嫌な予感…

最初の寄港地、鹿児島では地元の方達の温かい歓迎を受け、桜島の雄大な景色を楽しみ、ここまでは順調なクルーズでした。


しかし、乗船客達の間で最初の不安が広がったのは、次の寄港地の香港に到着した時でした。


香港市民のほぼ全員と言っても差し支えないくらい、誰もがマスクをし、電車の車内テレビでは新型コロナウィルスに関係するニュースばかりが、何度も何度も繰り返し流れていました。


想像していた以上の街の緊迫した様子が、観光客である私たちにも伝わってきたため、香港で予定していた観光をキャンセルし、避難するように船へと戻ってきました。


より不安な気持ちが高まったのは、船へ戻る際に、『中華人民共和国』のパスポートを持った人達が大勢、ダイヤモンドプリンセスへの乗船手続きを行っているのを目にした時でした。


普段でしたら全く気にならないのですが、この時はさすがに日本人乗船客の間でも、「大丈夫だろうか…」と心配する声があちこちで聞かれました。


一抹の不安を抱えながらも、船は次の寄港地のベトナム、台湾へと航海を続け、最終寄港地の沖縄へと到着しました。


沖縄に着いた時点で、船側は新型コロナウイルス陽性患者が乗船していた事を把握していたようですが、乗船客の私たちは知らされていませんでした。


沖縄の入国審査も、いつもならすんなりと出来るのですが、この日は、

『最近、武漢に行った事があるか?』

という質問と、センサーによる体温チェックが行われました。


これらは非常に時間がかかり、審査を終えて那覇の街へと着いた時には既にどこのお店も閉まっていて、観光も出来ずに、ドラッグストアでマスクだけ買って船へと戻りました。


実はこの時既に、この船の運命を決定づける重大な出来事が起きていたのです。

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