第37話
コツンコツン――。
地下へと俺が降りる音が城の地下へと響き渡る。
階段を下りた先は真っすぐ伸びる石でできた道で、その左右には鉄格子で仕切られた牢屋。中には誰も入っていないようだったが見張りをしていた兵士だけがいた。
無論、ミスティルテインが消せるのは姿までだ。できるのは光屈折の層さだけに限るのだから、それは当たり前のことで、結果としてそれが原因で一時的にだが見つかることにはなっていた。
とはいえ、姿は見えてないのでバレる前に全員みねうちで気絶させ回っている状況である。
順調に近づいてはいる。そうは思うもののこうして牢に被害者を出して痕跡を残してしまった以上、手早く終わらせないといけない。見張りの交代でも来た時には、ここの牢で八方ふさがりにされかねない状況なのだから。
剣を追い進み気づく兵士たちを倒しながら、俺はその地下の一番奥の扉へとたどり着いた。
そこだけ鉄格子ではなく鉄の扉というVIPな対応だ。
間違いはないだろう。そう確信した時に導の剣はカチャリと力を失い地へ転げ落ちた。そうしてそのまま白の粒子をチラつかせて四散する。
ドンピシャ。
「ソードクリエイト――ティルフィング」
形成したティルフィングを振るい、重そうなずっしりとした鉄の扉を斬り払う。
「よう。生きてるか?」
「へ……」
そこに居たのは紛れもない、シャルロットだった。壁に繋がれたくすんだ鎖に手足を繋がれて壁に手を吊られ、目を瞑っていたシャルロットが俺を見る
その見た目は見るも無残な状況だ。朝みた美しかった衣装はボロボロに、頬や腕、足にはアザだらけ。サラの時に似ていると言えばそうじゃない。
むしろ、それよりも生々しくて見ていられない。
であるのにも関わらず、血を流す口を呆け開け、薄く眺めるその瞳は俺と気づいた時に涙を浮かべるのではなく、彼女は強く俺を睨んでくれていた。
「随分痛めつけられたみたいだな」
「何故来たのですか?」
「何故って……」
ギッと俺を睨む視線が強くなる。
そうして、
「私はそんなこと頼んでいないっ!!っ――ゴホッゴホッ」
裂けんばかり声が地下へと響いた。
幸い、地下の兵士は全滅しているので気づかれなかったが、どうしたというのだろうか。
「お、おい」
突然叫び、むせ返して血反吐を吐く彼女に俺は理解が追い付かなかった。
「私は助けはいらないと言ったのですよ、これは騎士である私の責任だと。あなたは騎士である私の誇りも穢すつもりですかっ!?」
怒っている。
シャルロットは騎士である誇りを侮辱されたと、自分の責務を全うできなかったのだから罰は受けて当たり前、真っすぐにそれを受け入れて生きる。そんな正直もの甚だしい事でも騎士道だと疑わず信じてやまない彼女は、ソレを踏みにじられたのだと俺へと激を飛ばしたのだった。
いや、だとしても。
「だからなんだ?」
「っ――!?なんだって……」
冷めた俺の返しに、シャルロットが信じられないモノを見るかのように俺を見てる。
「見損ないましたよ……。あなたなら剣士として私を誇ってくださると思ったのですが……」
苦しそうにしながらも、憎むような物言い。喋るのだって辛いだろうに彼女はそう俺へと謙遜を向けた。
だが――
「アンタの騎士道なんざ興味ないよ。俺は俺のしたいようにする、それが俺の剣士としてやり方だ。そこにアンタの騎士道が入り込む余地なんてない」
「そうですか……なら、帰ってください……」
この期に及んでまだそんなこというか、この頑固者が。
「断る」
「あなたは私を連れてここから逃げるれるとお思いなのですかッ!?ここにはジンさんがいるっ!!あなただって昼間その身をもってその強さは思い知ったでしょう!!」
「ああ見たが?」
「だったらっ――」
俺の返しにシャルロットはその言葉を言うのを嫌ったのか、小さく。
「逃げるなんて無理なんですよぉ」
泣いている。
俺を睨む反面。瞳からは量頬を伝い涙がこぼれている。
それを見て、俺は正直内心ほっとした。
何だこいつ、やっぱりそうじゃないかと。
だったら、
「騎士なら諦めるな。そうだろ?」
「ですが私は、失態をっ!!」
こいつまだそんなことを。
「ああもう、ごちゃごちゃうるさいなー。黙って俺に助けられてろ。細かい事は此処を逃げ出してから考えればいいじゃないか」
ガキンッとティルフィングでシャルロットをつなぐ鎖を切断して、力なく彼女の吊られた腕は落ちた。
そうして、俺はシャルロットに手を差し伸べる。
「立てるか?」
「ですが私は?」
「立てるか立てないか!?」
「たて…ます……」
そう圧倒されながらも、彼女は俺の手を掴み力を入れて彼女を俺は立ち上がらせた。
御託はいらない。できるかどうかなんてやって見なきゃ分からないんだ。くだらない事を言っている暇があるならまずは前にすすむ。あーあ。結局前となにも変わっちゃいない。
直向に信じてぼうっとして剣道をやり続けた日々と。
そう思いながらも俺は強引にシャルロットの腕を引いて、
「仕方ない」
「えっ!?ちょっと!!」
立ち上がったシャルロットはフラフラだったのを見かね、俺は彼女をお姫様するように抱きかかえた。
「軽い」
「当たり前です!!ってなにやって!?」
そう反発するものの、頬を赤らめながら俺の首へとしっかりと腕はまわしている。
「街を出るまでの辛抱だ黙ってつかまってろよ」
「それは、はい……」
しゅんとおとなしくなり、俺はようやく走りだす。
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます