第3話
◇
「なるほど。ミレアスフィールに捨てられたのね」
「知っているのか?」
「ええ、もちろん」
全て話すと、何か納得したようにティアラはうんうんとうなずいた。
「ミレアスフィール。元素の女神の一人。水の女神は開祖の女神。この世界に居る旧世界時代よりこの世界つくった七柱の内の一つ。力は偉大だからね。あちこちから色んな人間を異世界転移させている」
「そのうちの一人が俺な訳か……。でもなんでそんな転生させてるんだ?」
「それは……この世界は今危機にあるから。って言ってもこの世界だけじゃないけど……。この世界のいたるところに現れる魔物の巣。ダンジョンってのがあるんだけど、ソレをそのまま放置しておくと、その周りの物は全部枯れるんだよね。ダンジョンが周りの生命力を吸って。
そのまま放置すればその土地は全部灰にになって魔物以外住めない場所になる。いや――どうだろう?魔物すらすめなくなるんじゃないかな?
だから、ミレアスフィール達女神はいま躍起になってこの世界を守る為に異世界から人を転移と転生させている。ダンジョンに対抗するためにね。その為に強い人間以外は必要ない。キミみたいに何も能力もなければ、基本能力もたいして高くない人は適当にその辺にぽいって捨てる訳だ」
酷い話だ……。
まあ、それを俺がされた訳だが……。
「一応聞いておくけど、捨てられた転移者というか、俺はこれからどうなる?」
「んー。このまま森を出ようとして魔物のと遭遇して食べられるか。もし仮に、運よく街に付いたとしてもすっごい苦労するんだじゃない?」
まあ、だろうな……。
「そこで、交渉なんだけど。一ついいかな?」
「交渉?」
この期に及んで、俺をまだ何か不幸な目にあわすんじゃないだろうな……。
「そう、交渉。等価交換のね」
「何を?」
なんというか、もうどうでもよくなってきていた。どうにでもなれと、こうして異世界に飛ばされてどうしようもない状況で。
なにか同等に交渉ができるなら正直、断る理由なんてない。
ただ、俺にどうしろと言うのか?
「内容は簡単♪お姉さんとキミが契約するの。転移転生者はワタシ達と契約して力を得ることができる。本来ならキミがミレアスフィールと契約してその加護をもらうのが正しいんだけど、捨てられちゃったからね。
そこでお姉さんですよ!!お姉さんは見ての通りはぐれ女神、はぐれてるけど女神ってことは契約もできちゃう。
で、キミはお姉さんと契約してその代わりにダンジョンを攻略する。まず手始めにここからすぐそこにある、最近発生した厄災のダンジョンを潰してきて欲しいかな。どう?」
そう提案するティアラに何かしら俺をハメようという意図は感じられない。
まあ、俺には多分選択肢はないけれど。
けれど、ふと一つ疑問が浮かぶ。
ティアラ達女神はそれなりに何かしらの神秘的な力を持っているはずだ。それも他の世界からこの世界に人間を呼べるぐらいだ。
それを仮に魔法と呼ぶのであれば、彼女達はその力をもっと攻撃的なのに変えて自分たちでダンジョン攻略ようとは考えないのだろうか?
「一つ訊きいていいか?」
「なんなりと」
「どうしてアンタ達は自分でそのダンジョンを攻略しようとしない」
「ん~」
問いかけた質問に、ティアラは唸りながら悩み始めた。
「それができたらワタシは女神をしていないかな。残念なことに女神も万能じゃない。この世界にワタシたち女神は直接干渉できないんだ。ほら――」
「―――っ!?」
そう言って俺の胸に突き出した右手は俺の胸をすけ、突き抜る。
それはつまり――幽霊のようにティアラは実体を持っていないということだった。
そして、すり抜けた手を引き抜いて、ほら?とティアラは肩をすくめて微笑む。
「なるほど」
経緯はどうあれ、自分たちは見ているだけで直接手は出せないと……。
だから異世界から召喚して、自分たちの代わりにダンジョン攻略を刺せているのか……。
「大体わかったよ」
「ホント?」
「大体ね。どっちにしろ俺に選択肢はないでしょ?」
「へー。案外すんなり受け入れる派なんだね、お姉さんびっくり」
「別に。ダンジョン攻略なら慣れてるから」
「ゲームで?」
「ああ――」
って――俺、ゲームのことは話してないんだけど、どうしてそれを?
