第34話
大いに賑わうギルドの中で、少しどんちゃん騒ぎを抜け俺は通常時の様に受付をしていたシズネに声をかけた。
「どうされたのですか?」
「いや、訊きたいことがあってな」
はあ?と首を傾げる。
「ダンジョンについてだ。この近辺でダンジョンはあるか?」
「はいそれなら……。少々お待ちくださいませ」
カンターの下を漁り何やら資料をまさぐるシズネ、それからドサッと書類の山を出したと思うと、何枚かペラペラとめくり書類を一枚、これですっと言って手渡してきた。
「南の国境沿いにある森にダンジョンの形跡があり。以後探索を要求……」
読み上げた書類は国の軍からの報告資料だった。
「南の国境沿いって?」
「光女神マリア様が収める神秘の森です。ここは光の国に面した風の国との間の国ですからね」
「ふーん」
光の女神マリアか……。シャルロットが言っていた森は此処のことか……ん?
ここって俺が最初に落ちた場所じゃないか……。
光の女神マリアという女神の敷地なら、なぜティアラがあそこでて来たのかとは思うが、なにか関係でもあるのだろうか……。
「その、光の女神マリアってのは誰かと契約してるのか?」
「契約ですか?」
「ああ。光の女神の救世主」
「あー、いえ。それが居ないのですよ。というより、光の女神マリア様はもう既に存在していないです」
「は?」
言っていることがまるで分からないのだが。
「ツルギさんはこの世界にいらしてどれぐらいなのですか?」
「えっと、1週間ぐらい?」
正確には分からない。
ダンジョンで何回か寝泊まりはしたが、なにぶん地下であったので日付の感覚などなかった。時計も持っていなかったし……。
「では、この世界が今どのような状況にあるのかもご存じではないでしょうか?」
「ああ、そうだな。どういうことだ?」
「そうですね、一から説明すると長くなってしまいますので、端的に言うとこの世界は今危機的状況にあります」
「危機的?なんだ世界の侵略を企む魔王でもいるのか?」
「魔王とは言いませんが、ツルギさんが調べているダンジョン。それが問題なのですよ」
「それはたしか……。ティアラも言っていたな。ダンジョンが現れて周りの生命力みたいなのを吸うんだっけか?」
「はい。ダンジョンが世界を蝕んでいる。その為にツルギさん達、救世主様は女神様に別の世界から呼ばれてダンジョン攻略に詰めると訊きます」
それは、ティアラが言っていたことと大体あってる。
だが、それが光の女神が居ないということとどう関係してくるのか。
「ですが、それもうまくいっていない。
ツルギさんも知っての通り救世主様は一癖も二癖もありまして……」
「まとまりがなくて、ダンジョン攻略が進んでいないと?」
ジンが随分と自由奔放そうな感じだったが、全員あんな感じと……。
ギルドの連中が救世主様と訊いて睨みを利かせてきただけはある。
あるが……。
「結果、今この世界のおそらく半分以上は枯れてしまっている。その枯れた中に、光の国も存在するのですよ。数百年前も昔に」
「でも、それは土地が枯れただけで女神が居ないのとは関係ないんじゃないのか?」
「いえ、通常の女神ならそうです。ただ、元素の7女神様だけは違います。元素の女神様の神力は土地の豊かさと広さに準じています。そのようになっているのは何故だか分からないのですが」
「だから、国土の枯れた光の女神は存在しないと……」
「はい。ですから光の国も光の女神様も、その救世主様も存在しないのです」
なるほど。
大体話は分かった。
だから水の女神ミレアスフィールは躍起になって、異世界人を呼びまくって俺みたいに投げ捨てている。
確かに自分の命が危ないんじゃ、手段は選んでいられないのだろう。
ミレアスフィールもまた水の女神、7女神の一人とシャルロットが言っていた。
だから――と合点は行くが……。
「ダンジョンが現れる原因は分かっていないのか?」
「それですが……。救世主様が女神様から訊いたという話ですが、世界のルールがそうなっているからそうです」
「は?」
そりゃまたよく分からん。
世界のルールって、それを女神様が決める事じゃないのか?
女神っていうんだから、世界をどうこうする力ぐらいあると思うのだが……。
「残念ながらそれ以上のことは分からないのです」
「………」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「いや、大丈夫だ」
考えふけっていると、シズネにスイッチが入りそうだったので俺は手振って礼を言った。
でもまあ、細かい話は置いといて取り合えず次やることは決まったな。
俺が最初に落ちたあの場所、あそこにダンジョンがある訳だ。
「………」
けど、何故だろう?なにかなにか引っかかるのだ。
何か見落としているような……。
「あの……どうされたのでしょうか?また私失敗を?」
「いやいや、気になったことがあっただけだ。それより、もう一つ訊きたいことがあるけどいいか?」
「は、はい。どのようなご用件でしょうか?」
「奴隷はどこで買える?」
「はい?」
今まで俺が訊き返していたが、ここに来てシズネが耳を疑ったのか鳩が豆鉄砲を食ったような顔で始めて俺に訊き返す。
「だから奴隷だ?売ってるんだろ?街で」
「それはそうですが……。奴隷に興味がおありなのですか?」
「悪いけど、この件に関してはあまり詮索はしないでくれ。いいな」
「は、はいいいいっ――」
正直買う気はないが、気になったことがあった程度だ。
とはいえ、妙な誤解もされても困るので、シズネには強く言っておく。
それでスイッチは入ってしまった訳だが……。
「それで?あるのか?」
「はい……。ございますございます。ここから丁度西側に唯一一件だけ」
「そうか、ならそこへ城から奴隷が送られることは?」
「城……へ?」
「いいから」
「はいいい、ごめんなさいごめんなさいっ。まれに、罪人が送られることはありますが、大抵城から奴隷が出た場合、奴隷商に送られる前に貴族が買うことが多いです」
「ということは、そこに売られることはないだろうな」
「はい」
「いやこっちの話だ」
「そうでしたか、はいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。何も聞いてないです何も言ってないです!!ごめんなさいごめんなさい」
あー。
シズネがヒートアップしているが、それはさておき。
売られことはおそらく考えにくい。
ジンが買う見たいなことを言っていたからな。つか、アイツ貴族扱いなのか?
分からないが、どの道売られるのが早いならサッサと行動した方がいい。
できればジンの奴が出てこないうちに。
ダンジョンの位置が分かった以上ギルドにも要はない訳だし……。
動くなら今夜がいいだろう。
問題は、どこにいるかだが……まっ、牢屋にでもいるだろ。
大体そういうのの定番は決まっている。
「さてと。悪いがサラを頼む」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――へ?」
「少し出てくるから、サラを頼む」
「は、はい……」
サラを流石に巻き込むわけにもいかない。
またジンが出てきたと思うと。
昼間のあれじゃあ、……思い出しただけでもむしゃくしゃしてくる。
俺はどんちゃん騒ぎの中にいるサラのことをシズネに頼み一人ギルドを出た。
、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます