第12話

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 そうして――たどり着いたのは大きな吹き抜けだった。

 

 なんだここは……。

 

 吹き抜けは野球場かと言うぐらい円形の広く大きな空間。

 全体が石のレンガ作りで、中心に行くにつれて下向きに緩やかに高低差があり、今までの場所よりも明らかに整備された場所だった。正面には先に進む道だろう天井まで伸びる両開きの扉がある。

 ただ、奇妙なのが――部屋の壁。

 縦に並んだ鉄格子で柵と仕切られ、いくつもの小部屋が区切られている。なんというか……牢屋が並んでいる?

 仄暗く、しっかりとは確認できないが、人はいないようではある。

 

 それにしても、奇妙だ。

 これまで意思を持った人のようなモノには会っていない。全てがただの魔物だ。ここが盗賊か何かのアジトならばこういうシロモノがあるのもなんとなく分からないこともないが、ダンジョンだぞ?

 それも魔物しかいないような。

 

 牢屋って言うのは、何かを捕まえて閉じ込めて閉じ込めておくためにあるモノだ。それが明確な知性が無い魔物だけのダンジョンにあるか?

 ………。

 普通はない。

 というより、ある必要がない。知性が無い以上、捕まえてどうこうするということはないのだから。

 それに、これだけの人口的な建物。

 

 今まであまりしっかりとは考えてはいなかったが、やはりこのダンジョンの主、もしくは創生者は何らかの知性を持った者だろう。

 まあ、当たり前のことだが……。

 

 それが人か神か……はたまた魔物のようなモノなのか。今の俺にはそれを知るすべはない。

 とはいえ……人を捕まえる意味はあるのだろうか……。

 

 ダメだ……メンドクサイ。分からないことが多すぎる。

 

 

 と……、外堀に沿うように牢を確認しながら先の扉に向かって進んでいると牢に人影を一つ見つける。

 

 正直、それは最初人なのか疑った……疑ったが……。

 

 

「これは……大丈夫か!?」



 そこには、首と腕を錠で繋がれた薄汚れた白いワンピース姿の銀髪の少女が、ぼろ雑巾のように壁に持たれかかっていた。

 俺は慌てて鉄格子の少女に一番近い場所に行き、その様子を伺う。

 

 意識はないのか、目を瞑っている。

 

 

「待ってろ」



 キーン!!

 カランカラン――。



 慌てて着火したクラウ・ソラスで鉄格子を横に切り開き、そのまま牢の中へ行き少女壁に繋がれた手錠の鎖を叩き切った。クラウ・ソラスを地に差し付け、倒れた少女を抱き上げる。

 


「ん……」


 意識はあるのか、薄く少女の瞳は開き俺を見る。


 

 見た目、10、11歳ほどの小さな少女だ。

 髪は腰ほどまでの長さの元は美しいのだろううす汚れてしまった銀、薄く俺を見る瞳は左右非対の色をしていて、右は水銀のようなうるんだ銀の瞳、左は荒んだ空のような蒼だ。その瞳から明らかに衰弱しているのは分かる。

 どうにかしないと……。このままだとおそらく……。

 

 そんな見るからに危険な状態である、枯れた彼女の唇が小さく開き抜けた声が一つ。

 

「おみず……」

「水!?まってろ――」



 聞こえた声に俺は慌てて、水をどうするか考える。

 無論、今の手持ちに水などない。

 水の魔法で水を出すみたいなことが、この世界ならシャルロットが雷を出してたぐらいなのでおそらく可能なのだろうが、俺はそのすべを知らない。

 ……いや、まて――。

 

 

「ソードクリエイト――ガラス瓶」



 手を前に突き出し、軽く握りイメージして形成する。

 

 

「いけた」

 

 

 形成したのは、ガラスの剣。正確には短剣の形を模ったガラスの器。

 刃を模ってはいるが、直接的に物を斬る切れ味はない。言うならばただの造形にすぎない。

 それには水が入っていて、俺は柄の先についているガラスの蓋を素早く抜き取り、抱き上げている少女の唇にあてゆっくり水を微量流した。

 

