆け上がる。

 

 問題は此処からだ。

 ミスティルテインを手にしていない以上、逃亡する俺とシャルロットの姿は消えていない。

 見つかれば即、追手に追われる羽目になる。どうにか場外まで行けば|鷹の目(サラ)がいるのでいいが、それまでが勝負どころだ。

 

 そう思いながらも、闇の底から続く階段を駆け上がった先で、俺は足を止めざるおえなかった。

 ゆえ、なぜそうならざるおえなかったか

 

「やあ、ご苦労様」

「ジンさん!?」

「ちっ――」


 駆け上がったその先で、兵士が俺たちを包囲していたからに他ならなかった。

 地下への階段を円形に囲む兵士達、彼らは槍を構え俺たちへ向け、駆け上がった俺たちの正面、そこにはジンが随分と楽しそうなクソッタレな笑みを浮かべて立っていた。

 

「まさか、気づいてなかったとでも?」


 やはり、すれ違ったあの時バレていたようだ。それで兵士を呼んでこうして入口をで待っててくれたのか。

 随分と陰湿なことをしてくれる。

 そのまま、地下に攻めこめばいいモノを。

 いいや、それ以前にすれ違った時にジンならば時間を止めてどうとでもできただろうに。

 

 いつでもヤれるってか?

 

「ソー――」

「おっと無駄な抵抗はしない方が良い。キサマはオレの力を知っているだろ?」


 剣を形成しようした時、そうジンが忠告をしてくる。

 

「ちっ」

「まずはシャルロット嬢を降ろしてもらおうか」


 言われ、俺はシャルロットを降ろしその場に立たせる。


「ジンさん、私のせいです!!私はどうとなっても構いません!!ですが彼だけは!!」

「そうだねぇ!!」

「おいやめ――ッ!!」


 俺の体が、腹部への痛みと共に吹き飛ぶ。

 今なら分かる。時間を止められたと。

 

「黙っててくれないか!?」


 倒れた俺に激を飛ばし、そしてシャルロットに手を差し出すと。

 

「ダメじゃないか、シャルロット嬢アナタはもうオレのモノなのだから、勝手なことをしてくれちゃーねぇ!!」

「キャっ――!?」


 パシンッ。

 

 ジンの平手がシャルロットの頬をブツ。そうして、

 

「なあ、おまえ分かってんの?本当は貴族のブタどもに玩具にされるところを、オレが助けてやってんのに」

「やめ――」


 髪を掴み強引に抱き寄せ、頬を掴む。

 

「それなのに、こんなゴミにそそのかされちゃってさぁ」

「やめてくださいっ」


 そうして、腹をまさぐり胸を掴み、嫌がるシャルロットの頬を舐める。

 

「大体なんだお前。一緒に逃げ出してどうしようとしてた?ああーもしかしてこういうこと期待しちゃってた」

「いや……」

「暴れるなよ、このゴミ殺しちゃうよ?」


 暴れるシャルロットだったが、そう耳ももとで囁かれると、ハッと抵抗するのをやめた。

 

「さて、このゴミどうしたもんかなぁ」

「どうしたもんかなぁじゃない……」

「動くな!!オレはその気になればいつでもキサマを殺せるんだぞ?」

「っ」


 言われ、俺は膝を着いたまま動きを止める。

 止めざるおえなかった。

 手がない。少しでも動きさえしてしまえば時間を止められる。

 そして、時間を止められたら一巻の終わりだ。

 手はない。ソードクリエイト?

 間に合わない。それこそ時間が止められる。

 

 せめて、一瞬のスキでもできればシャルロットだけでもこの場から吹き飛ばしたりして無理やりにでも逃がすことができるのに。

 

「ほおぉらどうする?救世主様なんだろ?出来損ないだけどな。フハハハッ――!!」


 楽し気に笑うジンに俺はなすすべはなかった。

 どうすることもできない。

 くそ――

 

 その時だった。

 

「フハハハハハ――へっ?」


 ジンの目の前に落ちてきたソレは、閃光を爆発させ爆ぜた。

 

 急なフラッシュに目がやられ視界が一気に真白になって何も見えなくなる。

 と、共に。

 

「くあっ!?」


 なにかに俺はコートの襟もとを捕まれ、地下へと転げ落ちた。


「クソぉおおゴミがあああああぁあ!!」


 階段を何かに引かれ落ちる感覚と、聞こえるジンの叫び声が小さくなっていき離れているのは分かった。

 一体誰が……。

 

 そうして、屈辱と疑問が渦巻く中で、

 

「いでっ!!」


 俺は落ちた。

 

 ドーンッ!!ガラガラ――。

 

 同時に、何かが砕け崩れる音がする。

 くそっ、見えない……。

 閃光をモロに受けた目はダメージが酷く今だ視界は戻らない。

 

 そう事態の急変に追いつけない俺に声が掛る。

 

「道ふさいだ。これならだいじょうぶ」

「サラ!?サラなのか!?」


 聞こえた声はサラのものだった。

 でもどうして、ここに?

 

「まってて、いま目なおす」

「っ!?」


 言ってなにか俺の両目に衝撃がはしる。

 走ったその衝撃は痛くはないもの、不思議な感じのもので、それと元に目は開くようになった。

 開けば、座る俺の顔にサラが自分の顔を覗かせていた。

 

「サラ、どうしてここに……」

「………」


 問う俺にサラは何も言わず抱き着く。

 

「お、おい」

「勝手にいかないで。すこしはたよって。ツルギワタシがいないとなにもできないじゃん」

「それは……」


 ああ。

 そういえば、そうだった。

 危機的状況な時は絶対にサラが居た。そして、一人の時は大体こうして失敗して落ちると……。


「………ああ、悪かった」

 

 一人じゃダメなと、思いながらも、俺はそう言いサラを放し周りを見渡す。

 

「ジンは……」

「だいじょうぶ。みちふさいだ」


 言われ、見て見れば、転げて落ちてきた階段は崩れて岩で塞がっている。

 確かに、これなら時間が止められても大丈夫だ。

 上からここまでかなりの深さがあるし、それまでの道が全部塞がっているならそう簡単には道は空けられない。

 それにジンは慢心している、こうして城の地下に閉じ込めた以上他の入口からでも追い詰めようとするだろう。

 まあ、あればの話だが。

 どの道、向こうもさっきのフラッシュは直撃したハズだ。そう素早くは追ってこないだろう。

 とはいえ、これからどうするか。

 できる限り早く行動しないといけないには変わらない。

 

「どうにか外にでないとな。別の入口があるならそっちから攻められる可能性があるし」

「だいじょうぶ」

「なにか方法があるのか?」


 問う俺にサラは頷いた。

 そうして、崩れた入口に差し出す手。

 ?

 不思議に思った次には金のゲートが開かれる。

 それは、以前ダンジョンでマガジンを出していた時と同じもので、それの大きい版。人ひとり通れるぐらいの大きな、金の粒子が渦巻くゲート。それがこうして現れている。

 

「いこ」

「いこって、入れるのか?」


 頷くサラ。

 

 分からないが、サラを信じるしかなさそうだ。

 俺は立ち上がり、差し出された手を繋ぎ共にゲートをくぐったのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る