6-2
一度だけ、東京の友達からメールが来た。
元気?
内容はそれだけだった。美里は頭に来て、すぐにメールを削除した。
でも、返していたらどうだっただろう。
その次のメールに、彼女はほんとに書きたいことが書けたかもしれない。
「謝りたいんですけどね、そんなチャンス、なかなかないんですよ」
猪塚のさきほどの言葉が頭に浮かんだ。
彼女は謝りたかったのだろうか?
からかわれてると思った自分は狭量だったのか?
疑問がぐるぐると頭の中を回りはじめる。
「続き、話していいですか?」
東京時代のことをこんなに誰かに話すのは初めてだった。
両親も叔母も強くは踏み込んでこない。
それをいいことに自分は口をつぐんでいた。
誰かに聞いてもらいたいと思うころには、周囲はもうそのことに関心を失っていた。そういうものだ。
「それで、ひきこもったんです」
「へえ」
猪塚のリアクションは薄い。どこかからたまたま流れてくるラジオを聴いているような態度だ。
でも、それがまたいいと思った。
重たいこととして受け取られて、わかったふりをされたり、同情されたりしたら最悪だ。
勝手に自分語りをしておいて、リアクションにまで制限をつけるのはどうかと思うが。
「バイトをする気もなくって、そのうち借金までしちゃって。馬鹿ですよね~。たったあれだけのことで、堕ちる堕ちる」
猪塚が吹きだす。
「あ、いや、失礼」
「おかしいですよね」
美里も笑った。
「いえ、そんなことは。美里さんの言い方がおもしろかったから。ごめんなさい」
「いいえ。笑ってほしかったんです。シリアスになってほしくないし。だから、猪塚さんのリアクションが正しいんです」
「そう、ですか」
「それで、ついに田舎に強制送還です。以上、私のトウキョウ物語でした。ちゃん、ちゃん」
猪塚がハンドルを回す。二人が乗った車が、カーブを曲がる。
山々の間から、海がちらちらと見えた。
また、猪塚がハンドルをきる。
カーブを曲がった瞬間、海が大きく見えた。
海だ。
美里は目の前の光景に一瞬で心を奪われた。
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