第13話

 その現実を突きつけられて俺は、じゃあさっさと済ませるか。

 なんてお気楽な感じでできやしなかった。

 

 よく考えてみろ、自分自身に剣を突き立てるんだぞ?

 そんな自殺同然なこと簡単にできやする訳わけがないだろ。

 

 こんなもの、自分の首筋に包丁を突き立てているのとなんら変わらない。

 真っ当な人間であれば、突き立てたそれを自分から喉元に突き刺すなんて普通出来ないんだ。大抵は、首筋につきたてたとてその時点で、自分自身を殺すことに歯止めがかかるはず。

 想像する予感は、痛い、死ぬ、血が出る。

 生々しいそれは過去の経験から、そうなるという当たり前を知っているからで、そんなことをお構いなしに突き立てた刃をそのまま降ろせる奴なんて、タカが外れているか、元から痛みなんて知らないやからだ。

 

 でも――俺はそんなんじゃない。

 

 ちゃんと、刃物が自分に刺されば斬れるのも知っているし、血が出るのも知っている。それは普通やってはいけない事だと認識していて、死にたいと思ったとしても、自分で自分を殺すなんてことはできないのが真っ当な人間である俺だ。

 

 

「………」



 胸に抱える少女は薄く開ける瞳で俺を見ている。何かを訴えている訳でもなんでもない、ただ見ている。それも正直、生きてるかどうか分からない状態だ。

 だったらどうだと言うのか……。

 知らない女の子の為に、痛い思いをして自分を捧げるのか?バカ言え。

 

 そういう疑問が頭をよぎる。

 

 

 もちろん分かっている。

 あくまでも、ダーインスレイヴの効果は俺の命を奪う訳ではない。ちょっと自分に刺して、ちょっと自分の血を吸わせてその生命力をダーインスレイヴから、少女に移すだけだ。

 

 簡単に行ってしまえそういうことなだけ……

 であるはずなのに……。

 

 それがをしようとすらしない自分がいる。

 さっきまで必死になって駆け寄って、ソードクリエイトもしたとういのに。

 それから、その方法を突きつけられてからこれだ。

 

 知らない子のためにそこまでする必要はないなんて……。

 そうやって、自分を気づつけることに抵抗が生まれてしまっている。

 

 

「なんでだよ……」



 甘く見ていた。

 ゲームと似たような世界。なんであれ女神と表する奴からもらった特別な力。

 それで自分はなんでもできると……異世界だって余裕だって。

 けど、そうじゃない。ここは簡単に生きてくのは難しい。元の世界とはなんら変わらない。

 ただ、自分の条件が変わっただけだった。

 どんなに頑張っても実力がない奴は何も得られないし、こうしてこの少女のように死んでいくだけ。

 世界ってのはそういうのだ、ここも変わらない。

 

 

 けれど……。

 

 

「ははっ……。どうかしてるよなぁ、あーどうかしてる」



 我ながら、ばかばかしくなってくるほどにどうかしてる。

 これだけ自分が傷つくことを、体が否定しながらも、この子を助けたいと思っている自分がいる。

 元の世界で認められなかった自分。それでも剣道を続けて形は違えどVRゲームで剣で一番になれたこと。

 それを思い返すと、

 

「ほんと、つくづく負けず嫌いだよな、俺……」



 ダーインスレイヴを握る手に力を込める。

 あー、もちろん痛いのはいやだ。いやださ。

 

 けど、途中でやめる自分なんてもっと嫌だ。

 剣だってそうだ、レギュラーに慣れなくてもずっと続けてきたから今の自分がいる。ゲームでトップになれた自分がいる。

 正直それで自分がすごいなんていう自信はないし、続けてきたからどうとういうこともない。

 

 ただ――嫌なんだ。途中で投げ出すなんて。やったからには最後までやり通すそれが俺だ。

 

 だったら、答えなんてはなから決まっている。

 最初にこの子を見つけた時点で、過程なんてどうだってよかったんだ。

 助ける。

 そういう一つのことをやり遂げるまで、多分俺は決してやめれない。

 

 だから――

 

 

 振り上げた、ダーインスレイヴの刃を自分の首筋に立てその気持ちに覚悟を決める。

 

 見落とした少女の瞳は悲し気で、俺を見つめている。

 そんな悲しい表情と無慈悲な現実が嫌で嫌で。

 

 

 心臓は張り裂けそうなぐらい鼓動して、胃がねじれ吐きそうになって、カタカタと腕が震えながらも、俺は強引にその顔の笑顔が見たくて、首筋に立てた刃を己が肉へ食い込ませた。

 

 



「はあ……」



 俺は役目を終えたダーインスレイヴを放り投げた。

 正直、できることなら二度とこんなことはしたくない。命がいくつあっても足りる気がしない。

 

 ただ、

 結果として――

 俺は自分の首を裂いて、そこから流れた大量の血をダーインスレイヴに捧げた。

 捧げた血は生命力として一時的にダーインスレイヴに宿り、それを強引に少女へとその生命力を流した。

 そう強引に。もともと正規な使い方じゃない。吸った生命力をダーインスレイヴから抜くなどよういにできることじゃないんだ。

 それでも、大量の血と魔力を使いソレを成した。

 

 正直言って、死にかけだ。

 傷口は剣の力でふさいだとは言え、抜いた血はギリギリで魔力もハッキリ言ってもう残っていない。

 けれど、一安心だ。

 

 傷まるけでボロボロだった体は全ての傷を癒し、汚れの無い綺麗なものになり、髪も透き通るような美しい銀へ。

 枯れた唇は潤い肌も柔らかなハリのあるものに戻っている。

 

 膝の上に横たわるボロボロだった少女は、もう、死にかけではない。

 今は、疲れたのか静かに吐息を立て眠っている。

 

 正直すごく美形だ。

 そっちの気ではないと思ったが……。そうでなくても好きになってしまいそうなぐらい綺麗。

 まあ、死ぬような思いをして身を削ったんだ、正直そんな気になっても悪い気はしない。

 とはいえ――。

 

 

「流石に血を抜き過ぎた……」



 重たい体を壁に持たれさせ目を瞑る。

 寝たら死ぬとかないよな……、などと思うも。

 体は睡眠を欲して、意識は落ちていく。

 

 

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