まさか、やはりだましている?
「あっ、ごめんごめんさっき手をキミの体に刺した時にちょこーっと記憶を見させてもらったから。お姉さんもキミと同じで意外と疑い深いからね。でも――それで確証は持てた。うん、キミなら任せられる。あながちキミのゲームの中の経験は役に立たない訳じゃない。なにせ世界が世界だからね、似通ってる。
それに、ワタシはキミの性格に興味持ったかな。そーいう平常心を装って頭の中で考えて立ち回るのは嫌いじゃない。
まっ、経緯はどうあれキミはワタシを呼んだ、そこの墓に触れてね。
それがたまたまでも、ワタシは自分の意志で顕現できないからキミがやったことは意外とすごいことだよ。使えないゴミじゃないってこと。
だから、本当に契約していい?」
それは彼女からの最終確認。
正直、俺の記憶を見てその性格がどうたら言うなら、そんな質問などしなくても答えは分かっているだろうに……。
その上で、訊いているのであれば、性格が悪いのか、女神様の最後の思いやりなのか……。
結局――話を訊いても俺の結論は変わらなかった。
なんというか、面倒なことに巻き込まれてしまった……。そうクールならなければ、高ぶりとこの緊張感は抑えられない。
けれど、もし……本当に、ゲームじゃない現実であのゲームのように強くてカッコイイ剣士になれたならば……。仮想でしかなかった理想。それが現実のものになる可能性があるなら。
迷う理由などありはしない。
「契約してくれ」
「了解」
そう言って微笑むと、ティアラは右腕を振り払う。
そして――その振り払った手には、黄金の粒子と共に一振りの剣が顕現する。
宝剣。とでも言おうか。
長い銀の刃に金のエメラルドグリーンの宝石で飾った鍔。柄は灰色でその先端には金の装飾が施されている。
どこかの城に宝剣として飾られていてもおかしくもない。金と銀に光を返す美しい剣だ。
それを、ティアラは横向きに両手で持ち、まるで王に忠誠を誓う騎士の如く跪き頭を下げ、その剣をオレへ捧げた。
「えっと……」
突然のティアラの行動に俺は戸惑う。
いきなり、しかも美人な女神様に損なことをされて、正直なにが何なのか分からない。
そこに、ティアラ頭を下げたまま。
「取って」
「あ、ああ……」
戸惑いながらも、言われるまま俺は剣の柄を握りその剣を手に取った。
これは……。
まず最初に感じたのは軽い。ということだ。
宝のように光を照らす金属の剣は、見るからに重装感をもっていたが、これと言った重さを感じない。さながら、発泡スチロールでも持っているかのような。
体の一部にでもなっているようだ。
でも、これが一体どういう。
「これで契約完了」
いつの間にか立ち上がっていたティアラがハニカム。
「これで?」
いや、剣を渡しただけだろう。
それに、何か俺に力が『宿った』みたいな感じもない。
大丈夫だろうかこの女神。今更だが、詐欺られた気がしてたまらない。
「あー疑ってる~」
疑いのまなざしをいつの間にか送っていたのか、ティアラふくれっ面になる。
「疑うのもまあ仕方ないか」
膨れた頬を戻し、小さくため息をすると真剣な顔にティアラはなる。
「女神の契約方法は色々あるけど、今のワタシは剣の女神。ならその契約の仕方も剣の受け継ぎによるものだよ。聖剣ティルウィング――浄化と願いの対魔の剣……」
そう言って、剣の刃に指をティアラは触れるとは剣は黄金の鱗粉となり塵尻になり、俺を優しく包むようにして四散した。
「これは……」
今ので、不思議と何かが宿った気もした。
胸の奥に何かを感じる。暖かい。なにか……。
「キミの中にワタシの力を溶けさせた。これでワタシの力を使えると思う。あとは――キミ次第かな?
じゃあ、これで正式な契約は終わりだ。んじゃ、まずは練習」
「は?」
ティアラがは俺から離れていく。
そうして――数メートル距離を取ると、優雅に微笑む。
次の瞬間。
ドドドドド――――!!
地震!?
途端、激しい地響きが鳴り響き、大地が揺れる、その揺れはすさまじく立っていない程で、同時に。
眼の前の大地が裂けると、
ズドーンッ!!
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