 小さくだがゆっくりを一口に見込む。

 

 

「………だれ……」


 虚空を見つめるような、放心した瞳が俺を見て、擦れた声が問う。

 

 

「俺か?俺はツルギだ。ツルギ」

「ツル…ギ……」



 擦れ囁くよりも小さな声。このままじゃ死んでしまう。自然と俺はそう感じた。こんなこと、こんなこと。

 目の前で人が死にそうになっているなんて見るの初めて、でどうすればいいのか頭は回らない。

 クソッ……。

 

 なにか、なにかないのか……回復……。

 ハッ――!?

 そうか……。

 魔法なんて使えないし、ここには薬はない。

 けど――水が出せたんだ。

 

 死にそうな命を救う剣、そう願えば……。

 ガラス瓶を壁に掛けかけ再び俺は手を突き出し、軽く握り――

 

「ソードクリエイト――ダーインスレイヴ」


 形成するは漆黒の陰のような真っすぐ伸びる長剣。刃も鍔も柄も真っ黒で炭でできているような剣。全ての光は一切反射せずその身は光の反射率は一切ない。

 ではその素材はなにかだが、すべて人の生き血でできている。生き血をすすりソレを固め、とある王国の魔法術式によってそれらを源してその形を成している。

 斬った者の血液と所有者の血液を常にすすりその生命力を媒介にして切れ味とする。悪魔の魔剣。

 

 だが、生命力をすすりそれを切れ味とするならば、ただ悪魔の魔剣という使い方以外にも、もう一つの使い道もある。

 

 

 でも……これ……。

 

 

 どこか遠い詩人の言葉。それがこの剣のもう一つの使い方と共に俺に流れこんできた。

 『死ぬはずの人一人の命を救うんだ、軽くないハズがないだろう?』

 

 

 あー、ごもっともだ……。

 当たり前すぎて反論のしようがない。

 正直、甘く見ていた。この力は万能でなんだってできる。今まで何回か実験的にソードクリエイトがどこまで何ができるか試してきたが、ここにきてその力に限界があることを知る。

 いや――限界はおそらくないのだろう。

 ただ、条件があるということだ。

 何かを得るには何かを犠牲にする。

 例えば今までならば、魔力。ソードクリエイトによって剣を生成するために必要な魔力を贄とする、正直それは俺にどれだけ備わっているか分からないし、全て使いつくすと何が起きるかは分からない。おそらくは体感から体力尽きて気絶だとは思うが、所詮はそのレベルだ。

 けど――そこから分かるのは結果的に俺ができるのは剣を作るということだけに他ならない。

 いくら魔力を消費したところで、剣自体は全て"この世に実在する"ものでしかありえない。

 それがどこまでの話かは分からない。この世界のみなのかはたまた異世界を含むのか。

 もしくは、俺の力量に見合ったものなのか。

 

 だが、結果として生み出されるのは剣だということだ。

 剣はあくまでも何かを斬る為にある。

 それはどんな形やモノになっても変わらない。

 であれば、こうも言えるのではないだろうか?

 剣ではけして命は直接は救えない。

 例えできたとしてもそれは、何か間に一段階挟む必要があると。

 

 剣はあくまでも切るものなのだから。死を斬る剣を生成しない限り、使者を無尽蔵に生き返らせるのは不可能。

 だから――

 

 

「ソードクリエイト!!」



 ………。

 

 

 それは、今の俺には生み出せないということだ。

 何が原因なのか分からない。

 死を斬る剣とイメージしたところで、いつものようにその剣の理が自分へ流れてくることもない。

 

 不可能。

 

 だからなのか、俺の手にできたのは、目的に至るまでの欠陥品。

 ダーインスレイヴ。

 

 もう一つの使い方。それは――自身に串刺し、命を分け与えるということに他ならなかった。

 

 

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