七月一日
その二 早番出勤
「おはようございまーす」
「はいおはよう」
「おはよっす」
早番で出勤した俺を迎えてくれたのは、中村さんという
「何か変わったことありました?」
デスクトップPCから援助記録のソフトを立ち上げながら中村さんに尋ねる。
「辻井さん含めていつも通りよ」
苦笑いするような口調で石井さんはふくよかな顔に手を当てて言う。
確かに記録を見ると、相変わらず夜間の起床が多い。
「俺、あんま詳しくないんですけど、
俺の疑問に石井さんが首を捻る。
「うーんほら。
「それって所謂『ボケてきた』ってやつですか?」
「まあ簡単に言うとそうなんだけどね」
苦笑する石井さんに中村さんが補足をする。
「アルツハイマー型認知症は『記憶や思考能力がゆっくりと障害され、最終的には日常生活の最も単純な作業を行う能力さえも失われる病気』というのが
中村さんはホログラムキーボードをタイプすると詳しい症例やらを記したインターネット上のアドレスを送信してきたので、ARディスプレイ上でざっくりと斜め読みする。
「症状としては分かりますけど……」
「そうですね……。
それはそうだ。と俺は頷く。
「
ここまでは良いですか?と中村さんが尋ねるのでうんうんと頷く。
「ところが
「分かったような分からないような……。でもそれってなんか悲しいというかなんか、歪みみたいなものを感じません?」
「バックアップからの復元、という手法は機械生命の尊厳を踏み躙る行為だー、なんて活動が昔あったらしくて。それ以来『一個の生命』として
あぁ、なんか歴史かなんかでそんなのを習ったような気がする……。
「まあ知識は知識。経験は経験、てね。接してる内にその辺は追々分かるわよ」
石井さんがふわぁ、とあくびをする。
「おはようございまーす」
同じく早番の椎名さんが支援員室へ入ってくると三人で挨拶をする。
「何の話してたの?」
「ちょっとお勉強を教えてたの」
椎名さんの疑問に石井さんが笑って答える。
「おっ。いいねえ勉強熱心で。期待してるよ」
はっはっは、と豪快に笑いながら背中をバシバシと叩いてくる。結構痛いんですけど……。
「まっ、知識もいいけど経験もね。頑張れ青年」
それもう石井さんが言いましたよ、と中村さんが言うと椎名さんあちゃー、と大袈裟気味に手で顔を覆う。
「被っちゃったかー。あ、記録、読み終わったら私も見るから閉じないでそのままにしといてね」
そう言うと椎名さんは支援員室の奥にあるカーテンで仕切られたロッカールームへ消えていく。
さあ、ぼちぼちお仕事開始と行きますか。
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