5-3
トイレに起きると、役場に出かける父と出くわした。
若いのにプー太郎で好きなだけ惰眠を貪っている娘と、子供を育てあげたのに出戻られてしまいまだまだ働かないといけなくなってしまった父親。
恥ずかしいやら、情けないやら、申し訳ないやら、何か言われないかとひやひやするやら、朝から非常に体に悪い。
それでもなんとか、口を開く。
「いってらっしゃい」
父の少し丸くなった背中に投げかける。
「ああ、行ってきます」
父はいつもの平坦な口調で答えた。
「何? 美里、もう起きてきたの? 今日は早いわね」
いつのまにかそばに来ていた母が早口でまくしたてる。
「いや、トイレ。おしっこしたら、また寝る」
「あっそ。お父さーん、お弁当、忘れてますよー」
母が父の背を追い、玄関から出ていく。
朝から仲がいい。
子供の頃はバカにしていた風景だ。
でも、今は二人が羨ましい。
自分には二人のような安定した人生を築き上げる自信がない。
誰かと出会い、つがい、子をなし、育て上げる。
それらを成し遂げた後も離れず、添い続ける。
そんな壮大なことが自分にはできるのだろうか。
母が父に弁当を渡し、玄関に戻ってくるまで、私はぼーっとそんなことを考えていた。
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