第2話

 再び目を覚ませば、目の前に広がるのは見知らぬ空だった。

 木が生い茂り、空を隠れるかどうかのぐらいまでの森の吹き抜け。小さな泉と大樹の生える広い場所で、仰向けに寝転がっていた。

 

 さっきのは夢だったのだろうかか……。

 ゲームの中へ戻って来た。

 そう思い視界の節々を見るも、本来なら見ているはずのウィンドなどのUIは存在しない。それに――、


 

「いたい…‥」



 頬をつねり感じた痛みは間違いなくリアル。夢の中でもなければゲームの中でもなかった。

 であれば、ここは?

 

 ――異世界。

 そう頭によぎった。

 あの女神が言った、異世界から召喚した。それが本当ならばここは異世界ということになる。

 

 

「はあ……」



 一つ。冷静に深呼吸をして辺りを見渡す。

 木々に囲まれた吹き抜け。小さな泉に大樹とところどころ人工物のような石が積みあがっている。ただ、それらは崩れていて――ということはどこかの遺跡かなにか?

 

 ………って。

 

 

「マジかあああああああああああああああああああああああッ!!」



 あまりのことに冷静になったが、現実を見てありえない現実に俺はこらえようのない戸惑いを全て叫び飛ばした。

 

 

 これからどうしろって言うんだ?帰る方法は?

 あの女神が言うことが本当ならば、そんなものはない。

 いや、それ以前に見ず知らずの森に頬り出されて、どうしろと言うのだ……。

 

 くそっ……。

 

 さっきまで、剣を振るいダンジョンを攻略してハズなのに……。

 せめて、剣があれば……。

 見るからにファンタジー溢れる世界。VRの世界とここがマッチしているならゲーム上での俺を模範すればいい。あくまで、ゲームと同じならならばだが……。

 

 心なしか、身体的にも高校生ぐらいの時の活力にあふれているような気がするし。

 まあ今は、そういう都合がいい事であると祈るしかない。



「とにかく、街とか人が居る場所に行かないと……」



 こんな森に一人は絶対に危険だ。

 そう思って、俺は周りを探索することにした。

 辺りを再度詳しく見渡し……。

 

 ん?

 

 見渡して、あるモノを見つけた。

 遺跡の残骸の中、大樹の根元にあるそれは――碑石?女神の神の領域にもあったものとおそらくは同じモノ。

 崩れボロボロになっているものの確かに同じものだった。

 

 近づいて、しゃがんで見てみるも、何か書かれているようだが損傷が激しく無横とはできない。そもそも異国のよく分からない文字なのに……。読み取れたのはただ一言――

 

 

「黄金の剣姫ここに眠る」

 

 

 誰かの墓?

 

 

 そう思いながら不意に手が碑石に触れた時だった。

 

 

「なんだ?」



 碑石は黄金色に輝き出して、その光は立ち上り瞬くと、碑石の上に一人の女性が現れた。

 

 

「まさかここに呼ばれるなんてね。こんにちは!」

「へ……?」



 ウエディングドレスのような真っ白のドレスに銀の防具がついたそんな恰好。白のブーケから垂れるのは真っ黒なツヤのある肩までの黒髪。金のつり目は和らいで、17,18歳、程の彼女は薄紅色の唇を微笑ませて、陽気に俺に挨拶をして宙からゆっくりと舞い降りると地に足をついた。

 

 

「いやはや――どうも。お姉さんは剣の女神ティアラ。呼んだのはキミ?」

「えっと、いや……」

「違う?なら……ん~。キミしかいないよ?」



 ティアラと名乗った彼女は辺りを見渡すと、首をかしげてみせる。

 次から次へと一体なんだ……。

 今の起きていることに圧倒されながらも、冷静になり立ち上がる。

 

 

「呼んだかどうかしらないけど、ここには多分俺しかいない」

「じゃあ、やっぱキミだね」

「いや、そもそも誰?」

「誰とはひど~い。言ったでしょ。剣の女神ティアラ。あなたは?」

「俺は、新道ツルギ」

「ふーん」

「なに?」



 ジロジロと上から下まで舐めまわすように観察される。

 なんだろうか……。

 

 それより。

 女神?であれば、ここから帰る方法も知っているのでは……。

 

 

「なあ、アンタ女神なら俺を元の世界に戻せないか?」

「ん~むり!」

「即答か……」

「残念な事に、お姉さんには人を異世界から転移させる力もなければ異世界に転移させる力もない。女神って言っても形だけだからね。ていうかさ、何があったの?」

「なにって……」



 突然出てきておいてなにも知らないのか……。

 いや――俺に呼ばれたと言っていたから、そもそも俺が何者なのかここにいる経緯は知らないのだろう。

 様子からして、なにか隠している様子もない。

 なら、本当に無理なのか……。

 

 取り合えず、俺はティアラにこれまでの短い敬経緯を話すことにした。

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