その一 明け休み

 21世紀から発展したAI技術は同世紀末には『人間』……ホモ・サピエンス種と遜色ないほどの知性を発揮するようになり、彼らは『ロボット』として様々な職業、特に危険な作業や不衛生な現場。所謂「3K」の職場で運用されるようになりその数を増やしていった。

 それに反比例するかのように『人間』は21世紀を境に徐々にその数を減らしていき、22世の中頃には40億人を切るまでになっていた。

 国連はこの事態に対し、『人類』の定義を更新することを発表。今まで『ロボット』と呼ばれていた物を『機械生命体アンドロイド』と正式に命名。人類の種族の一つとした。

 これにより機械生命体アンドロイドの他、事故や病気で体内の一部を機械等によって補った人間を『義体化人間サイボーグ』とし、彼らは人間と同じ人権を持つこととなった。

 しかし、機械生命体を『人間』として認めた場合老朽化による損耗。メーカーでのパーツ生産終了等様々な機械ならではの問題は別の意味をもつようになった。彼らが『機械』であるのなら『破棄』『分解』といった処理で済んだのだが『人権』が認められたことにより、そうした行いは『殺人』となる。

 ならば、彼らが自然に動作を停止、即ち死を迎えるまでの場所を。ということで設立されたのが『国立機械生命体養護老人センター』である。

「なるほどねえ……」

 夜勤明けの次の日。休日の夜に俺は1Kの間取りになっているアパートのベッドに仰向けになりながら、眼鏡を通してAR表示されたテキストを眺める。

大学を出てから、この職場に就職したのは成り行きだ。

 別に、介護の仕事がしたかったわけじゃない。

 自分で言うのもなんだが、これでも必死に就職活動をしてきたつもりだ。

 だが、内定を取った会社が入社日の前日にペーパー会社だったことが発覚。面接を受けた建物もホログラムで外装から内装まで綺麗に見せただけのハリボテだった、と分かった。

これが、三カ月前の出来事。

失意に暮れる中、たまたま目に入ったのがこの仕事だったというだけ。

そのままオンラインで履歴書を提出し、AIが書類審査を行い数分で面接。そのまま就職が決まった。それだけの話だった。

「唯のAIと機械生命体アンドロイドの違い……ってなんだろ」

身体の有無?とか思っているとテキストの文字が目に入る。

現代では限定的用途かつ合理性のみを追求した人工知能をAIと呼び、自ら思考し、自己発展、単一での自己進化を繰り返す自己学習型AIを機械生命体アンドロイド、と定義している。

「……なるほどねえ」

 少しだけ。分かってきたかもしれない。

 就職してからの3カ月、当たり前だが人間の介護だってしたことないのにいきなり機械の介護をすることになるなんて思わなかった。

おっと。介護、ってのも違うんだっけ。

 介護と養護の違い。簡単に言ってしまえば『こちらの援助なしにどこまで出来るのか』の違いだ。

養護、というのはある程度自分で何でもこなせるだけの能力を有している人。介護、というのはこちらで何らかの手助けをする必要がある人、だと確か教えられた気がする。

俺が居る施設は機械生命体養護老人センターなので、ある程度自分たちで出来る人の集まりということになる。

「やべっ。明日早番じゃん」

 シフトと時間を確認し、眼鏡を外す。AR表示されていたデータが消え去り視界の情報量が一気に減る。

「ふぁ……」

 普段あまりしない勉強をしたせいかすぐに眠気が訪れた。

 明日は平和に過ごせますように。

 そんな無駄な願い事をして、俺は夢へと落ちていった。

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